08

 獣に犯されたために、人としてのプライドを保っていた理性は崩壊し、代わりに身体の奥底に眠っていた本能が、目を覚ます。
 肩越しに後ろを振り返ると、狼がはぁはぁと荒い呼吸で、嬉しそうにしっぽを振りながら、俺の尻に必死に腰を打ち付けている。そのたびに、精液が泡立ち、ずちゅ、ずちゅ、と卑猥な音を洞窟内に響かせる。その異常で変態的な光景を見て、俺はなぜか胸の奥に熱が灯る感覚を思い出した。
 もっと気持ちよくなりたい。今まで感じたことのないほどの絶頂の波を感じたい。全てを忘れられるほどの快感が欲しい。今なら、こいつなら、くれる。
 もっとセーエキがほしい。
「あ、…ぁ、…も、っと、…もっと」
 俺は脚を上げて反転し、仰向けになる。俺の眼は既に焦点が合っておらず、口端からはだらしなく唾液が零れている。俺は両脚を狼の腰に回し、自分の方に引き寄せる。
「…あぁっ、…もっと、奥、…あっ、あっ、そこっ、そこっ、…ッ」
 狼のモノを自ら腰を動かし、前立腺にごりごりと押し付ける。その度に背筋を鋭い電流のような快感が走る。狼の射精は未だに続いており、俺のナカを奥まで満たしていく。それすらも、もはや気持ちいい。
 狼の舌が俺の口腔を再び犯し始める。先ほどまで恐怖でしかなかったはずの舌が、今では媚薬のように俺の口内を熱くする。俺も自らの舌を絡め、どちらのものとも分からない唾液を飲み下す。その唾液は俺の胃まで下り、内臓から俺を熱く痺れさせる。
「…んっ、…むぅ、…はぁっ、ん、…んん」
 俺は狼の頭に腕を回し、求めるように口を開く。
 慎むことも忘れた甘い嬌声が、洞窟に否応なしに響き渡る。
 おぞましいとも言える、この退廃的な状況に、疑問を呈す俺はもういない。道徳から大きく外れた行為を、俺は本能のままに受け入れ、欲に溺れていく。
 俺という自我が、壊れて、壊れて、墜ちていく。


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