12

汽笛を吹く紅い列車の窓から身を乗り出して、見送りに来てくれた先輩達に大きく手を振った。
今日からクリスマス休暇が始まる。

「それで?聞かせて貰うわよ、オリヴィア」
「うっ」

休暇中、最後の年は学校で過ごすリーマス先輩達に別れを告げた後、寒さで赤くなった手に息を吹きかけていたら隣に座っているベルがニヤニヤした顔を隠そうともしないで話しかけてきた。
正面に座っている双子も目を爛々とさせて私を見る。

「聞かせてって、別に何もないよ」
「「何もないなんて言わせないわ!」」
「この間ジェームズ先輩といなくなってた時からまともに聞く時間なかったんだから、ちゃんと教えて」
「そうよ!私はシリウス先輩とすぐに寮に戻ったのに全然帰ってこないし、帰ってきたら帰ってきたで泣いてるし!」
「しかも泣いてた理由も教えてくれないし、、私すごく心配してたのよ?」
「「「さあ!何があったの!」」」

打ち合わせでもしてたのだろうか。
ベルまで息ピッタリに口を揃える親友達に若干引いた。
だけど、私も聞いてほしかった。
自覚した気持ちを、親友達にちゃんと話したかった。

「...あのね、今さらかもしれないけど、」

静かに私の言葉を待っていてくれる親友達に、私は気恥しさからグッと手を握りしめて告白した。

「私、リーマス先輩が好きなの」

一瞬、何の音も聞こえなくなって、それからシンとした空気を破るようにワッと悲鳴のような歓声のような声がコンパートメント内に響き渡る。
双子が正面でハイタッチをして、私は隣のベルに思いっきり抱きつかれた。

「わっ!ちょっとベル!苦しいし重いわ!」
「うるさい!やっと自覚したのね!」

重いと言うとベルはさらに体重をかけてくる。
というか、やっぱりみんな知ってたんだ。
自分の気持ちがバレバレで恥ずかしい気持ちから、顔が熱い。

「「それでそれで!?リーマス先輩に告白するの!?」」
「しっ、しないよ!」

わくわくとした顔で聞いてくる双子には悪いけど、私は全力で首も手も振って否定する。
その瞬間一斉にブーイングをもらった。

「なんで?」
「だって、リーマス先輩は私のことそんな風に見てないし、」
「でもリーマス先輩の中でオリヴィアってやっぱり特別だと思うな」
「そうね、リーマス先輩は私達よりオリヴィアと一緒にいるし」

それは、そう見えているなら嬉しいけど、たぶん違うと思う。
ジェームズ先輩はいつもリリー先輩といるし、アミーとエリーはピーター先輩に遊んでもらっていて、ベルはシリウス先輩に引っ付いているから。
だから自然に私とリーマス先輩が一緒にいるだけだ。
本当に、きっとそれだけ。

「、それでも、まだ言わない。ちゃんと好きになってもらうように頑張ってから告白する」

そう言うと、三人とも少し残念そうにしながら笑った。

「そう、じゃあ協力するわ」
「うん!絶対くっつけてみせる!」
「応援してるわ!オリヴィア!」

それから恋愛話は一旦切り上げて、クリスマスパーティの話をした。
お泊まり会の時に作戦会議をすると張り切っているベルとエリーに、アミーと一緒に苦笑いすると、エリーはベルに向かって「貴女とシリウス先輩の事もね!」とウィンクを付けて言うのでベルは飲んでた紅茶を盛大に吹き出した。



