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 仕事終わり、夜遅くに帰宅すると実家の電気は消えていて、家族が寝静まった後だった。最近は仕事が忙しく、深夜に帰宅することも多い。
 両親を起こさないよう、なるべく音を立てないようにして玄関脇の階段を上る。
 二階の内の二部屋は俺と弟の圭介(けいすけ)が使っている。圭介の部屋の前を通ったが、扉から明かりは漏れていないので、もう寝ているようだ。もう高校生三年生だが、まだ三学期は終わっていないらしく、明日も学校があるのだろう。
 そっとドアを開いて自室に入る。鞄を放り出すようにして床に置き、どかりと椅子に身を沈める。ため息を軽く吐いてから、机の上のノートパソコンの電源を点ける。
 起動している間にスーツからスウェットに着替え、何気なく床に眼を遣ると、鞄から会社で貰ったお菓子が飛び出していた。鞄を引き寄せて、お菓子の袋を取り出し、ぞんざいにゴミ箱へ放り入れる。
 そうこうする内に起動し終わったパソコンに向き直り、いつものサイトを起ち上げる。
 動画再生数を確認すると、順調に伸びており、サイトのアクセス数も増えている。ランキングには参加していないが、参加したら結構な上位ランカーになるだろう。
 そのサイトは俺自身が運営しているのだが、普通のサイトではない。まぁ、いわゆるエロサイトというやつだ。月に大体二本程の動画をアップしている。三年前から始めたので、動画の総数は結構な数になる。勿論人には言えない。バレれば会社をクビになるのは目に見えているし、身内にバレたら、最悪の場合勘当されるかもしれない。
 その動画の内容というのは、俺の自慰動画だ。局部にはしっかりモザイクをかけているので、犯罪ではないが、褒められたことではない。
 動画を上げ始めた最初の頃のものは、普通にただ自分のモノを弄っているだけの動画がほとんどだが、段々とエスカレートしていって、今では女装やコスプレ姿、際どい下着を履いたままでの自慰動画や、アナニー動画など、マニアックなものにまで手を出し始めている。
 誰に強制されたわけでもなく、俺が好きでやっていることだ。自分の恥ずかしい行為を人に見られているというだけで興奮してきてしまうのだ。
 自分でもとんだ変態だと思う。だが、顔は映していないし、万一知り合いが見ても、動画の人物が俺だとは気づかないだろう。一旦そう考えると余計に歯止めが効かなくなってしまっている。
 俺は男しか好きになれない。初めて自分がそうだと自覚したのは中学一年生の時だ。クラスの男友達が、兄貴から貰ってきたというエロ本を見せて、どれがタイプだと聞いてきた時、俺はそれらの女性に興味が湧かなかった。それよりも、そのエロ本を持ってきた男
友達の方に興味があった。その時はさして深く考えずに、適当な女性を選んで指を差しておいた。だが、後にオナニーをする時に、その男友達の顔を思い浮かべてしまった。
 自分がホモだと知った時はショックでしかった。女の子に抱くはずの感情を男に抱いてしまう。女とセックスすると考えただけで吐き気がした。
 そんな俺が結婚なんてできるはずもない。同棲カップルで一生を添い遂げるケースは、非常に稀だ。俺にそんな相手が出来るとは思えなかった。
 幼心ながらに、俺は一人で生きていかなきゃならないことに気付いて絶望した。
 だが思いもよらず、高校生の時、一年上の男の先輩と付き合うことになった。学生らしくデートするというより、覚えたてのセックスにばかり夢中になっていた。
 それが原因とまでは言わないが、自慰動画をアップしたり、ハッテン場やゲイバーに男を漁りに行っている今の俺を形作った原因の一端を担ってるのは間違いない。
 そんな先輩も先輩の卒業と同時に行方が分からなくなってからというものの、今まで一度も再会していないし、今更先輩が何をしていようと気にならない。
「はぁ…、眠いな」
 つまらない過去に浸りながら、ネットサーフィンをしている間に、だいぶ夜も深けてきた。
 大きい欠伸を一つして、ベッドに倒れ込む。風呂は明日の朝でいいかと怠惰なことを考えと共に、眠りに落ちた。


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