06

「浅井」
 嫌いな数学の授業をふけて、屋上で寝転がっていると、頭上から萩原の声がした。目を開けると、萩原が浅井の顔を覗き込んでいる。
 浅井が小さくため息を吐いて、寝返りを打つ。すると萩原は床に手を付き、浅井に覆いかぶさってきた。
「もう俺に構うのはやめてくれ」
 浅井はうんざりしたように言うが、萩原は怯む気配もない。むしろ楽しそうに微笑んでいる。いつも何事にも関心がなさそうにしている萩原が、楽しそうにしているのは、何か裏がありそうで気味が悪い。
「今って結構やばい?」
 言葉の意味を理解して、浅井は眉根を寄せる。嬉しそうに聞いてくる萩原を押しのけて、身体を起こす。
「もういい加減にしてくれよ」
 鬱陶しそうに頭を掻く浅井を見て、萩原は一人、納得したように肩を落とす。
「あぁ、今日は風が強いから、匂いが飛んじゃってるのか」
 萩原を置いて、浅井は出口に向かって歩き出す。
 確かに、今日は風が強いから、屋外では萩原の匂いは感じにくい。でも、風向きによっては、萩原の匂いがダイレクトに当たるだろう。風向きが変わらないうちに、一刻も早く萩原から遠ざかりたかった。
 今までは萩原からなるべく距離を取っていたから良かったものの、近くに来られると、今まで以上に、余計に気を張らなければいけないのが面倒だ。
「おい、浅井」
「用もないのに俺に話しかけるな。迷惑なんだよ」
 浅井は萩原の言葉を遮るように言い放ち、屋上を後にした。


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