「じゃあ23日に。またね!」
「オリヴィアのママのお料理が楽しみだわ!」

迎えにきた両親達と一緒に帰っていくベルと双子を見送ってからキョロリと辺りを見渡すと、少し懐かしい赤毛が目に入って駆け出す。

「パパ!ママ!ただいま!」

振り向いたパパに突進する様に抱きついてから、ママにもそっと抱きしめてもらった。

「おかえり、オリヴィア」
「おかえりなさい」

久しぶりにパパとママに会えて、少しだけ泣きそうになってしまったけれど、笑顔の二人に迎えられて、私も思いっきり笑顔を見せる。

「オリヴィア、オルコット夫妻とローダー夫妻は帰ってしまったかね?」
「もう帰っちゃったよ」

オルコット夫妻の所にやけに力を入れて言うパパは、絶対にマグルについて聞きたかったに違いない。
肩を落として残念がるパパの背をママがパシッと叩いた。

「さあ、帰りましょうか。ビルもチャーリーもパーシーも、首を長くして待ってるわ」
「うん!私もはやく会いたい!」

帰りはパパに付き添い姿くらましをしてもらうことになっている。
私はどうにもこの狭いチューブの中にぎゅうぎゅうと押し込められるような感覚は苦手だけれど、一番はやく移動できる方法がこれなのだから我慢するしかない。
パパと手をしっかり繋いでからギュッと目を閉じると、バシッと音がして苦手な感覚に包まれた。
そしてまたバシッと音がした時、私の両足はちゃんと床を踏みしめていだけれど、

「「「おかえりなさい!!」」」

目を開ける間もなく飛びついてきた弟達によって押し倒される。
強かに打ち付けた頭が痛いけどなんとか目を開くと、満面の笑みで私に乗り上げる3つの顔がやっと見れた。

「みんな、ただいま!」

頭の痛みも忘れて三人まとめて抱きしめると、楽しげに笑う弟達の声になんとも言えない幸せな気持ちがこみ上げてくる。
クスクスと笑いながらパパは仕事に戻り、ママはご飯の支度をしにキッチンへ向かった。
ひとまず起き上がってから改めて見ると、三人の成長がよくわかった。

「ビル、身長伸びたね」
「うん!手紙でも書いたけど、ママが牛乳を飲むと大きくなれるって言ってたから毎日飲んでるんだ」
「前は牛乳苦手だったのにえらいわ!」

胸を張って言うビルの頭を撫でると、パーシーが私によじ登ってきたので抱っこをする。
以前よりずっしりと重くなってる気がした。
にこにこしながら頬と頬を擦り合わせてくるパーシーが可愛すぎて、おっきくなったねぇぇ!と抱きしめる力を強くすると楽しそうに笑う。
控えめに言って天使だと思った。

「パーシー、最近は抱っこ嫌がってたのに。姉ちゃんに会えてすごい嬉しいんだな!」
「そうなの?でも私も会えて嬉しいわ!チャーリー、あなたの顔もよく見せて」

抱っこしていたパーシーをビルに預けてから、いつの間にかちゃんとお兄ちゃんになっているチャーリーを近くまで呼ぶと、照れくさそうにしながら近寄ってきた。
ビルとパーシーは色白なのに比べて、チャーリーは日に焼けている。
もう、日に焼ける季節じゃないのにと思わず笑みが零れる。

「チャーリー、ビルと一緒にパーシーのお兄ちゃんしてくれて偉かったね」
「へへっ」
「チャーリーがいてくれて、すごく助かったってビルが手紙で教えてくれたよ。私もとっても安心したわ。ありがとう」

頭を撫でるとチャーリーは得意気に笑っていたお兄ちゃんの顔から、本当はとっても甘えたがりの弟の顔になった。

「僕頑張ったよ。だから姉ちゃん、明日はいっぱい僕と遊んで」
「うん、明日は天気も良さそうだから久しぶりに箒に乗ろっか」

嬉しそうに頷いたチャーリーをもう一度撫でてから「ビル」と呼ぶと、身長が伸びた長男はパーシーを今度はチャーリーに預ける。

「荷物、部屋に持っていくの手伝ってもらえる?」
「うん、もちろん」

飛びつかれた拍子に吹っ飛んだ荷物を集めて、ビルと手分けして持ちながら階段へ向かうと、チャーリーとパーシーが自分達も手伝うと言ってくれたけど、

「ありがとう。でも二人はまずお片付けね。絵本もクレヨンも、出しっぱなしにしてるとママに怒られるわよ」

「ママに怒られる」は効果てきめんだ。
二人がぴゃっと出しっぱなしのおもちゃを片付けに行ったのを見て、ビルと二人で笑った。
荷物を持って部屋に入ると、しばらく使ってなかったのに綺麗に掃除されていて、嬉しさに顔が綻ぶ。

