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 僕は刑務所に入らなくてもいいらしい。保護観察処分とかいうやつになった。僕にはよく分からないけど、これからも啓兄と一緒にいられるから良かった。
 電車の車窓に僕たち二人の顔が反射している。ビルや住宅街が広がっていた風景が、次第に畑や田んぼに変わっていく。
 僕らは膝にリュックを抱えて、電車に揺られている。
「啓兄、大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ」
 リュックを抱きしめる啓兄の手が少し震えている。閉ざされた場所が嫌いな啓兄は、電車に乗るのも嫌いだ。
 そっと啓兄の手を握りしめると、啓兄は安心したように微笑み、段々と震えが収まっていくのが分かる。
 僕たちはこれから遠い親戚の家に行く。他に身寄りのない僕らには、そこしか行く場所がないんだと啓兄が言っていた。
 僕は啓兄と二人だけで暮らしたいと言ったけれど、子供だけじゃ暮らしていけないらしい。
 僕にはもう啓兄を守れるほどの力がある。これから一緒に暮らす人が、どんな人たちかは分からないけれど、もし啓兄を傷つけるような真似をしたら、僕は容赦しない。
 啓兄の手を握りしめる手に力が入る。
「大人になったら、僕たち二人だけで暮らそうね」
 僕は啓兄を傷つけたりは、絶対にしないから。
「うん、そうだな。そうなったら楽しそうだな」
 啓兄は嬉しそうに笑う。
「啓兄は、どんな家に住みたい?」
「んー、広い家かな。家の中に風が吹き抜けるような、息苦しくない家」
「分かった。僕、頑張って見つけるから、絶対一緒に暮らそうね。約束だよ」
「うん、約束」
 二人で指切りげんまんをする。
 しばらくすると、ごーっという音がしてトンネルに入る。耳の奥がぎゅっと押さえつけられるような感覚がする。途端に心配になって啓兄を見たら、啓兄は苦しそうに唇を噛みしめていた。僕は啓兄のつらい思いを少しでも和らげようと、僕は啓兄の背中をさすってあげる。
 やがて暗いトンネルを抜け、景色が開ける。すると外には、真っ青な海が広がっていた。
「啓兄!海だ!」
 僕は嬉しくなって、すぐさま窓にへばりつく。初めて見る光景に目を奪われる。
 海水は太陽の光を反射して、きらきらとした輝きを放つ。海の上にたくさんの金平糖をばら撒いたみたいだ。海がうねるたびに、金平糖がいろんな色に変化したり、大きくなったり小さくなったりする。
「啓兄…、きれいだね」
「うん、本当にきれいだ」
 横を見ると、啓兄も目を輝かせて海を見ている。
「毎日こんな景色が見れたら、幸せだろうな」
 そう言って啓兄は嬉しそうな笑顔でこちらを振り向いた。
 その笑顔は海よりも美しく光り輝き、その目はガラス玉みたいに、純粋に煌いている。
 啓兄の方が何倍もきれいだ。漠然とそう思った。
 この笑顔をいつまでも見ていたい。
 啓兄とずっと一緒にいられたなら。
「きっと幸せだよ」
 僕がこの笑顔を守るんだ。


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