episode.3

「ちょっとまって」

 付き合って4年。こんなに彼の動揺する姿を見るのは初めてだ。
お茶を溢しても、道を間違えて時間ギリギリになっても、こんなに慌てたことはなかったのに。

「本当に言葉が分かるの?」
「……多分。さっき名前呼んだらなあにって返事してたし……」

 何とも言えない空気が流れる。普段は話が途切れたとしても気まずくなることはないのに、今だけはとても空気が重く感じる。

「他にも何か聞いてみる?」
「じゃあ、好きな食べ物とか……」
「だってはるちゃん。好きな食べ物は?なにが美味しかった?」
『たまに食べるやつ!!あれ、おいしいのに全然くれない』

 尻尾をパタパタしながら言っているせいで、拗ねているように見える。
拗ねていると思ったら、なんだか顔もそんな顔に見えてきた。

「なんだって?」
「多分、ちゅーるかな。たまにしか貰えないって言ってたし」
「ちゅーるかあ〜」

 やっぱりかあ。なんて言いながら彼は子猫の顔を両手で挟み、むにゅむにゅを遊んでいる。子猫はさっきまで尻尾をパタパタさせていたはずなのに、すっかり喉を鳴らしていた。

「ちょろいなあ」

 心配になるくらい単純な子猫に、少しでも嫉妬していた自分が馬鹿らしくなった。

「せっかくお話できるようになったんだから、色んなこと聞いてみようかな」