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「客多すぎだろ。疲れるわー」
 トイレに誰かが入ってきた。声と足音からして二人のようだ。
 俺は声を立てないように、縛られた手に口を押し付ける。
 もし、ここでこんなことをしているのがバレたらと思うと血の気が引く。
「知也のやつどこ行ったんだよ」
「またどっかでサボってんだろ」
 同じクラスの尾崎と池本だ。よりによって友人とは、つくづく運がない。
 二人は洗面台のところで喋っているようだ。きっとサボりにきたのだろう。
「それにしても、女装した知也、予想以上に可愛かったよな」
「それは同意だわ。もともと綺麗な顔してるしな」
「だよなー。俺、あの知也ならイケるわ」
「イケるってなんだよ。ホモじゃねぇか」
 二人の笑い声が、けらけらと響く。
「―――ッ!」
 急な刺激に息が詰まる。
 まだ二人がいるにも関わらず、杉村がゆるゆると腰を使い始めたのだ。肩越しに杉村を睨みつけるが、男は意地悪く口端を吊り上げるだけで、止めようとしない。
「……っ、……」
 漏れそうになる声を必死に我慢する。
 尾崎と池本と、俺を隔てるのは薄い一枚の壁のみだ。少しでも音を立てれば確実に気づかれてしまう。男はそれを知って、わざとやっているのだ。趣味が悪いとしか言いようがない。
 浅い所をゆっくりと擦られ、じわじわとした熱が腰に渦巻く。
「でもまぁ、確かにその辺の女より可愛かったな」
「お前もホモじゃねぇか」
「―――ぁッ!」
 急に奥まで貫かれ、思わず声が漏れてしまった。サッと血の気が引く。
「…?今、なんか声しなかった?」
「なんか聞こえたよな」
 やばい。気づかれた。
 俺が漏れそうになる声を必死に我慢しているのを分かっていながら、男は奥のしこりをゆっくりと擦ってくる。
「〜〜〜!……、…っ、…ぁ…」
 音を立てないように神経を使うことで、逆に身体が刺激に対して過敏になる。
「ほら、ここの個室だよ」
「誰かがクソでもしてんじゃねぇの?」
「にしては声がおかしくないか?」
 二人は個室の扉のすぐそばまで来ている。
 もう限界だ。


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-家庭内密事-
-彼の衝動-