07

 完全なる欲求不満だ。
 仕事続きでオナニーともご無沙汰だった俺は、当然溜まっていたわけで。それなのに先日は圭介に奉仕しただけで、俺の身体は全く満たされていない。
 スーツ姿で朝の満員電車に揺られながら、悶々と思いを巡らす。
 圭介に動画の脅しは有効だ。誰かに俺の性癖について、口を割る気配もない。圭介の態度は見る目に冷たくなったが、両親の態度は今までと何ら変わらない。俺は今まで通り、何の支障もなく日常生活を送れている。
 しかし、脅しの効力はそれまででしかない。あの脅しで圭介に対して口封じ以上の要求はできそうにない。先日の圭介の態度がその証拠だ。兄とセックスするのは何があっても、もう真っ平御免ということだ。
 俺としては、あの立派な一物で貫いてもらえないことは、名残惜しいどころの騒ぎではないが、どうしてもヤらせてくれないのなら仕方がない。動画以外には圭介の弱みなど握っていないので、抗いようがない。
 乗客が増えるごとに、段々とドアの方へと押しやられる。
 ドアの外の景色は目まぐるしく流れていく。
 乗車してから二駅を過ぎたころ、電車がガタンと揺れ、よろめいた瞬間に何者かに尻をガッと掴まれた。はっとして辺りを見回すが、周りは普通のスーツ姿のサラリーマン達で、怪しい動きをしている人物はいない。ドアにもたれる様に手を付き、気持ちを落ち着ける様に息を吐く。
 が、それもつかの間、再び電車の揺れと同時に尻を掴まれる。
「……っ!」
 今度は揺れが収まってもなお、手が離れる気配はなく、むしろ揉むように撫でてくる。紛れもない痴漢だ。
 ドアのガラスの反射で背後を確認するが、映っているのはやはり、スーツ姿のサラリーマン達だ。だが、よく見るとその後ろには女性もいる。なぜその女性ではなく俺を触るのか。
 男の手が尻から離れたかと思うと、今度は前に手を伸ばしてきた。ベルトのバックルを緩めて、下着の中に手を入れてくる。
「……っ…」
 男の手は無遠慮に俺のモノを掴んで、ゆるゆると扱く。俺は唇を噛んで必死に声を我慢する。
 そんな俺を見て、背後で男がおかしそうにクスリと笑う。
「……っぁ!」
 身体がビクリと跳ねた。今度は誰か違う手が伸びてきて、俺の乳首をワイシャツの上から弄りだしたのだ。数年前から開発され切っている俺の乳首は、少し触られただけですっかり勃ち上がってしまう。抵抗しない俺をみて調子に乗ったのか、男はシャツのボタンを外して俺の肌に直に触ってくる。
「……ふッ…、ぅ……」
 どこからともなく複数の大きな手が伸びてきて、俺の身体をくまなく弄っていく。
 普通の男なら萎えてしまって、一切反応を示さないはずだ。だが、俺のモノは萎えるどころか、どんどん首をもたげていく。
 知らない男に公衆の場で犯されるなんて堪らなくそそる状況だ。ガラスに映る、男の背後にいる女性はすぐ傍で行われている行為に気付きもしないで、スマホの画面をスクロールしている。湧き上がる背徳感に、情欲が湧きたつ。
「…は…っ、ぁ…」
「声あげんなよ」
 そう耳元で囁いた男は、俺が締めているネクタイを軽く丸めて、俺の口にねじ込む。
 太くて骨ばった指が、下着に侵入して、俺の後ろに辿り着き、ぐっと指先をねじ込んでくる。俺の先走りで濡れたその指は、やすやすと俺の中に侵入してくる。
「ガバガバじゃねぇか。アナニーでもしてたのか?えぇ?」
 勿論、こんな素晴らしい展開が偶然であるはずがない。第一、俺は徒歩出勤だ。朝の満員電車に揺られること自体、普段は無いに等しい。
 これらの男は全てネット上で知り合った男達だ。せっかくの久しぶりのセックスなのだから、十分に楽しみたい。平日に有休を取ってまで性生活を満喫しようとしているのだから。後ろは余念なく慣らしてきたために、今すぐにでも挿入できる。そこまでする自分の必死さにさすがの俺も笑けてくる。
 だが、ここでおねだりなんてしたら、せっかくのシチュエーションが台無しだ。
「…っ……、やめ…ッ…」
 男は苦悶の表情を浮かべる俺を鏡越しに見て笑う。
「やめてほしそうには見えねぇけどな」
 ぴんと指で弾かれた俺のモノは既にそそり立っており。悦びの蜜を溢れさせている。
 男は折り畳みナイフで俺のスラックスとパンツの後ろを慣れた手つきで引き裂くと、現れたアナルに己の一物を宛がう。それだけで期待に口が綻ぶ。
「…は…ッ、――んんッッ―!」
 解れきった穴はすぐに男のモノを全て飲み込んでしまう。男は馴染むのも待たずに腰を振り始める。
「…ぅ……、ん…ッ…」
 ネクタイを噛んで、必死に声を押し殺す。ガラスに映る俺の顔は生理的な涙で濡れ、口端から涎を垂らしている。完全に雌に成りきっていて、後ろを犯される快感に目が蕩けている。
「完全に雌顔じゃねぇか。とんだ淫乱だな」
 その俺を蔑んだ台詞に、圭介の軽蔑にまみれた顔が過ぎる。
「――んんんッ!」
 達してしまった。あまりにも早い絶頂に、自分でも戸惑う。涎を垂らす俺の下着に黒い染みが出来ていく。
「詰られてイったのかよ。ドMだな」
 嘲るような男の声が、圭介の声と被る。息を切らす俺に気遣いもなく、ちんこが引き抜かれたかと思うと、再び別の男が一気に挿入してきた。
「―んぅッ…!」
 腰が抜けて立っていられなくなる。
「まだくたばるんじゃねぇぞ」
 下がりそうになる腰を掴まれ、ガクガクと揺さぶられる。
 さっき圭介の顔が頭に過ぎった瞬間に、快感が倍になったような気がしたが、気のせいだろうか。物思いに沈みそうになったが、与えられる快感に、物事を順序立てて考えられなくなっていく。
 声を我慢するのに精一杯で、何かを考える余裕なんてない。
 複数の男たちに犯されていくうちに、段々と意識が曖昧になって来る。混濁した意識の中で、男の荒い息遣いだけが聞こえていた。


 気づくと、俺は便器の上に座らされていた。どこかの駅の公衆トイレだろうか。お世辞にも綺麗だとは言えない。
 下半身からは衣服が取り去られ、申し訳程度に引っかかっているワイシャツも、汗やら何やら分からない液体でびしょびしょだ。少し身を捩っただけで、後ろからは精液が溢れ出てくる。
 周りには五人の男が下半身を丸出しにして、俺を取り囲んでいる。その内の一人はこちらにスマホを向けながら、下卑た笑いを浮かべている。
 俺は男に犯される悦びに身を打ち震わせながら、目の前のちんこにむしゃぶりついた。


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