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「…どうしよう、決まらないわ…」

ベッドの上で胡座をかいて、カタログを見ながらうむむと唸る。
この間のバレンタインではリーマス先輩にカードを送った。
どうすれば今の時点で私だとバレずに伝えられるか、いろいろ悩んだ末に「貴方が好きです」と匿名で。
カモフラージュに別の種類のカードを使って「幸せが訪れますように」と先輩達皆に送ったからたぶん私が送ったとは思わないはず。
そして今悩んでいるのは、1週間後に迫るリーマス先輩の誕生日プレゼントだ。
誕生日は今日の朝、ジェームズ先輩が教えてくれた。

「そういえば、オリヴィア」
「わっ!あ、ジェームズ先輩か…なんですか?」
「リーマスにプレゼント渡すのかい?」
「プレゼント?」

談話室の暖炉の前でソファーに座り、ベルと一緒に宿題をやっていた時だ。双子がいないのは、二人が宿題もせずにピーター先輩を引っ張って今年最後の雪遊びに出かけていったからである。(ベルと二人で、後で宿題写させてって言っても見せないからね!と駆けていく背に言っておいた)
グッと背を伸ばして一息ついた所に、後ろからにゅっと現れたジェームズ先輩に言われて首を傾げると、先輩もあれっ?と首を傾げてみせた。

「言ってなかったっけ?来月の10日、リーマスの誕生日だよ」

ジェームズ先輩の言葉に顔がサッと青くなる。
え、来月?

「ら、来月ですか?」
「あれ〜?言ったと思ったんだけどなぁ」
「聞いてない!」

ベルと二人であわあわしているとジェームズ先輩は、それは失礼とサラッと言ってから「で、どうするの?」と聞いてくる。

「ど、どうしよ、」
「ペアリングでも送ったらどうだい?」
「そんなのオリヴィアの気持ちバレバレじゃないですか!」

ベルに怒られた先輩はニヤッと笑う。
いくら他人事でも面白がって適当に言うのはやめてほしい。

「、時計はどうだ?成人祝いにもなる」
「時計、」

内心でジェームズ先輩のいじわる…と思っていたら、ソファーを一つ陣取って寝ていたはずのシリウス先輩がちょうど良く目を覚ましてアドバイスをしてくれた。
ちなみにリーマス先輩は今医務室にいる。
月に1回位のペースでリーマス先輩は医務室に行くのだ。
(心配になって病気なのか聞いたことはあるけど、先輩達はみんな誤魔化してばかりで教えてもらえない。けどいつかちゃんと聞き出すつもりだ)
そしてシリウス先輩の助言に、なるほど時計なら邪魔にならないと思った私は大きく頷いた。

「時計にします!」


そして今に至る。
唸り初めてからもう一時間が経つ。
遊び疲れた双子はさっさと寝てしまったし、ベルは私にカタログを渡して「こういうのは自分で選ばなきゃ意味がないと思うの」とド正論を告げてからベッドに潜っていった。

「どっちがいいのかしら…」

候補はもう出ていて、あと二つのどちらかを決められない。
一つは装飾の少ないシンプルな革ベルトの時計、もう一つは同じく装飾の少ないシルバーの懐中時計。
皮はドラゴン皮のようなので簡単には壊れなさそうだし、懐中時計は繊細な彫りがリーマス先輩らしいと思う。
最初に目に止まったのは革ベルトの時計の方で、茶色の革ベルトが鷲色の髪を持つリーマス先輩にぴったりと思えたけど、いろいろ見てるうちにに見つけた懐中時計の方が良いかも…とも思えてしまう。

「よし、決めた…!」

考えた末、私はこっちにしよう!と決めてカタログの最終ページの注文書を切り抜いて商品番号を書く。
今まであんまり使う機会もなく貯めてきたお小遣いのギリギリの値段だったけど、悔いはない。
明日ふくろう小屋に行こうと決めながら眠りについた。



それから一週間、今日はついにリーマス先輩の誕生日だ。
朝からリーマス先輩は談話室でグリフィンドール生に祝われ、昼は廊下で他寮生に祝われ、人気者なんだなぁと実感する。

