走るマネージャー
湊と山岳は入学式当日に自転車競技部へ入部届けを提出した。
早すぎる提出に自転車競技部の2、3年生は物珍しそうに入部届けを見た。
自転車競技部には3年生の女性部員がマネージャーとして1名所属していた。
その女性部員は湊の名前を見るなり、女の子だ!と嬉しそうに笑った。
「マネージャーの後輩欲しかったから嬉しい!これからよろしくね!!」
『あっ、その…』
「どうしたの?」
『私、その…ロード乗りたいんですけど』
「「「え」」」
『女子の自転車競技部なかったから、こちらに入部届け提出したんですが、やっぱりマネージャーだとロード乗れないですか?』
「黛さんは経験者かな?」
『は、はい!競技は出たことないですが、昔からロードには乗ってました!』
「じゃあ、私にはできないマネージャー業ができるね!」
『え』
「走りでみんなをサポートしてくれればいいのよ!」
『いいんですか?』
「もちろん!ね!福ちゃん!」
「ああ。未経験者のフォローもしてくれると助かる」
『あ、ありがとうございます!』
元々競技が出たかったわけではなく、ただロードに乗りたかった湊は部活でもロードに乗れる事に対して嬉しそうに笑った。
「湊ちゃんって呼んでいいかな!?」
『あ、はい。大丈夫です』
「私の事は気軽に凛さんって呼んでね!」
『はい、凛さん』
「かわいい後輩できて嬉しい!湊ちゃんはスプリンター?クライマー?」
『クライマーです』
「おお!湊ちゃんはクライマーなのね!」
終始目を輝かせて湊に質問しているのは、箱根学園自転車競技部の3年生唯一のマネージャーである、榎本凛。
腰まである茶髪のロングヘアで、ぱっちりとした目が印象的な可愛らしい方だ。
自転車が大好きな事が見ててわかるし、自転車の事を楽しそうに話す凛を優しい目で見守っているのは箱根学園自転車競技部の部員達だった。
『(かわいいし、すごくモテるんだろうな)』
「そんなに見つめちゃってどうしたの?」
『いえ、なんでもないです』
「そっか!あ、未経験者のフォロー以外にもマネージャー業あるから、それ教えるね!」
『はい、よろしくお願いします』
「一緒にがんばろー!」
『がんばります』
湊はマネージャー業初日という事で、凛は一通りの仕事の流れを教えた。
湊は頷きながら、時折メモして凛の後ろをついてまわった。
「凛のやつ、えらく楽しそうじゃナァイ」
「女の子が入部してくれて嬉しいんだろうな」
入学式から数日経つと、自転車競技部にも複数の入部届けが届いた。
経験者から未経験者まで様々だった。
マネージャー希望の女子も増え、凛は通常のマネージャー業と教育で忙しそうだった。
そして選手達は経験者から未経験者の実力を測るために、学園の外を走る事となった。
湊は福富から後続のメンバーを全員連れて帰ることを言い渡された。
『ロードに乗れる…!』
「ふふ、嬉しそう。湊ちゃんもがんばってね!」
『はい!任務完遂してみせます』
湊はロードに跨り、部員が全員出発してからスタートした。
未経験者もいたため、最後尾に追いつくのはすぐだった。
『もうちょっと上体起こした方がいいですよ』
「こう?」
『そうそう!貴方は逆に重心を前に持ってきた方がいいです』
「結構、きついっね…!」
『がんばって!』
「「おう」」
「うわっ、最後尾に追いつかれた!」
『夏也も頑張れ〜』
「坂、前に進まねえ…!」
『ゆっくりでいいから止まらないでね』
湊は最後尾でロードに跨りながら走り続けた。
そして無事に全員を完走させた。
『お疲れ様です、皆さん』
「きっつい…」
「死にそう」
「想像以上にハードだな」
ぜえ、はあ、と荒い息遣いの未経験者達もよく頑張ったなあと思いながら、湊はロードを止めに行った。
「黛」
『あ、福富先輩。無事に全員到着しました。』
「そのようだな。礼を言う。ありがとう」
『い、いえ!これが私の任務ですから!』
湊がニッと笑うと、福富は目を細めて口角を上げた。
「黛チャァンおつかれェ」
『お疲れ様です!荒北先輩』
「黛チャァンって結構走れるンだねェ」
『あ、はい、ありがとうござい』
「湊ちゃーん」
『山岳…?』
「今から一緒に山登ろう!」
「真波!話の途中でいなくなるとはどういうことなのだ!」
『ほら、東堂先輩呼んでるよ?それにまだお仕事あるからだめ』
「ちぇー」
「ム。黛は真波と親しいのだな」
『幼馴染なので』
「ほぉ、そうなのか!」
結構走れる真波山岳の幼馴染として、物珍しそうに見られた湊は頬をかきながら苦笑した。
そして部活動は少しずつ輪が広がっていった。