05

 その夜、皆が寝静まったころ、俺はこっそりと部屋を抜け出し、圭介の部屋へ入った。
 圭介はすでにベッドで寝息を立てている。窓から差す月明かりが、圭介の寝顔を照らし出す。気持ちよさそうに眠る圭介を見て、罪悪感が湧いてくる。鈍りそうになる決心を再度固めるように深呼吸する。
 スマホをベッドの向かいにある本棚の上に置き、ベッドにそっと近づく。掛布団をめくって圭介に馬乗りになる。そして、自室から持ってきたベルトで圭介の両手をベッドヘッドに縛り付けた。圭介の方が背が高く、筋肉質なので、こうでもしないと暴れられたときに対処できない。
 何も知らずに眠り続ける圭介のスウェットとパンツを膝上までずり下す。
 現れた圭介の一物は俺が思っていた以上に大きい。思わず生唾を飲み込んでしまう。
 震えそうになる手で圭介のモノを包み、軽く扱いてから、反応が良い部分を探るように亀頭を舐める。根元を手で扱きながら、鈴口を軽く舌で抉る。ゆるゆると起き上がってきたモノに追い打ちをかける様に、口に含んで唇で輪っかを作り、頭を上下に動かす。幾人ものモノを咥えてきたテクニックを駆使して、どんどん圭介のモノを育てていく。
「…んん」
 圭介がうめき声をあげて身を捩る。一瞬俺の舌の動きが止まる。起こしてしまったか。そっと顔をあげて圭介の顔を見たが、苦しそうに眉を顰めているだけで、起きてはいないようだ。
 俺は再び口での奉仕を再開する。口内を圧迫する存在感に身が打ち震える。俺のモノからは既に先走りが溢れている。弟のモノを咥えて勃起している兄。俺が感じる必要は全くないのに、他人に奉仕しているだけで自然と身体が悦んでしまう。後々の展開を早くも期待してしまうほどに、身体が覚え込んでしまっているのだ。完全にド変態だな、と自嘲気味に笑う。
 完全に圭介のモノが勃ち上がったところで、俺は腰をあげ、下半身に身に着けたものを取り払った。
 もう後戻りはできない。圭介はきっと起きるだろう。馬乗りになっている俺を見て罵るに違いない。汚物を見るような目できっと俺を見下す。心底嫌いな人を見るあの冷たい目で俺を見る。想像しただけで頭が沸騰したように熱くなってくる。
 俺はこんなにも被虐趣味だっただろうか。今まで一晩だけ相手をする男は何人もいた。その中には嗜虐趣味の男ももちろんいた。刺激欲しさにプレイに付き合ってはいたが、そこまで劇的に気分が乗るものでもなかった。
 それなのに、実の弟に蔑まれることを期待してしまっている。苦しそうに引き結ばれた口から蔑みの言葉が紡がれるのを待ち焦がれてしまう。どうやら新たな変態性癖が開花してしまったようだ。
 一刻も早く弟の立派なちんこを咥えたいと後ろがひくひくと引き攣り始める。
 俺は予め解してきた後ろを、後ろ手に指で広げ、そこへ圭介のモノを宛がう。ゆっくりと身を沈めて圭介のモノを飲み込んでいく。
「…っう…」
 しっかりと解してきたにも関わらず、強烈な圧迫感が身を焦がす。腸内を押し分ける様にして挿入を進める。
「…っは…っ…」
 一番太い部分を飲み込んでからは比較的楽に腰を進められる。俺の腸壁は悦ぶように蠢き、すっかり勃った前からは先走りが溢れ、圭介の腹を汚していく。
「…ッあ…はぁっ…」
 圭介のモノをすべて飲み込んだ。腹の中で圭介のモノが主張しているのが痛いほどに分かる。
 そういえば最近は仕事が忙しかったために、挿入は久しぶりだ。待ち焦がれていたモノをようやく手に入れた嬉しさに、腰が痺れる様に熱くなる。思わず腰が揺れそうになるが、まだ十分に馴染んでいないので、荒い呼吸をしながら馴染むのを待つ。
 兄が弟に跨って受け入れている。異常としか思えない背徳的なこの状況に、呼吸が苦しくなるほどに興奮する。階下では両親が何も知らずに眠っている。いつ結婚するんだと度々急かしてくる両親が、俺が男に貫かれて涎を垂らすほどに悦び喘ぐような淫乱だと知ったらどんな顔をするだろうか。実際に知られたら死にたくもなる最悪な展開だが、今のように快感に支配されている間には、妄想が被虐的な方向に膨らんでいってしまう。
「んん…、…ぁ?」
 顰められた眉の下の圭介の目が、薄っすらと開かれる。
「圭介っ、起きた…?」
「兄貴…?」
 圭介の目はゆっくりと大きく見開かれていった。その目に映るのは、自分の腰に跨った兄の姿。下半身には何も身に着けておらず、あろうことか己の一物を後ろで咥え込んでいるのだ。圭介が驚愕に口をあんぐりと開ける。
「兄貴!?何してんだよ!?]
