08
「「すごいわ!」」
「でも心配だわ。クィディッチって怪我をする事もあるし、危険なことだけはしないでね」
「でも残念だわ。リーマス先輩に連れていかれた理由がクィディッチだったなんて、進展があったら教えてね」
部屋に戻った後、リーマス先輩に連れ去られた理由を双子とベルに問いただされて成り行きを説明すると、ベルは「頑張ってね」と激励をしてくれたのに対し、双子はお互いに同じ顔をして全く正反対の言葉をくれたのでハハハ、と乾いた笑いをして「うん、、」と返すしかなかった。
「それで、練習は来年からなの?」
「ううん、今週末から」
「「「今週末!?」」」
なんでも、7年生達は今年イモリ試験があるから学年末は忙しいため、早いうちから練習しておく方が良いらしいのだ。
それと今週末の初めての練習の時に、来年から一緒に選手になる事が決まっている2人の先輩とも顔合わせがある。
個人の技術だけでなくチームワークも大切なクィディッチでは、いかにチームメイトの事を理解出来ているかが重要になってくるので、この点に関しても早いうちからお互い知り合っておくほうがいいとの事。
なるほど!と思い同意した。
というのは建前で、試合が終わってから緊張し過ぎてあの後先輩達に何を言われても「あっ、はい」としか言えなかったのだ。
(「という訳でオリヴィア、今週末空いてる?」「あっはい」「それなら顔合わせも含めて練習しよう!」「あっはい」「ああ、安心してね、箒は学校のを使えるから」「あっはい」)
−−−−−
そんなこんなであっという間に土曜日だ。
朝食を食べていたら駆け寄ってきたジェームズ先輩とシリウス先輩に両サイドから持ち上げられてそのまま大広間から連れ出される。
いきなりの事で食べようとしていたサンドイッチを床に落としてしまったし、助けを求めて振り返るも双子は手を振るだけだしベルは私のシリウス先輩に触れられているところを羨まし気に見ていたので「そんな目で見るなら変わってよ!」と叫びたかった。
「あれ、まだ誰も来てないや」
「急ぎすぎたな」
ベルに言えなかった代わりという訳じゃないけど、あの日以来の控え室に着いた時に私のことを椅子におろした先輩達に向かって、ふつふつと燃えてきた感情を口に出す。
「先輩!!」
「うわっ!」
「えっ!なに!どうしたんだいオリヴィア」
急に大声を出した私に先輩達が勢いよくこちらを振り返った。
そして私は右手の人差し指で床を指さす。
「先輩達、正座してください」
「「へっ?」」
「いいから正座しなさい!」
あくまで強気の私に、先輩達は戸惑いながらおずおずと、しかし素直に正座した。
「ど、どうしたんだい?」
「おいおい、顔が怖いぜ?」
顔が怖いと言われても仕方がない。
「先輩達、私は怒ってます。何故かわかりますか?」
「え?えっと、無理やり連れてきたことかな?」
「違います」
「なら二人がかりで抱き上げたことか?」
「違います」
先輩達から見当違いな事ばかり言われてさらにメラメラと燃え盛る。
そんな事で怒ってるんじゃないのに。
そしてその感情を一気に叩きつけた。
「私!先輩達がいきなり抱えあげるからサンドイッチを床に落としてしまったわ!」
「「えっ」」
「食べ物を粗末にしてはいけないのに!せめて一声かけてほしかったです!しかも時間に遅れてしまっていたのならともかく食べ物粗末にして一番乗りってどういう事ですか!?というか私集合時間を教えてもらってません!」
まくし立てる私を見上げてポケッとした顔をする先輩達に「聞いてますか!?」と続けると、先輩達はビクッと肩を揺らす。
先輩達は所謂お金持ちだから気にしたことはないのかもしれないけど、兄弟が多いため私の家はハッキリ言って貧乏だ。
別にそれが嫌だった事なんてないけれど、ママはいつも食材を無駄にしない料理をしてくれて、パパも食べ物がある事への有難みを口を酸っぱくして言うし、私は食べ物を粗末にする事だけはやっちゃいけない事だと教えられてる。
それにせっかく作ってくれた物の最後が床に落下して食べられないだなんて、作り手に失礼でしょう。
と、いう事を淡々と先輩達に告げた。
「ごめんオリヴィア!次から気を付ける!」
「悪かった!反省してるからいつもみたいに笑ってくれ!」
