13 あれから圭介の顔からは険悪さが消えた。まだぎこちなさは残っているが、以前のように普通に話しかけてくれるようになったのが嬉しい。 最近圭介は慌ただしくしている。来月に入学する大学に向けて、何かと準備があるのだろう。 もう俺を抱こうとしないのは、もう色々と吹っ切れたからだと思う。圭介はちゃんと女性を好きになれるのだから、最初から悩む必要なんて何もなかったんだ。 かくいう俺も、ここ一月ほどはサイトの更新もしておらず、一晩の相手を探しに出かけることもしていない。仕事が忙しいこともあるが、何だか行く気になれないのだ。 パソコンの右下に表示される時刻は午後九時だ。今日は早めに帰れそうだ。パソコンから眼をあげて、軽く伸びをする。 それなりにやりがいのある仕事だから、残業するのはそこまで苦ではない。隣のデスクの森本はうだうだと文句を言っているが、努力した分の成果はきちんと評価される。好きでしている仕事だから、結果が出たときは素直に嬉しい。 周りに一声かけてから会社を出る。今日は早めに帰れそうだ。どこかでビールでも買って帰ろうか。 他愛もないことを考えながら、いつもの道を歩いていく。街灯が爛々と照る大通りを曲がって、住宅街に入ると、街灯と街灯の間隔が開け、道は暗くなる。 女性が一人で歩くには不安かもしれないが、俺は男だから襲われる心配もないので、特に不安も感じない。 時々車が通るだけで、俺以外に道を歩く人はいない。 後ろから車が走る音がしたので、道の端に寄る。横を通り過ぎるかと思われたが、何故か黒のバンが俺の横で急停車する。 不審に思ったその時、バンの扉が勢いよく開いて、ぬっと出てきた腕に身体を引っ張られる。 「――え?」 俺が状況を理解する前に、素早く車の中に引きずり込まれる。ドアが閉められ、車が急発進する。手口が明らかに手慣れている。 「おい、何なんだよお前ら!」 運転席と助手席以外の後部座席は全て取り払われており、俺は平らになったそこに俯せに押さえつけられる。男が数人がかりで俺の手足をロープで縛る。必死にもがいても、押さえつけられた肩はびくともしない。あっという間に拘束され、虚しく身を捩ることしか出来なくなる。 「離せよ!」 喚く俺を、男たちはニタニタと嗤いながら見下ろす。気味の悪い笑みにぞっとする。 「大人しくさせろ」 助手席から聞こえてきた声にはっとして顔を上げる。だが助手席の男の顔を確認する前に、傍にいた男に、口に布を当てられる。息を吸った途端に頭がぐらりと揺れ、視界が歪む。薬を嗅がされたのだ。 薄れゆく意識の中、最後に見たのは、助手席からこちらを振り向いた笹部先輩の、悪意に満ちた笑みだった。 -淫靡なる充足- -彼の衝動- |