08

 家に入った途端、玄関扉に勢いよく押し付けられた。
「――痛っ!……っ!?」
 背中の痛みに顔をしかめると、聡がぶつけるように唇を合わせてきた。
「おい、…聡…っ」
 押しのけようとする俺を逃がすまいと、俺の肩を掴む聡の力が強まる。俺が口を開いた隙に、歯列を割って舌が入ってくる。荒々しいキスから、聡の毛羽だった感情が流れ込んでくるようだ。
「…やめ……っ…」
 俺を食い尽くそうとでも言わんばかりに、舌が口内で暴れまわる。必死に聡を引きはがそうとするが、力では敵わない。
 ティーシャツの裾から手を差し込まれ、乳首を思いっきり抓られる。
「痛っ!……やめろっ…!」
 千切れそうなほどに強く引っ張られる。痛みに腰が引けて、ずるずると座り込んでしまう。
 胸の痛みから解放されたかと思うと、今度は股間を服の上から揉みしだかれる。恐怖ですっかり萎えていた股間が、物理的な刺激に熱を持ち始める。
 俺の気持ちを無視して、強引に触ってくる聡に恐怖する。弟が知らない人間のように感じられる。怒りや混乱や恐怖や、様々な感情がごちゃ混ぜになって、目の端から零れ落ちる。
「…うぅ…、っ…」
 喉の奥から嗚咽が漏れると、はっとしたように聡が唇を離した。
「何でこんなことするんだよ…」
 次から次へと涙を溢れ出す俺を見て、聡はあたふたと目を泳がせる。
「ごめん、兄貴…。俺…」
 まるで壊れ物を扱うかのように、そっと抱きしめられる。聡の肩口で、俺の涙が染みを作る。
「俺、どうしようもないんだ。兄貴が傍にいるだけでたまらない気持ちになる。ずっと我慢してきたんだ。でも、そんなやせ我慢は通用しなかった」
 肩を震わす俺の頭を、ためらいがちな動きでそっと撫でる。
「このままじゃ、きっと俺はまた兄貴を傷つける」
 痛切な痛みを伴った声は、微かに震えていた。
 俺をそっと離して、名残惜し気に髪に唇を落とすと、泣きそうな顔で笑うと、ドアを開けて出ていこうとした。
「……兄貴?」
 俺は反射的に聡のズボンの裾を掴んで引き留めていた。抱え込んだ膝に顔を押し付けたまま、裾をぎゅっと握りしめる。
「…お前、無責任すぎるんだよ。勝手に人の身体弄繰り回しておいて、ばれたら自分が傷ついたみたいにおさらばかよ」
 呟く声は自嘲気味に床に落ちる。
「振り回される方の身にもなれよ。ここのところ、俺の頭ん中はお前のことでいっぱいだよ。もう、うんざりなんだ」
 俺は立ち上がって、そっと唇を重ねて言う。
「責任とれよ」
 聡の手を取って、俺の股間にあてがう。
「俺をこんな風にしたのはお前だろ?」
 弟に触られて勃起してしまうような身体にしたのは。


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-家庭内密事-
-彼の衝動-