 状況がいまいち飲み込めないのか、圭介の口は開いて塞がらない。
「ははっ、何って、セックス」
 不敵な笑みを浮かべて卑猥な言葉を言い放つ俺を、圭介は言葉もなく見つめ返す。
 そんな圭介を尻目に、俺はもう後ろへの刺激の足りなさに我慢が出来なくなってきていた。片手を圭介の腹の上に添え、ゆっくりと腰を上下に揺らす。
「…ぁんっ、…んんッ……」
 奥まで貫いている圭介のモノは、俺の奥深くにある前立腺に容易に当たる。そこに当たるように執拗に腰を蠢かせる。
「…ふぅッ、…ん…、あぁッ…」
 なるべく声を抑えようとしても、だらしなく開いてしまう口の隙間から漏れ出てしまう。
「兄貴…!やめろ…、…何でこんなこと…っ」
 俺から逃れようと圭介は身体を捩るが、腕が頭上でしっかりと拘束されているために上手く動けない。
 悦びの蜜があっという間に圭介の腹を汚していく。本来の目的も忘れて、快感の波に攫われる。
「…ぁアッ…んっ、…はぁッ…」
 腰の動きが止まらない。もっと奥で感じたい。深く深く貫かれたい。頭が沸騰したように熱くなって、目の前が霞んでいく。アナルってこんなにも気持ちいいものだったか。そんな考えも、前立腺に強烈な突きが入った瞬間に弾けて飛んだ。
「――ああぁぁッ…」
 嬌声と共に精液が圭介の腹に飛び散る。それとほぼ同時に、圭介のうめき声と共に熱い液体が最奥に叩き付けられる。
 腰をあげて圭介のモノを引き抜く瞬間、名残惜しむように吐息が震えてしまう。少し中に擦れただけでも感じてしまいそうになる。
「圭介……」
 見上げると圭介が侮蔑の混じった眼で俺を見ていた。その目は完全に冷め切っていて、切り捨てられた彼女たちを見る目と変わらなかった。
「最低だな。ここまでクソな兄貴だとは思わなかったよ」
 吐き捨てる様に言い放たれた台詞は無機質さを帯びていた。まるでドブネズミを見るような目で嘲りの言葉を吐かれただけで、俺のモノは軽く反応してしまう。
「そうだよ。お前の兄貴は男のちんこ咥えるのが大好きで、弟に軽蔑されて興奮するようなドMのド変態だよ」
 自嘲気味に笑うと、圭介の顔はみるみるうちに嫌悪に歪んでいく。
「この淫乱が。気持ち悪ぃんだよ。…早く腕解け」
 ベルトの隙間から覗く手首には、赤い抵抗の痕がくっきりと残っていた。拘束を解くと、圭介は俺をベッドから蹴落とし、すぐさま距離を取る。
「早く出てけ。お前と同じ空気を吸ってると思っただけで吐き気がする」
 圭介は汚れた身体をティッシュで拭き取ると、素早く服を身に着け、俺のスウェットとパンツを拾い上げ、床に尻餅を着いている俺に目がけて投げつける。
「…俺がホモだって親に言う気か?」
「当たり前だろ。今朝からそのつもりだ。お前みたいなクズは勘当されればいい」
「……っはは」
 堪えきれなくなったように笑う俺を、圭介は不審な目で見る。
「何がおかしい」
 俺はゆっくりと立ち上がると、本棚に近づく。
