03 店に来る客はどいつもこいつもむさくるしいおっさんばかりだった。 「レイちゃん、かわいいね…」 「……っ」 小太りのいかにもモテないおっさんが俺の上に覆いかぶさり、好き勝手に俺の身体をまさぐる。全身におっさんの涎がつくのも気持ち悪いし、ましてや自分のケツに男のものを挿れられているこの状況が我慢ならない。おっさんが興奮して鼻息を荒くしているが、俺はすこぶる気分が悪い。 「ここもピンク色でちっさくてかわいいね」 「ぐっ……」 乳首を口に含まれ、ちゅうちゅうと吸われながら、早く終われと壁時計を盗み見る。 こうして俺が身体を張って稼いだ金も結局は全て借金返済に充てられて、俺の手元には一銭も残らない。住む場所と必要最低限の食事は提供してくれるが、それにかかる費用も俺の売り上げから引かれている。借金を返し終わるのは、気が遠くなるほど先になるだろう。それまでずっと毎日こんなことをしなければならないなら、せめてパチンコにくらい行かせてほしい。 「店長、金貸してくんない?」 「はぁ? なに言ってんだ、レイ。お前に貸すわけないだろ」 朝方、店の営業終わりに事務所でレジの金を確認している美山店長に手を合わせる。 「頼むよ、店長! 俺、この店に来てから一週間、仕事以外なにもしてないんだよ? ちょっとぐらい遊んだっていいじゃん」 「だめだ。どうせギャンブルして溶かすだけだろ。お前は借金を返すことだけ考えてろ」 「千円だけでも?」 「だめだ」 「ケチ。じゃあいいよ、桐渕に頼むから」 「…は? なに言ってるんだ。くだらないことするな。お前に金を貸す人間なんているわけないだろ。ましてや桐渕さんにそんなこと言ってみろ。本当に殺されるぞ」 「それは…」 桐渕の目が脳裏に蘇って、一瞬身が強張る。 「でも、聞いてみなきゃ分かんねぇじゃん。第一、働いてるのに一円も貰えないなんておかしいし」 「――クズが。調子に乗るな」 突然背後から聞こえた鋭い声に驚いて振り向くと、扉口に桐渕が立っていた。相変わらず高級そうなスーツを身にまとって、周囲に高圧的な空気を撒き散らしている。 「桐渕、いつの間に…」 「桐渕『さん』だろ」 その鋭い目で睨まれると、蛇ににらまれた蛙のように動けなくなる。 「そんなに金が欲しいのか?」 「あ、当たり前だろ。しばらくギャンブルも煙草もできてねぇし。ちょっとぐらい給料くれよ」 「はぁ…、本当にどうしようもないクズだな」 桐渕の周りの空気が凍てつく。だが、俺もここでビビって引くわけにはいかない。 「千円でいいからさ、頼むよ」 競馬か競艇に賭けて、その千円を何倍にも膨らましてやる。 「命知らずなやつだな。……金が欲しいなら、どうすればいいか分かるよな」 桐渕が挑発的な目で俺を見る。 「…? 分かんねぇ」 理解の悪い俺にイラついたのか、桐渕の額に血管の筋が浮かぶ。 「来い」 桐渕は乱暴に俺の腕を掴むと、事務室から強引に連れ出した。 「え、どこ行くんだよ」 閉まるドアの隙間から、顔面蒼白になっている店長が見えた。 廊下を進んで接客用の個室に連れていかれると、ベッドに放り投げられた。 「おわっ、なにすんだよ」 「お前が金を稼ぐ方法なんて、一つしかないだろう」 そう言いながら桐渕が俺に覆いかぶさる。 「え…?」 この状況が一向に理解できていない俺に、桐渕がイラついて顔を歪ませる。 「奉仕しろ」 「…う、ぐ…ッ、…」 ベッドヘッドに背をもたせ掛け、スラックスの前だけを寛げた桐渕はいつもと変わらぬ冷静な目で、桐渕の股間に顔を埋める俺を見下ろしている。桐渕はきっちりとスーツを着たままなのに対し、俺は全裸になっているあたりに力関係の差を痛感する。 桐渕のものは凶悪なほどに大きく、咥えるだけで顎が外れそうだ。それでも必死に舌と顔を動かして、桐渕に奉仕する。 「っう、ぐ…」 「…下手くそだな」 桐渕は低くそう言うと、俺の後頭部を掴む。 「――あがッ!」 力で頭を動かされ、桐渕のペニスが俺の喉奥に何度もぶつけられる。 「ぐぇ…、うぅ、…おぇッ」 「ちゃんと咥えろ」 喉奥に容赦なく打ち付けられ、嗚咽が漏れる。