03

 ジリリリと五月蝿い目覚ましの音で目が覚めた。まだ寝ていたいが、今日も仕事だ。憂鬱に浸りそうになる身体を半ば無理矢理ベッドから引き剥がす。
「圭介…?」
 俺に背を向けて固まったように佇む圭介がいる。いつも目覚めが悪い俺を起こしに来たのだろう。だが、今日は何だか圭介の様子がおかしいような気がする。
「どうしたんだよ、圭介。お前も今日学校だろ?」
 寝ぼけ眼を擦りながら、圭介に近づくが、反応を示さない。壁にかかった時計の時刻は午前八時を示していて、今すぐに家を出ないと学校に間に合わない時間だ。
「何だよ、無視すんなよ」
 圭介の肩を軽く小突くが、少しよろけただけで、文句を言おうともしない。不審に思い、圭介の視線の先を追うと、そこには昨夜俺が開いたままで閉じ忘れていたサイトの画面が表示されていた。
『…っん、……あぁっ…っ…』
 一瞬にして血の気が引いた。目の前が真っ暗になる。画面では俺がちんこを弄って喘いでいる。今までひた隠しにしてきた動画を圭介に見られてしまった。サイトを開いたままにするという初歩的なミスで露見するなんて、考えてもみなかった。
 俺の人生が終わった。きっと親に告げ口されて勘当される。厳格な親父の事だ。俺の言い分なんて一言も聞いてくれないだろう。母親だって、俺より世間体を気にするに決まっている。
 それでも全力で自分の理性を呼び戻して、叩き付ける様にしてノートパソコンを閉じた。
 寝起きだというのにすっかり冷め切ってしまった頭を高速で回転させて、上手い言い訳を探し出す。まだ動画の人物が俺だとはバレていないはずだ。俺がホモだということはバレてしまっただろうが、まだ何とか言い逃れできるかもしれない。一縷の望みにしがみつこうと必死になって考える。
「圭介」
「兄貴」
 圭介と言葉が被った。と同時に修正不可能な過ちに気付いた。
「今の動画、兄貴だよな?」
 動画の撮影場所が俺の自室だったのだ。ホテルやトイレなどで撮った動画の方が圧倒的に多いのに、見られた動画が悪すぎた。今も自室の壁に貼ってあるアーティストのポスターがばっちり映り込んでいたのだ。他の動画なら、まだ苦し紛れにも言い訳が思いついただろうが、よりにもよって、言い逃れの出来ない動画を見られてしまった。これじゃあ、動画の人物が俺だということが、俺の部屋に入ったことのある人には丸分かりだ。
 全身の血が足へと下がり、頭がくらくらする。固まったように動かない俺を、圭介は軽蔑した目で見下し、吐き捨てる。
「…気持ち悪いんだよ」
 しがみつこうとしていた救いの糸なんて最初からなかった。伸ばした手は虚しく空気を掴み、俺は一気にどん底に叩き付けられた。


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-家庭内密事-
-彼の衝動-