「ビル、本当にありがとう。二人をしっかり見ててくれて、本当に安心したわ」
「ううん、僕は二人のお兄ちゃんだからね。当たり前だよ」
「それでも貴方は私の大事な弟よ」
「うん」
「約束通り、たくさん頑張ったことを教えてほしいな」

荷物を床に置いてくれたビルの頬を両手で包むと、ビルは擽ったそうに笑った。
そして頑張っていたお兄ちゃんの顔を外して可愛い弟の顔になると、私の背に手を回してキュッと服を掴む。

「僕ね、本当は不安だったんだ。パーシーは全然僕の言う事聞いてくれないし、チャーリーは遊ぶと絶対に怪我をするし」
「うん」
「でもね、姉さんが二人に手紙を書いてくれたでしょ?それからは二人ともちゃんといい子にしてくれた」
「そう、よかった」

ビルは頬を包んでいた手をすり抜けて私に抱きつくと、顔を埋めるようにして強く抱きついてきた。

「、でも、姉さんがいなくて、パパもママも忙しくて、」
「うん、」
「僕、」
「こうやって、抱きしめて、甘えさせてほしかった?」

ぎゅうっと抱きしめて頭を撫でる。

「、うん、僕、本当はすごく甘えたかった」

ポツリと震えた声で言うビルがどうしようもなく愛おしい。
頭を撫でる手を止めて額にキスを落とすと、ビルは驚いたように顔を上げて目をパチクリさせた。

「私も、ビルに甘えてほしい。私にだけは甘やかさせてほしい」

パチパチとさせていた目をスッと細めたビルは、恥ずかしそうに照れながら笑う。
可愛いすぎる。
あまりの愛おしさに私はもう一度ビルをぎゅうっと抱きしめた。
少し苦しそうな声を洩らすビルはそれでも嬉しそうにしている。

「あのね、姉さん、今日いっしょに寝てもいい?」

弟達のこともあって申し訳なさげに言うので、私は嬉しさで爆発しそうになりながら大声で大歓迎だと叫んだ。




「ママのご飯って本当に美味しい!」
「あら、ありがとうオリヴィア」

久しぶりに食べた家の夕食はホグワーツみたいに豪華ではないけれど、舌に馴染んだ優しい味付けはママにしか作れないものだ。
ママの愛情がたっぷりこもったご飯を食べながら、ホグワーツでの生活を皆に話す。

「それでね、リーマス先輩に紹介してもらってクディッチチームの皆と仲良くなれたの!」
「いいなー、僕もはやく学校に行ってクィディッチしたいな」
「チャーリーも入学したらきっと選手になるわ!だって飛ぶのすごく上手だもの!」
「姉さん、学校の勉強って難しい?僕、入学しても勉強出来なかったらどうしよう、、」
「大丈夫よ、先生達がわかりやすく教えてくれるわ。心配なら私が教えるし」

ビルとチャーリーははやくも学校に行きたくて仕方がない様子だ。

「オリヴィアは優秀な魔女だと、先日魔法省に来ていたダンブルドアにたまたま会ったんだが、とても褒められたよ」
「そうそう!お母さんも鼻が高いわ」
「そうなの?なんか、恥ずかしいな。私、宿題をいつもリーマス先輩に見てもらってるの。きっと先輩のお陰だわ」

そう言うとママは「あらあら、」と言いながらにんまりと笑い、パパはキュッと唇を引き結んだ。
いきなりの変化に少し困惑しまう。
今の今まで和やかに話してたはずなのに急にどうしたんだろう。
ママのにんまりとした笑顔に既視感を覚えた。