苦しくて息ができない。支配から逃れようともがいてみるが、桐渕は一切手を緩めてはくれない。胃液がせりあがってきて、食道がぐえぐえとおかしな音を立て始める。 「こんなんじゃイけねぇな」桐渕はぼそっと言うと、ようやく俺の頭を解放した。 「うえっ、げほっ、ごほっ…!」 口からずるりと桐渕が出ていった途端、盛大にむせる。口の中に酸っぱい味が広がる。もう少しで胃の中身をぶちまけるところだった。 「まだ終わってねぇだろ」 休む間もなく今度は桐渕の上に跨らされ、両手で腰を持たれる。 「…げほっ、…待て、そんなでけぇの、むり…っ!」 「無理じゃねぇ」 腰をぐっと引き下げられ、桐渕の股間が俺の後ろを一気に貫いた。 「―――ッァア…!」 さっきまで客の相手をしていたとはいえ、桐渕の大きさに耐えられる身体にはなっていない。無理に押し拡げられた後ろがみちみちと音を立てる。 「さすがにキツいな」桐渕はそう言いつつも、容赦なく腰を打ち付ける。 「…ぁ、むり…っ、やめ、ろッ…、んぁ…!」 「嫌がってるようには見えないがな」 桐渕の指で弾かれた俺の股間は、俺の心に反して起立している。 「…ぁ、なんで…?」 客に掘られても一度も感じたことがなかったのに、どうして身体が反応しているんだ。こんなの痛いだけで気持ちよくなんてないはずなのに。 「自分で動いてみろ」 桐渕に促されて、ゆるゆると腰を動かす。 「…は、ん、…ッ…、うぁ…」 桐渕のペニスが腸壁に擦れるたびに、甘い刺激が背筋を駆け上がる。 なんだこれ、こんなの知らない。 「自分だけ気持ちよくなるな。そんな接客してるから指名客が付かないんだよ。俺をイかせてみろ」 「…ぐ、あ…っ、んぅ…」 そんなこと言われたって俺は女が好きだし、女に上に乗って動いてもらうのが好きなんだ。だから男に奉仕する仕方なんて分からないし、分かりたくもない。好きなだけギャンブルをして、好きなだけ女と遊んでいた少し前までの生活が恋しい。 もう男に組み伏されるのはごめんだ。 「他のこと考えてんじゃねぇぞ」 「―――ンぁっ…!」 桐渕に突き上げられ、声が上ずる。 「お前の腰ふりじゃあ、一生経ってもイけねぇ」 再び腰を掴まれ、がつがつと中を穿たれる。 「…あ、…アぁ、…んぁ、―――アぁぁッ…!」 俺の股間が弾け、桐渕のシャツに白濁が飛び散る。 「チッ、汚ねぇな」 苛立ちごとぶつけるように勢いよく後ろを穿たれ、中にどくどくと精液を注がれる。 桐渕のものが後ろからずるりと出ていく。 「…ぁ、…はぁ、…はぁ…」 頭がくらくらする。普段の仕事をするより何倍も疲れた。どっとベットに倒れこむ俺をよそに、桐渕はすぐに立ち上がってスーツを整える。 汗だくになって息を切らす俺の目の前に、一枚の千円札がヒラヒラと舞い落ちる。 「千円でいいんだろう。これが今のお前の価値だ」 これで千円は安いだろと、ぼーっとする頭で思う。 扉をくぐりながら桐渕が吐き捨てる。 「ちなみに、シャツのクリーニング代はお前の売り上げから引いておくからな」 閉まっていく扉を見ながら、呆然とする。 「なんだよそれ…、むしろマイナスじゃん」 尻からこぽりと溢れた桐渕の精液が太腿を伝った。 「レイ、大丈夫だったか!?」 [V:8193]事務所に戻ると店長が青ざめた顔でかけよってきた。 「なんとか。ほら、見てよ。千円稼いでやったんだ」 [V:8193]千円札をヒラヒラと扇ぐ。 [V:8193]それを見て「桐渕さんとシたのか?」と店長が意外そうな顔をする。 「そうだよ。なんでそんな顔すんだよ」 「いや、ずっと桐渕さんはノンケだと思ってたから…」 「あいつゲイじゃないの?」 「違うはずなんだが…。うちの店のナンバーワンの子が何度誘っても、断ってたからな。てっきり男は駄目なのかと思ってたよ」 「そいつが桐渕の好みの男じゃなかっただけじゃねぇの?」 「そうなのかなぁ…?」 [V:8193]不思議そうに首を傾げる店長をよそに、俺は店長の食べかけのカップ麺を横取った。 -家庭内密事- -彼の衝動- |