すると先輩達は先程までしてたヘラヘラした顔を引っ込めて、手を合わせながら頭を下げたので私も怒りが収まった。
そして私もちょこんと床に正座する。
「わかってくれたなら、いいです。私の方こそ、怒ってごめんなさい」
いくら怒っていたからといって、先輩達に正座をさせた事は良くなかったと思い謝罪する。
そう言って頭を下げると、先輩達にガバッと抱きしめられた。
「オリヴィアは謝ることしてないだろ!」
「そうだよ!僕達が悪かったんだ!」
「先輩、、」
「ほら、そんな顔するなよ」
「笑ってるオリヴィアが一番かわいいんだから、ね?」
ジェームズ先輩がかわいいと言ってくれて私はとっても場違いなことに、リーマス先輩がかわいいと言ってくれたことを思い出してだらしなく頬が緩んでしまったが、そんなんでも一応笑った私にジェームズが「ああああかわいいいい」と言いながら頬擦りしてきたものだから慌てて飛び退く。
男性に頬擦りされるなんて初めてだったから、たぶん私の顔は髪と同じくらい真っ赤だ。
シリウス先輩はジェームズ先輩をなんとも言えない目で見下ろしているし、ジェームズ先輩はまた頬擦りをするつもりなのかじりじりと寄ってくる。
「あれっ?俺が一番乗りだと思ったのになぁ」
そんな時、控え室の扉からひょっこりと顔を出した先輩に助けを求めるように近寄った。
「エド先輩っ!」
「おっ!早いなオリヴィア!」
後ろから名残惜し気に名前を呼ばれたのを振り切ってエドワード先輩の傍に寄ると先輩は「えらいえらい」と言いながら私の頭をふわふわ撫でるので後ろからの声にシリウス先輩も加わる。
「我がチームのわがままプリンスは初めての後輩に浮かれているようだな、プロングス」
「そのようだねパッドフット。だが僕らのオリヴィアは渡さない!」
駆け寄ってきたジェームズ先輩が私の頭を撫でるエドワード先輩の手だけを器用に叩き落とし、「イッテ!」と手を摩る先輩を無視して、優雅に近付いてきたシリウス先輩と共にまたもや二人がかりで抱えあげられたので私はもう一度正座させるべきか真剣に悩んだ。
−−−−−
「来年からチェイサーとしてチームに加入するレオ・セルウィンと、同じくビーターとして加入するニール・ワーグマン。二人共4年生よ」
全員集合してから最初に二人の先輩を紹介してもらった。
セシル先輩に紹介された先輩達は黒髪の方がセルウィン先輩、金髪の方がワーグマン先輩だ。
「よろしくお願いします、セルウィン先輩、ワーグマン先輩」
「ニールでいいよ、こちらこそよろしくねオリヴィア」
「俺もレオでいい。よろしく」
そう言ってニール先輩はニッコリと笑い、レオ先輩は片方の口端を上げてみせながら二人同時に左右の手を出してくる。
私は同時に握手って礼儀的に大丈夫かと心配しながらその手を両手で握り返した。
まったく違う雰囲気なのに動作は双子のようにシンクロしている先輩達は仲良しなんだろうなと心の中で思った。
パンッと手を叩く音に振り向くと、セシル先輩が箒を二本手に持ちながら足踏みをしている。
「じゃあオリヴィア、私達はあっちで練習よ。私に続いて駆け足!」
「っはい!」
後ろから「セシルったら、張り切り過ぎですわ」とミランダ先輩が言ったのが聞こえた。
駆け足で向かった競技場の真ん中についた時にセシル先輩は箒を置いてから魔法で金色に変えたコガネムシを思いっきり振りかぶって投げ、そのままの勢いで飛んでいったコガネムシを捕まえるのが最初の練習だと言うので、私は頷いてから地面に置かれた箒に「上がれ」と言うと、ピタッと手に吸い付くようにして上がった箒に跨り空へと飛び出したのだった。
−−−−−
「オリヴィアはどうだい、セシル」
「ああリーマス、すごいわよ彼女は。来年一緒に試合出来ないことが悔しいわ」
夕食の席で練習についてリーマス先輩に聞かれたので私が楽しかったと答えると、リーマス先輩は体の向きを変えて近くに座っていたセシル先輩に問いかけた。
セシル先輩が答えるとリーマス先輩は自分の事みたいに得意気に笑いながら「そうだろう」と言うので、照れくさくなった私はエリーに赤い顔をからかわれながら誤魔化すようにベルの皿に糖蜜パイを山ほど盛り付ける。
ベルに「こんなに食べられないわ!」と怒られてしまった。