「アー、オリヴィア、まさかその、リーマス先輩とかいう彼のこと、、イタッ」
「あなた、その話は後にしましょう」
「?」

言いづらそうに口をモゴモゴとさせるパパの肩をパシッと叩いたママはそう言って、にんまりしたまま後でママのお部屋にいらっしゃいと言う。
なんだか嫌な予感。

「おねえちゃん、学校って楽しい?」
「ん?ええすっごく楽しいわよ!」
「お家にいるよりも?」
「お家にいるのも同じくらい楽しいわ」

とりあえず今は話す気がないと悟り、ご飯を食べる手を進めるとパーシーが寂しそうに言うので、私は逆に笑顔で返した。

「でもそうね、学校は楽しいけれど、家族に会えないのはすごく寂しいわ」
「そっか!」

暗にやっぱり家が一番だというのを伝えると、パーシーはにこにこと笑う。
私の弟達ってなんでこんなに可愛いんだろう。




お風呂に入った後で夕食のときに言われた通りママの部屋に行くと、ママは編み物をしていた。
たぶん、クリスマスプレゼントのセーターの仕上げをしていたのだろう。

「オリヴィア、こっちにいらっしゃい」
「うん」

大人しく近寄ってママの傍にあった椅子に腰掛けた。
編む手を止めずに、ママはにっこり笑いながら口を開く。

「あんなに小さかったオリヴィアも、もう恋をする年になったのね」
「うん。ん?えっ、ちが、な、なんで!?」
「あら、ママに隠し事が出来ると思ってるの?」

うふふと笑いながら言うママに動揺してしまう。

「リーマス先輩って子が好きなんでしょう?」

ぱくぱくと口を動かす事しか出来ない私に、ママはズバリ言い当ててきた。
なんで?私ってそんなにわかりやすいの?

「オリヴィアはお父さんに似て、すぐお顔に出ちゃうもの」
「......」
「でも恥ずかしい事じゃないわ。恋をするのはいい事よ。おばあちゃんとおじいちゃんが恋をして、私とお父さんが恋をして、そうやってあなた達は生まれてきたんだから」

ママがあまりにも優しく微笑むから、私は恥ずかしいと思っていたことを恥じた。
そうだ、悪いことをしている訳じゃないのに、どうして恥じる必要があるの。

「うん。私ね、リーマス先輩が好き。すっごく大好きなの」
「そう。リーマス先輩ってどんな子なの?」
「あのね、とっても優しくて、でもダメな時はちゃんとダメって言ってくれて、それにね、私のこといつも助けてくれるし、心配もしてくれるの」

ママはまた「そう、」と呟いて、編み物をしている手を止めた。

「いい人に出逢えたのね。その気持ちを大事にしなさい」

私が頷いたタイミングで部屋の扉を控えめにノックする音が聞こえて振り向くと、お気に入りのパジャマに着替えたビルが所なさげに立っている。

「ごめんなさい、僕、邪魔しちゃった?」
「いいのよビル。どうしたの?」

ママに優しく問われたビルはスルリと私の傍にやって来て、キュッと袖を掴んだ。

「あのね、姉さん、僕もう眠い」
「あっ、ごめんねビル、もう寝よっか」

お話しに夢中になっていた私は、もう寝る時間だと気付いて慌てて椅子から立ち上がり、ママにおやすみの挨拶をしてからビルと手を繋いで部屋を出る。

「姉さん、本当に僕邪魔じゃなかった?」
「ううん、むしろありがとう。ビルが来てくれなかったら、チャーリーとパーシーに夜更かしはダメって言っておきながら私が夜更かししちゃってたわ」

階段を上りながら不安そうに聞いてくるビルの頭を撫でながら苦笑すると、ビルはまた擽ったそうに笑った。
二人で部屋に入り、並んでベッドに潜り込む。
ベッドの中でビルがキュッと抱きついてきたので、私ももっと強く抱き締め返した。

「おやすみなさい、姉さん」
「おやすみ、ビル」

眠いのを我慢して待っていてくれたせいか、すぐにスースーと寝息をたてるビルの頬にキスをしてから私も眠りについた。