「今の、…全部撮ったから」
 本棚に置いていたスマホを手に取り、見せつける様に翳す。
「――っ!てめぇっ!」
 怒った圭介は掴みかかるようにして、スマホを持った俺の手首を折れんばかりに締め上げる。
「痛っ!」
 痛みに堪らず手を離してしまい、スマホは俺の手を滑り出し、部屋の隅に転がっていく。慌てて取りに行こうとする圭介を阻むように手で制する。
「無駄だ。撮り終わったと同時に他のいくつかのデバイスに送信されるように設定してある。スマホから消しても意味はない」
 圭介の身体から力が抜け、諦めた様に俺から離れ、ベッドに腰掛ける。その顔からは怒りが消え、代わりに諦めと呆れが浮かんでいる。
「俺の弱みでも握ったつもりか?」
「あぁ。お前が誰かに俺の性癖をバラした瞬間に、この動画を俺のサイトにアップする。勿論お前の顔に修正なんて入れねぇよ。お前が実の兄に犯されて中出ししちまうような変態だって世間に知れ渡る」
 圭介は深くため息を吐く。その目は暗く曇ったまま、床の一点を見つめて動かない。
「とんだ外道だな。自己保身のためなら手段を選ばないってか?」
「あぁ、そうだよ。自分が一番大事だからな。人間ってのはそういう生き物だろ?」
「ほざけ、クソが。お前と話してても埒が明かねぇ。二度と俺の視界に入るな」
 そう吐き捨てると圭介は部屋を出ていった。程なくして、階下からシャワーが床を打つ音が聞こえてきた。
 俺も自室に引き返し、ベッドに腰掛ける。
 実の兄に犯されるなんて、圭介にとって吐き気を催す出来事でしかない。兄に抱いていた尊敬の念は掻き消え、侮蔑の念しか今はもう残っていないだろう。
 結局俺は自分の事しか考えていない。弟を犠牲にしてまで自己保身に走っている。だが不思議と後悔の念は湧いてこない。行くところまで来てしまったからか。いや、俺が圭介の言うとおりにクズ人間だからだろう。外では体よく爽やかな仕事のできる人間を演じていても、俺の根底にある腐った根性は変わらずに腐ったままだ。
 そこまで分かっていながらも、俺の後ろは圭介の存在感を思い出して疼いてきてしまう。ベッドに四つん這いになり、後ろに指を差し入れる。圭介の精液が注ぎ込まれたために、中はまだ濡れていて、やすやすと指を飲み込んでいく。
「…んぅ…」
 同時に前も弄るが、先ほど味わった快感にはほど遠い。俺は指を引き抜くと、ベッドの下に隠した箱から極太のバイブを取り出す。再びベッドに四つん這いになり、バイブを後ろに宛がい、一気に挿入する。
「…んんっ……!」
 枕を噛みしめて漏れ出る声を吸収させる。振動を最強にして、前立腺に当たるように必死にバイブを動かす。
「…ぁんッ…、…ふぅっ…、…ぅ…」
 圭介が苦しそうに眉を顰めて絶頂に達した瞬間が、閉じた瞼の裏に焼き付いている。
 どこまでも欲求が収まらない俺は、その夜、一晩中自慰に狂った。


- 5 -

*backnext#

-家庭内密事-
-彼の衝動-