14

 啓兄は日に日に弱っていく。眠りに落ちても、親父の夢を見てうなされ、すぐに目を覚ます。自分の部屋にいるのに、物置にいると勘違いしてパニックになり発狂する。過去と現実の見分けが付かなくなってきているようだ。
 ストレスが過重にかかって食欲も減少し、食事もあまり口にしない。
 まだ理性を保ってはいるが、このまま精神が崩壊してもおかしくない。
 いつものように二人で俺の布団に潜り込む。啓兄と二人、向かい合うようにして寝そべる。
 俺が啓兄を苦しめている。俺がもう殺さないと一言誓うだけで、啓兄は外に出る。閉暗所から脱することが出来る。
 だが啓兄が閉じこもってから三週間経った今でも、俺には啓兄の言う他人の命の価値が分からない。啓兄が何度も俺に説いてくれたけど、啓兄の考えは高尚すぎて、屑で低俗な俺には理解できない。
 啓兄は、啓兄も俺も他人も皆同じように尊い命なんだと言う。でも、他人は全員もれなく、啓兄を親父みたいに傷つける可能性を孕んでいる。そんなやつらが啓兄と同等である訳がない。啓兄が何よりも尊くて、他は啓兄に傅くべきだ。それが出来ない救いようのないゴミに存在価値なんてない。
「啓兄、大丈夫か?」
 隣で眠る啓兄の呼吸が乱れている。また悪い夢を見ているのかと心配になって、啓兄の頭に手を伸ばす。
「…んっ…」
 上ずった声が聞こえて、腕が空で止まる。聞き間違いかと思ったその時、啓兄が急に俺を押し倒して、上に覆いかぶさるように跨ってきた。
「啓兄…!?]
「…周」
 目の前にある啓兄の顔は上気し、少し苦しそうに眉根を寄せている。ぬちゅ、と聞こえた濡れた音に、まさかと思って視線を下げると、啓兄がパンツの中に手を突っ込んで、自分のモノを弄っている。
「啓兄!?何して――」
「周…、俺、こんなこと、…出来ちゃうんだよ…?」
 啓兄の潤んだ目は俺の目を真っ直ぐに射抜く。俺は、どこか自虐的なその目に捕らわれてしまったように、身体が固まって動けない。
「俺は、神様なんかじゃ、ないよ…。…ッ、弟の前で、こんなこと出来ちゃうぐらい…、…ぁっ…、性欲に塗れた、汚い、人間だから…っ…」
 思わず生唾を飲み込む。今までに感じたことのないほどの熱量が腰に集まっていく。
「啓兄…!」
 ぐいっと啓兄の腕を引っ張って、体勢を入れ替える。
「周…?」
 急にベッドに押さえ付けられた啓兄が、頭に靄がかかったような顔で俺を見上げる。
「啓兄…、俺っ…!」
 頭が沸騰するように熱い。啓兄の姿に、我を忘れてしまいそうなほどに、興奮する。
 気づいた時には、啓兄に噛みつくようにキスしていた。
「――ッ!?…周ッ…、…んっ…、…しゅ…う、…っ…」
 驚きに開かれた啓兄の唇に舌を差し入れ、貪るように啓兄の舌に喰らいつく。呼吸が苦しそうに喘ぐ啓兄に気遣いもなく、欲望の赴くままに舌を動かす。
「…はぁっ…、はぁっ…」
 やっと唇を離すと、啓兄は俺の下で涙ぐみながら、荒い息をしている。少し視線を下げれば、ずり下がったパンツから首をもたげている啓兄のモノが顔を覗かせているのが目に入る。それは少量の蜜を垂らして、ひくひくとひくついている。
「啓兄…っ、俺、我慢できない…っ」
 高ぶる熱が、留まるところを知らない。それは俺の中でどんどん高ぶって、もどかしいほどに体内で燻っている。
 切羽詰まった顔で言う俺に、啓兄はそっと微笑みかける。
「もう誰も殺さないって、約束する?」
「する」
 俺が即答すると、啓兄は俺の耳を引っ張って自分の口元に引き寄せ、手の甲でそっと俺の股間に触れる。
「優しくしろよ?」
 俺は突風のような速さで啓兄の来ている服を全て剥ぎ取り、啓兄のモノにむしゃぶりつく。
「…んっ、…ぁ、……あっ…、…ふ…ぁ…」