「オリヴィア、渡さなくていいの?」
「今プレゼントを渡した女、絶対リーマス先輩に気があるわ…」
「オリヴィア…」

なかなか話しかけるタイミングが掴めない私の肩を、アミーが心配そうに摩った。
もたもたしてるうちにもう夕食の時間になってしまった。
夕食の席で、リーマス先輩に高そうな包装の包みをレイブンクロー生の綺麗な女性の先輩が渡しているのを見て、私は朝からずっとポケットに入っているプレゼントをキュッと握る。
その顔は遠くからでもわかるほど赤くて、緊張してるのが分かった。
あんなに綺麗な先輩も、リーマス先輩に恋しているんだ。
ぎゅうっと胸が苦しくなる。

「やっぱり、渡すのやめようかな…」

レイブンクローの先輩に比べて私は綺麗でも可愛くもないし、プレゼントだってあんなに高そうな物をあげることが出来ない。
それに私なんかより、あの先輩の方がずっとずっとリーマス先輩の隣に立つのが似合っている。
どんどんと卑屈になって俯いてしまった私の背を、急にエリーがバチンッと叩いた。

「いっ…たっ!」

いきなり何をするんだと叩いた張本人を見れば、その目には涙が浮かんでいる。
私は驚いて痛みも忘れ、パチパチと目を瞬かせた。
ベルもアミーもポカンとしている。

「え、エリー?えっと、」
「、バカじゃないの…!」
「え」
「バカオリヴィア!」

突然の罵倒に、驚いたベルが食べようとしていたオートミールをポトリと皿に落とすのが見えた。

「ば、バカって、」
「なんでアンタが遠慮するのよ!」

エリーの大声で、大広間にいる生徒達がちらちらとこちらを見てくる。
私も負けじと言い返そうとするが、エリーの勢いは止まらない。

「だって、あんなに綺麗な人じゃ、」
「そんなの関係ないっ!!」
「関係なくないよ、」
「アンタは今逃げてるだけじゃない!」
「っ逃げてなんかない!」
「逃げてる!ねぇどうしてよ…!誰にも負けないくらい好きなんでしょ!リーもごっ!?」

大広間の、皆が見てる前でリーマス先輩の名前を叫ぼうとしたエリーの口にアミーが瞬時にパイを突っ込んだ。
ハッと冷静になった私はベルとアミーと目配せをしてから大広間をダッシュで飛び出す。

走り出した時一瞬だけ見えたリーマス先輩は、不安そうな顔でこっちを見ていた。
でもその手には大切そうにプレゼントが握られていて、心臓がズキリと傷む。

「エミリア・オルコット!!いくらなんでも言っていいことと悪いことがあるわ!リーマス先輩もいたのにあの場で叫ぶだなんて…!っオリヴィアに謝りなさい!」

中庭の隅まで走ってきた私達がようやく足を止めると、アミーが突然怒鳴った事に私もベルも盛大に驚いた。
だって、あの普段は温厚で心配性なアミーが怒ったのだ。
怒鳴ってる姿を見るのは初めてだった。
ベルは驚きすぎて(走ってきたのもあって)噎せ込んでる。

「ア、アミー、落ち着いて、」
「うぅ…うわーん!」
「エ、エリー!?」

そして普段は人をからかって笑っている、第二のジェームズ先輩みたいなエリーが隠そうともせずに大声で泣き出すものだから、この場はパニック状態だ。
ついさっきまで喧嘩のように怒鳴りあっていた事も忘れて泣きじゃくるエリーの背を摩った。
そしてしゃくりあげながら話すエリーに、胸が熱くなる。

「だって…だって、私は知ってるんだもの、オリヴィアが、どんなにリーマス先輩のことを想っているかっ…」
「だからってねぇ!」
「嫌だったのっ…!オリヴィアが諦めようとするのが!他人に遠慮して諦めるなんて…リーマス先輩のこと大好きなのに…そんなの…、そんなの辛いじゃない…」

