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 俺の口腔を蹂躙する舌を、思いっきり噛む。
「――ッ!」
 笹部先輩は身を仰け反るようにして、唇を離す。口の中に残った血を唾と共に吐き捨てる。
 笹部先輩は口元を押さえて、俺を睨む。
「昔はもっと素直だったのにな」
 笹部先輩は脚で俺の膝を割り、太腿をスラックスの上から俺のモノに擦りつけてくる。
「ちょっと甘く囁いただけで、簡単に脚開いてたよな?」
 耳元で囁く笹部先輩に対して、俺はもう昔のような感情は抱いていない。
 あの頃は裏切られ、捨てられたこと事が悔しかった。笹部先輩は俺に、簡単に切り捨てられる程の価値しか見出していなかったことが苦しかった。笹部先輩が憎らしかったし、俺が味わった苦しみを味わわせてやりたいと、復讐心を燃やしたこともあった。しかし、あれから九年も経った今、そこまでの感情は湧いてこない。復讐を考えるだけ、労力の無駄だ。この人に、そんな価値はない。
 それでも、笹部先輩への嫌悪感は次から次へと湧いて出る。
 笹部先輩のことが嫌いなことは、捨てられたから何も変わらない。
 あの頃、笹部先輩に感じていた愛しさはただの依存だったという事を再認識する。自分の寂しさを埋めてくれる物への依存だった。
 笹部先輩に触られた場所が気持ち悪くなってくる。今すぐに口をゆすぎたい。
 ふと、嫌悪に歪めた顔で俺を抱く圭介の顔が浮かんだ。圭介も、こんな気持ちなのだろうか。だとしたら最悪な気持ちだなと、圭介に同情する。
 俺のワイシャツのボタンを外そうとする笹部先輩を押しのける。
「今更何の用ですか?」
 刺々しく言い放つ俺の背後の壁に、笹部先輩が腕を付く。
「どうせ溜まってんだろ?昔みたいに俺が可愛がってやるよ」
 俺の顔に触れようとする手を払いのけ、笹部先輩から距離を取る。
「生憎ですが、俺は今、彼氏に毎日中出しされて腹下すぐらいなんで、余計なお世話ですよ」
 盛大に事実を歪曲する。
「ハッ、そんなんで満足出来てんのかよ」
 俺の見え透いた嘘を、笹部先輩は鼻で笑う。
「えぇ、勿論」
 圭介に毎日のように求められて、搾り取られているのは事実だ。俺は強気に出て、余計な言葉まで添えてしまう。
「むしろ笹部先輩じゃ、満足できないですよ。昔だって、笹部先輩より、笹部先輩が連れてきた他の男にガンガン突かれる方が気持ち良か―――ッ…!」
 最後まで言い終わらないうちに、笹部先輩の拳が飛んできた。衝撃で地面に倒れ込んでしまう。すぐさま胸倉を掴まれ、半身を起こされる。
「京介、てめぇッ…!」
 笹部先輩は怒りに顔を歪ませる。今更ながらに、笹部先輩はプライドが人一倍高かったことを思い出す。
「図星ですか?」
 こんな時でも相手を挑発してしまうのは、俺の悪い癖だ。
 笹部先輩は俺を放り投げ、俺は背中をビルのコンクリートの壁に強打する。痛みにうずくまる俺の腹を、笹部先輩は何度も思いっきり蹴り上げる。
「うぐっ…!」
 みぞおちにつま先が入り、吐き気が込みあげる。腹を抱えて丸まる俺に、笹部先輩は唾を吐きかける。
「死ぬより辛い目に遭わせてやるよ」


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