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 浅井は徹底的に萩原を避け始めた。萩原がいる場所には行かないようにし、話しかけられそうになったら、すぐさまその場を離れた。すると、萩原もだんだん浅井に話しかけることはなくなり、今まで通りの学校生活に戻り始めた。
 萩原は再び女子に取り巻かれ、浅井は目立たないように教室の隅で、浅井と同じような冴えない友達と机を囲んで話をする。
 視界の端に捉えた萩原は、スマホを覗きながら、興味なさげに女子の話に適当に相槌を打っている。
 こちらを見た萩原と、一瞬ばちっと目が合った。浅井はすぐさま目を逸す。動揺を押し殺し、まるで何事もなかったかのように、友人との会話に戻る。
 これでいい。今まで通りの平穏な生活だ。これは浅井が望んでいた環境だ。
 これでいいはずだ。それなのになぜ、前以上に萩原の存在を意識してしまうのだろう。
 同じ教室にいると、時折、萩原の香りが浅井の席まで漂ってくる。空気中のそれは微々たる量だが、それでも浅井の身体を熱くするには十分だった。
 浅井はトイレに駆け込み、悔しさに唇を噛む。
「なんでだよ…っ」
 自分の身体が制御できなくなっている。浅井は火照る身体を収めるため、自分自身を慰める。
 こんなことを、いつまで続けなければいけないのだろう。
 自分の情けなさに、押しつぶされてしまいそうだ。


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-家庭内密事-
-彼の衝動-