私は咄嗟にエリーを抱き締めた。
こんなにもエリーが私の事を考えていてくれてたなんて…。
気が付けば私の目からも涙が溢れている。

「エリー、ごめん…応援してくれたのに、勝手に諦めようとして…」
「オリヴィア…」
「エリーの言うとおりだよ…私、逃げた…。リーマス先輩があの先輩を好きになったらどうしようって、プレゼントを受け取って貰えなかったらどうしようって…」
「そんなこと、あるわけないじゃない…」
「うん…好きになるかどうかはわからないけど、受け取らないなんて、リーマス先輩がするわけないよね…」
「そうよ、」
「うん、ごめん…、ありがとう、エリー」

ぎゅうっと抱きしめると、エリーも私の背に手を回してくれた。
するとベルとアミーも、私達を包むように抱きついてくる。

「アミーも、ベルも、ありがとう」
「ううん…」
「私は何もしてないわよ、」
「ベルはずっと心配してくれたじゃない、心配事があると袖を握る癖があるの知ってるよ」

ベルが「あら、知ってたの」とクスリと笑うと、泣いていたエリーも、泣きそうな顔をしていたアミーも笑った。

「とっくに知ってたわよ」
「エリーこそ、隠し事があるとやたらと耳を触るじゃない。自覚はある?」
「ウソ、」
「本当よ、物心ついた時からそうだもの」
「言ってよ!ママにウソついてもバレる訳だ!」
「アミーも不安な事があるとよく唇を触るよね」
「ウソ、」
「本当」

皆本当にわかりやすいよねと私が笑うと、三人は一斉にこっちを見て大爆笑する。(あまりにも大きな声で同時に笑ったものだから近くでクソ爆弾でも爆発したかと思った)

「何言ってるのよ!」
「オリヴィアはなんでも顔に出るくせに!」
「一番わかりやすいのは貴女よ!」

散々ないわれようだ。
ヒーヒーと苦しげに笑う三人に頬がひくりと引き攣った頃、ベルがやっと笑いを収めてからこっちを見た。
双子は地面をゴロゴロ転がりながらまだ笑っている。
ちょっといい加減叩きたい。

「オリヴィア、ちゃんとリーマス先輩にプレゼント渡しなさい」
「ベル…」
「一生懸命選んでたの、知ってるから。だから、ちゃんとリーマス先輩に渡してあげないと、せっかく選んだプレゼントが可哀想だわ」
「…うん、ちゃんと渡すわ」

親友達の言葉に励まされ、その後ジェームズ先輩にお願いして、皆が寝静まった頃にリーマス先輩を談話室に呼び出してもらった。

そわそわしながら暖炉の前のソファーに座って待っていると、男子寮の階段を降りてくる足音が聞こえてきて、胸がドキドキと高なる。

「オリヴィア?」
「リーマス先輩、」

降りてきた足音はちゃんとリーマス先輩で、キョトンとした顔で私を見下ろした。

「ごめんなさい、呼び出したりなんかして…」

私が立ち上がって謝ると、リーマス先輩はふわっと笑う。

「いいよ、今日は全然話せなかったし。どうしたの?」

ソファーに腰掛けたリーマス先輩に準備していたココアを出してから、緊張しながらプレゼントを渡した。

「え?これ、」
「あの、誕生日プレゼントです。本当はもっとはやく渡したかったんですけど…」

ドキドキしながら差し出した包みをリーマス先輩は慎重に受け取って、まじまじと見つめる。
包装はずっとポケットに入っていたせいで少し皺が寄っているからあんまり見ないでほしい。

「…開けてもいい?」
「は、はい、」

丁寧にセロファンを剥がして、出てきた懐中時計にリーマス先輩は目を輝かせた。

「わっ、時計だ…!ありがとうオリヴィア!」

喜んでくれる先輩に、私はホッと胸を撫で下ろす。
そして「でもいいのかい?こんなに素敵なものをもらってしまって…」と言う先輩に大きく頷いた。

「いいんです。お誕生日おめでとうございます、リーマス先輩」

受け取ってもらえたことが嬉しくて笑うと、先輩はもう一度ありがとうと言って、なんと私の額にキスを落とした。
突然のことにびっくりして、一瞬間を開けてから顔がボッと熱くなる。