 ピンク色の綺麗なモノに舌を這わせ、時折先っぽを舌で抉るように舐める。啓兄の腰が跳ね、身悶えるように身を捩る。俺は啓兄の後ろの袋を掴んで揉みしだきながら、口を輪っかの形に作って頭を上下に動かす。
「…ぁっ…、んん…、…は、ぁ…」
 溢れ出る先走りを残らず舐め取って、飲み下す。
 俺は今まで啓兄に性的な欲望を抱いたことはなかった。啓兄は神聖な存在だから、そういう対象にすることは啓兄への冒涜だと思っていた。一人で処理するときも、事務処理のようにただ右手を動かすだけだった。だが、実際に啓兄の乱れた姿を目にしたら、俺の理性は瞬時に吹き飛び、今まで目を背けて必死に押さえ込んでいたものが一気に爆発してしまった。ずっと溜め込んできた啓兄への情欲は、媚薬のように俺を狂わせる。
「…周っ、…もう、離してっ…」
 啓兄が俺の髪の毛を引っ張って、引き剥がそうとするが、俺は目の前のモノを夢中で貪る。
「もう、出る…っ、出るから…ッ」
 すっかり勃ち上がった啓兄のモノが俺の口内を圧迫している。俺は追い打ちをかけるように、上下運動を加速する。
「――ああぁぁッ…!」
 膨れ上がったモノがぱんと弾け、白濁が口内に吐き出される。俺はそれを全て飲み込み、先っぽを咥えて中に残ったものまで吸いだして飲み下す。
「…はぁっ、はぁっ、…飲むなよ、汚いだろっ…!」
「汚くない。啓兄は隅から隅まで、どこもかしこも綺麗だ」
 羞恥に潤ませながら睨む啓兄の目元に滲んだ涙を舐め取り、そっと唇を重ね合わせ、胸の突起を摘まむと、啓兄が眉を顰めて顔を背ける。
「…おいっ、俺は女じゃないぞ…っ」
「大丈夫。男でも、ちゃんと気持ちよくなる」
 啓兄は嫌そうに暴れたが、俺の強引さに負けて、結局はされるがままになった。
 胸の突起を指でつまんでこりこりと刺激し、もう片胸は口に含んで舌で弄ぶ。弄っていくうちに、だんだんと芯を持って勃ち上がっていく。上目遣いで啓兄を見ると、不審そうだった目がだんだんと蕩けていく。
「な、ちゃんと気持ちいいだろ?」
 啓兄は顔を朱に染めて、ふるふると首を横に振る。女のような身体になっていく自分が恥ずかしいのだろう。素直に認めない啓兄に悪戯心が湧いて、乳首を強く引っ張る。
「――あぁっ!」
 啓兄がさっと手で口を覆ったが、俺と目が合うと湯気が出そうなくらい真っ赤になった。
「…啓兄、かわいい」
 耳元でそっと囁くと、啓兄は仕返しだとでもいうように、俺の肩口にぱくりと噛みついて歯形を付けた。
 俺は啓兄の耳朶を甘噛みして、そっと囁く。
「本当に、いいのか?」
 俺の指が後腔に触れると、啓兄は怯えるように身を震わせたが、やがて恥ずかしそうに頷いた。その瞬間、俺は啓兄を裏返して四つん這いにさせ、後ろに舌を這わせた。
「――なっ!…そんなのしていいって言ってない!」
 逃げようとする啓兄の腰を捕まえて、後腔周りを舐める。
「汚いから…っ!…やめろよ、っ!」
「汚くない」
「…ッ!…そこで、しゃべるな…っ!」
 既に腑抜けてしまっている啓兄は力が入らず、うまく抵抗できない。
 俺は尻たぶを掴んで押し広げ、周りを解すように舌でつつく。
「周っ…、やだ…ッ」
 枕に顔を埋めて羞恥に身悶える啓兄を他所に、俺は舌を差し入れて唾液を注ぎ込んでいく。
「…や…っ…、しゅ…う…、ぁっ…ん…」
 解れていくにつれて、周の声にも艶めきが帯び始める。
 啓兄の全身をナカまで全て舐め尽くしたい。啓兄の身体の形を舌で手で、憶え込むほどに触り尽くしたい。腸内の皺の形まで知り尽くしたい。誰も触ったことのない啓兄の秘められた部分に、俺だけが触れていることが優越心をくすぐる。
