自分の気持ちがわからない



お泊まり中、山岳とキスをしたのは初日のあの時だけだった。
山岳の不安そうな表情、ギラついた視線、苦しそうな吐息、唇以外からも伝わる熱。
すべて、忘れられるわけなんてなかった。
湊はあの日以来、無意識に自分の唇を触るようになっていた。

「湊さ、欲求不満なの?」
『へ?』
「ほら、唇触ってるからそうなのかなーって」
『ち、ちがうよ!』

ニヤニヤと湊を見るりつ。
湊は顔を赤くして否定をしたが、りつはニヤっと笑ったままだった。

「それでー?」
『え、なに?』
「真波王子とは付き合ったの?」
『付き合ってないよ。というか王子ってなに』
「あれ?知らないの?1年女子の中では真波の事、王子様って言ってる子多いよ?」
『ええっ!?王子様って』
「爽やかなイケメンで体も引き締まってる!何を考えてるか分からないミステリアスな天然王子様!って言ってるの聞いたことあるよ」
『どう考えてもロードと山の事しか考えてないでしょ』
「それは言えてる!さっすが幼馴染!」
『幼馴染じゃなくてもわかる人はわかると思うけど』
「そんな真波王子様はさ!呼ばれ方の通りモテモテなわけよ!」
『うん』
「うかうかしてたら取られちゃうよー」
『取られるって…』
「C組のあの可愛いで有名な子も狙ってるみたいだよ」
『へ、へえ、そうなんだ』

ああ、あの子か。と名前を出さなくてもわかるくらい、可愛らしい顔立ちの女子も狙っているのかと思うとチクリと胸が痛んだ。
今は幼馴染という立ち位置があるから繋がってるだけで、その関係が崩れるときっともう視界にすら入らなくなってしまう。
山岳に大切な人ができちゃうと、きっと私の今のポジションは大切な人にとっては邪魔になる。
ましてや山岳の気まぐれでキスをしてしまった仲だ。
私は邪魔で仕方ない。
そうなると離れざるを得ない。
グルグルとネガティブな考えが浮かんでは消えた。

「湊?大丈夫?」
『ごめん、今日体調悪いみたい』
「えっ!?そういうのは先に言って!?保健室行くよ!!」
『いや、行かなくても大丈夫だよ』
「湊すぐに無理するからだめ!ほら行くよ!!」
『ふふっ、りつ、ありがとう』
「どういたしまして!」

湊はりつの明るさに感謝しながら、保健室へと向かった。



ハッと意識が浮上した。
そういえば保健室で寝かせて貰ってたんだった。
まだ頭がぼーっとする。
湊が頭だけ動かし横を向くと、近くには頭だけベッドにのせてスヤスヤと眠ってる山岳がいた。

『え、なんでここに』

思わず上半身を起こして呟くと、山岳は、んんーっと少し唸ってからゆっくりと目を開けた。

「湊ちゃんおはよー」
『おはよ、山岳』
「体調大丈夫?」
『うん、大丈夫だよ』
「そっかぁ、よかった」
『…山岳、授業は?』
「湊ちゃんが保健室にいるのに授業なんて受けていられないよ」
『···来週赤点取っちゃダメだよ』
「はぁい。ねえ、湊ちゃん」
『ん?』
「何か隠してる?」
『えっ』
「1人で抱え込まないでね」
『うん、大丈夫だよ』

ヘラッと笑って見せると山岳は少し悲しそうな表情をしたままギュッと湊の手を握った。
そしてそのまま手を引かれ抱きしめられた。
天然なんて言われてるけど、鋭いんだよなあと思いながら、湊は山岳の肩に顔を埋めた。



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