「えっ!り、り、リーマス先輩っ!?」

真っ赤な顔で吃る私を気にしてないリーマス先輩は、懐中時計の蓋をぱかぱかと開けたり閉めたりしている。
その姿に、喜んでもらえてよかったと思う気持ちと、やっぱり私はそういう対象に見られてないんだなと少し悲しい気持ちになった。

「そういえばオリヴィアの誕生日はいつなんだい?」
「えっ、あっ、9月です、」

やっと懐中時計から顔を上げた先輩がココアを飲みながら聞いてきたので答えると、リーマス先輩は口に含んだココアを思いっきり吹き出して顔を青ざめさせた。
霧のように吹き出したそれは当然目の前にいる私にかかる訳で。

「あっつ!?あっついです先輩!」
「とっくに過ぎてるじゃないか!!」

顔をかかったココアに悲鳴をあげる私に、リーマス先輩はもっと大きな声で叫ぶけどそれどころじゃない。
私の誕生日なんかより、顔にかかったココアと、今もココアが零れている手元を気にしてほしい。

「何かほしいものは!?」
「いえ、特に…、それよりココアが」
「というかなんで言ってくれなかったんだい!?」
「いやそんな、催促みたいなこと…それより」
「遅くなったけど絶対プレゼントあげるから!!」

身を乗り出して言う先輩は全然話が通じない。
これはダメだ…と悟った私はついつい癖で叫んでしまった。

「もうっ落ち着いてください!リーマス先輩正座!」

突然の大声にビクッと肩を揺らした先輩がサッとソファーの上で正座したのを見てから、先輩の手元をびしっと指さした。

「過ぎた誕生日はいいんです!それよりココアを零してます!」
「えっ、ああっ!」

顔にかかったのはもういいけど、傾いたマグカップからぽたぽたと水滴が滴っている。
マグカップの中はもう空っぽだ。
慌てて先輩が呪文を唱えるとパッと綺麗になった。(ついでに私の顔もベタベタがなくなった)

「ごめん…」

机にカップを置いてしゅんとしながら言う先輩に、私もソファーに正座する。
つい叫んでしまったとはいえ、今日は先輩の誕生日なのだ…。

「いえ、私の方こそごめんなさい…せっかくの誕生日なのに正座なんかさせてしまって…」

私もしゅんとしながら謝ると、リーマス先輩はチラリと時計を見た。

「…ううん、誕生日はもう終わったよ」

え?と顔を上げると、先輩の指差す時計は0:12と指している。
いつの間にか日付が変わっていたらしい。

「だから気にしないで、元はと言えば僕が悪かったんだし」

そう言って笑う先輩が私の髪をふわふわと撫でたので、嬉しくて私も笑って返事をすると「そろそろ寝ようか」と言って先輩が立ち上がって手を差し伸べてくる。
おずおずとその手をとって、それぞれの部屋に向かう階段の手前で先輩が「本当にありがとう。大切にするよ」と言ってくれた。

「はいっ」
「それと、オリヴィアもプレゼント期待してて」
「いえ、本当に気にしない…あ、」

あ、と言った私に先輩が首を傾げる。

「先輩、プレゼント何がいいか決まりました」
「え、なんだい?」

そわそわと聞き返してくる先輩に耳打ちをする様なポーズをすると、先輩はそれに合わせて屈んだ。
恥ずかしい気持ちはあるけど、「これです」と思いきってその横顔にちゅっとキスをすると、先輩がびしっと固まる。
その隙に、逃げる様に「ありがとうございました!おやすみなさいっ!」と叫んで階段を駆け上がった。
その時一切後ろは振り向かなかったけど、部屋に飛び込んでから私はなんて事を…と扉に背を預けながらずるりとしゃがみ込む。
緊張やら恥ずかしいやらで今頃腰が抜けてきて、ズリズリとベッドに這い上がって枕にボスンと顔を埋めると、でもこれでちゃんと先輩にプレゼントを渡せたし良かった、という安心感と一緒に眠気まで襲ってきてそのまま眠ってしまった。
ここ1週間の中で一番ぐっすりと眠れた気がした。