07

「俺のこと、からかってるならやめて欲しいんだけど」
「からかってなんかねぇよ」
 体育の授業中、二人一組でやる柔軟体操で、浅井はなぜか萩原とペアを組んでいた。ペアを組む段階で、萩原が一緒にやろうと言ってきたのだ。当然浅井は断ったが、強引にペアを組まされてしまった。
 浅井が開脚をして、萩原が後ろから浅井の背を押している。
「浅井って身体柔らかいんだな」
「うるさい」
 蒸し暑い体育館に、萩原の匂いがうっすらと漂っている。それを意識しないように、なるべく別のことに意識を飛ばす。そうやって、萩原のことを意識しないようにしようと思うこと自体が、萩原のことを考えていることになるんじゃないかと考え始め、自分の思考にさすがにうんざりしてくる。
「俺なんかと組まなくても、組んでくれる友達なんか、いっぱいいるだろ」
「俺は浅井がいいんだよ」
 周りに浅井の性癖を言い触らさないでいてくれるのは有り難いが、萩原が浅井をからかうことに飽きるまで、この茶番に付き合わされるのだろうか。そう思うと、嫌気が差す。
 男子とは別に、体育館の半面を使ってバレーボールをしている女子たちが、ちらちらとこちらを見る視線が痛い。萩原が浅井に構うようになってから、取り巻きの女子たちが萩原に構ってもらえなくなったために、浅井を敵視しているのだ。トラブルに巻き込まれることなく、静かに暮らしたい浅井にとっては、迷惑この上ない。
 浅井が何気なく振り向いた視線の先に、扇風機が見えた。蒸し暑く、籠った体育館の中の空気を、少しでも循環させようと首を振っている。
 浅井が危険に気づくより一足早く、扇風機の首が浅井たちの方へ向く。
「……ッ!」
 吹いてきた風を吸い込んだ途端、背中がゾクリと粟立つ。咄嗟に浅井は、萩原のもとから這うように離れ、鼻と口元を手で覆う。
「浅井、どうした?」
「来るな!」
 近づいて来ようとする萩原を制すが、すぐに浅井に異変に気付いた萩原は浅井の腕を取る。
「先生!浅井の体調が悪いみたいなんで、保健室に連れて行きます」
 萩原は教師に一声かけると、浅井を男子更衣室に引きずっていく。
 誰もいない更衣室に入った萩原は、浅井の背をロッカーに押し付ける。
「余計な事するな」
「他のやつにそれ、見せるつもり?」
 萩原が見下げた先にある浅井のそこは、ジャージの下から自身を主張していた。
 返す言葉もない浅井は、萩原を押しのけて逃げようとするが、萩原に後ろから抱きとめられる。後ろから首筋を舐められ、肌が粟立つ。
「おい!萩原、やめろ!」
「こんなになってるのに、説得力ないよ」
 パンツの中に萩原の手が入れられ、ゆるゆると扱かれる。密着した体が、萩原の匂いに包まれる。
「…っ、…ァ…、はぎ、はら…っ」
 気を抜けば、膝から崩れ落ちてしまいそうだ。甘い痺れが四肢にまで行きわたる。匂いだけでずるずるになってしまう自分が不甲斐ない。
 萩原は俺の背を再びロッカーに付けて、向かい合うと、ジャージの中から自身のモノを取り出した。そこは浅井と同じようにそそり立ち、先走りに濡れている。
 より一層強い萩原の香りが、ぶわっと室内にたちこめる。それだけで、浅井の腰は重く痺れる。
「―――あぁッ…!」
 浅井から迸った白濁が、萩原のジャージを汚す。
 浅井は快感に身悶え、崩れ落ちないように、萩原にしがみつく。
「匂いだけでイったのか?」
 萩原が浅井の耳元でくすりと笑う。羞恥に目の前がぼやける。
 萩原は自分と浅井のモノを一緒に手で包み込むと、そのまま手を動かし始めた。浅井より大きい萩原のモノが、浅井の裏筋にこすれ合う。
「…浅井」
 萩原は、小さく喘ぐ浅井の顔に、キスの雨を降らす。イったばかりで萎えたはずの浅井のモノが、再び硬さを取り戻し始める。
「もう、やめろよ…ぉ」
 萩原の香りをかぐだけで、否が応でも反応してしまう自分が情けない。浅井はへなへなと座り込んでしまう。萩原は浅井を抱きかかえるように座り、浅井の手を取り、一緒に握らせる。どちらのものとも分からない先走りが、ぐちゃぐちゃと卑猥な音をたてる。耳からも犯されている気分になり、羞恥に焼けこげてしまいそうだ。
 流れる涙を舌で掬われる。口づけられ、舌を吸われる。匂いで反応しているだけなのか、萩原の一挙一動が浅井を快感の高みに持って行っているのか、段々分からなくなってくる。
 どんどん熱を帯びていく自分の身体が、怖い。
「…ん、…っ、…ぁ、―――ぁあッッ!」
 浅井が果てるのとほぼ同時に、萩原も果てた。互いの飛沫がジャージにはたはたと飛び散る。射精後の独特の気怠さに、四肢を放り出す。
 吸い込む空気が全て、萩原の香りを纏っている。それが浅井の身体を芯から溶かしてしまうのは、簡単だ。
 口づけられ、舌と舌が絡み合う。溢れた唾液が口端を伝う。
 浅井は、気持ちとは裏腹に、反応してしまう自分の身体を恨んだ。


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-彼の衝動-