02

「何かお前疲れてね?」
 休み時間に教室の机に突っ伏して寝ていると、頭上から声が降ってきた。顔を上げると隆介が心配そうに見下ろしていた。
「…別にそんなことねぇよ」
「そうか?」
「あぁ」
「渡が話したくないなら、深くは聞かねぇけど」
 俺がうんざりした顔で見ると、隆介は微かに笑った。
 隆介とは高校に入学してすぐの頃からの友人なので、俺のことはお見通しのようだ。
「授業中もずっと寝てんじゃん」
「それはいつもの事だろ」
「まぁ、そうだけどさ」
 隆介は俺が机に置いていたシャーペンでペン回しを始める。
 確かに今朝の事もあって、精神的に疲れてはいるが、さすがに隆介に話せる内容ではない。
「言いたくなったら、いつでも言えよ?」
「あぁ、…ありがと」
 隆介の心遣いが疲弊した心に染みわたる。俺が小さく礼を言うと、隆介は照れくさそうにはにかんで、俺の少し癖っけのある髪をぐしゃぐしゃとかき回す。今朝、聡に寝癖が酷いと言われた事を思い出して、隆介の手を払いのけようとしたが、隆介はさらに力を強めてきた。
「水口くん、弟くんが呼んでるよ」
 隆介の手と格闘していると、クラスメイトの女の子に声をかけられた。
 ドアの方を見ると、猫背気味に立っている聡がいた。暗く見えるから背筋を伸ばせと、昔から言っているのだが、一向に直す気配はない。
「なに?」
 隆介の手から逃れて聡に近づくと、伸びた前髪の間からむすっとした顔が見えた。
「これ、持ってきた」
 聡が突き出した手は青いラインが入った体操服を持っていた。
「あぁ、サンキュ」
 体操服を家に忘れてきたことすら自覚していなかった俺は、軽く礼を言って受け取る。
 事は済んだはずなのに、なかなか去る気配がない聡を不審に思って見上げると、聡は教室の奥を睨みつけるように見ていた。
「どうした?」
「いや、…何でもない」
 不審に思って教室を振り返ってみても、特に変わった様子はない。
 再び聡の方を振り返った時には、もうすでに聡の姿はなかった。
「弟くん、何だって?」
 自分の席に戻ると、隆介は俺の前の席に後ろ向きに座っていた。体操服を見せると、隆介は納得したように頷いた。
「それにしても弟くん、相変わらず雰囲気暗いな」
 確かに聡は姿勢も悪いし、いつもヘッドフォンで音楽を聴いていて、仲の良い友人がいる様子もない。聡が内向的なのは昔からだ。でも、家では普通に話すから、特に心配もしていない。
「…ブラコンも相変わらずみたいだし」
「え?何か言ったか?」
「いいや、何も」
 隆介がぼそりと何か呟いた気がしたが、笑ってはぐらかされたので、俺は気にしないことにして、再び机に突っ伏した。


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