 俺の肉厚な舌を、啓兄はどんどん飲み込んでいく。なるべく奥まで感じたくて、舌をめいいっぱい伸ばす。
「…ぁ、…やっ…、…ふっ、ァ…」
 踏ん張れずに落ちそうになる啓兄の腰を掴んで引き上げる。
 十分に解れきってから、俺はゆっくりと舌を引き抜いて、自身を取り出す。
「…待って」
 啓兄がこちらを振り向いて、か細い声で言う。
「周も、全部脱いで。…俺だけじゃ、恥ずかしい」
 啓兄は既に裸だが、俺はまだ服を身に着けている。可愛いことを言う啓兄に今すぐに挿入したい衝動を堪えて、急いで着ている服を全て脱ぎ去る。猛りきった自信を啓兄の後ろに宛がおうとすると、また啓兄が俺を制した。
「まだ何かあるのか?」
 これ以上待たされたら身が持たない。俺のモノは苦しいまでに張りつめている。
 啓兄は身体を反転させ、仰向けになり、両脚を俺の腰に絡ませる。
「周の顔を見ながら、…やりたい」
 瞬間、俺のなけなしの理性が吹き飛んだ。俺は啓兄の腰をがっと掴んで、自身で一気に啓兄を貫く。
「――あああぁぁっ!」
 啓兄が身体を仰け反らせる。
 優しくしようと思っていたのに、そんな考えは一気に吹き飛んで、荒々しく腰をぶつける。
「…あ、…ア…、んっ、周…、激し…っ、あっ、…ぁ…」
 啓兄のモノからは先走りが溢れ、腹を濡らしていく。そのまま会陰を伝っていった蜜が結合部まで届き、潤滑剤のように潤いを加えていく。
「…あっ、はァ…っ、…ん、――あぁッ!」
 胎内のある一点を突いた瞬間、啓兄が甲高い声を漏らした。俺はそれを発見した悦びに身を震わせ、馬鹿の一つ覚えのようにそこを突きまくる。
「…アァっ、…周っ、…そこ、おかしい…っ」
 啓兄は強すぎる快感への恐怖からか、逃げるように腰を擦り上げようとするが、俺は啓兄の腰を掴む手に力を入れて、逃げられないようにする。
「…やめ…っ、…あぁッ、ぁ…、や…ァ…っ…」
「嫌じゃないだろ」
「…やっ、…ぁあっ…、…変に、なる…っ…」
 啓兄が握りしめるシーツに皺が寄る。俺は快感に身悶える啓兄の腕を取って、俺の肩に回させる。
 啓兄のナカは俺をぎゅうぎゅうと締め付けて、絡みつくように蠕動する。俺と啓兄の体温が一つに溶け合って、絡み合う。
 奥をゆっくりと擦ると、啓兄はびくびくと背中を仰け反らせ、俺の背中に爪を立てる。
「啓兄、気持ちいい…っ?」
 俺を抱きしめてこくこくと頷く啓兄の胸の突起を摘まみながら、首筋を吸って赤い痕を残す。
 啓兄のモノからは先走りが溢れ出て、腹に着きそうなほど勃ち上がり、今にも弾けそうだ。俺のモノも、歓喜に涙を流して膨れ上がっている。
「啓兄、俺…っ、イきそう…っ」
「…俺も…っ、…ぁっ、…は、…あぁ…ッ…」
 俺は腰を振る速度を上げ、啓兄と自身を高めていく。啓兄の乳首を抓りあげ、最奥を突き上げた瞬間、啓兄のナカが喰い千切らんばかりに俺を締め上げる。
「――あああぁぁ…ッ…!」
「――くッ…!」
 啓兄のモノが弾けて、白濁を飛び散らす。ほぼ同時に俺も爆発して、飛び出した白濁を、啓兄のナカにどくどくと注ぎ込む。啓兄がびくびくは四肢を痙攣させて、口端から唾液を零す。
 俺はその唾液を舐め取りながら、果てた自信を引き抜く。
「…んんっ」
 啓兄はそれだけの刺激で感じてしまうぐらい、全身が敏感だ。
 俺は布団に倒れこんで、啓兄を抱きしめる。
「啓兄…」
 啓兄の額にかかった髪をかき上げる。啓兄は目を閉じていて、気絶したように眠っている。
 抱きしめた啓兄の身体は、以前より明らかに細くなっている。俺は心臓をぐっと握られたような感覚を紛らわすように、啓兄の髪に顔を埋めた。


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