3話

「お待たせいたしました。クリームソーダご注文のお客様」

はい、と小さく手を上げた佐々木さんの目の前に、コトンとそれは置かれた。名前は知らないが、よく見るクリームソーダ専用みたいな透明なグラス。中でシュワシュワと泡が弾けるメロンソーダの上に、グラスから溶けて零れそうなバニラアイスが載せられている。ちょこんと乗ったチェリーも落ちそうだ。ぱぁっと一瞬だけ目を輝かせたのを僕は逃さなかった。

「こちら、ブレンドコーヒーになります」

カチャンと音を立てて置かれた見慣れない飲み物。トレンチの上に置かれていた時からコーヒーの独特の香りがすると思っていたが、いざ目の前にするとこんなにも匂いの強い物だったのかと驚く。コーヒーが好きと言ってしまった、過去の自分を恨んだ。本当はあともう二本砂糖をくださいと言いたいが、ここはぐっとこらえる。もしかしたら今日が、砂糖からの卒業の日なのかもしれない。

「ごゆっくりどうぞ」

 僕がそんな事をに考えている間に店員さんはお辞儀をして下がっていってしまった。これでもう砂糖入りのコーヒーを飲むチャンスは失われる。今更、砂糖の為だけに店員さんを呼ぶのは恥ずかしい。佐々木さんは片方の耳に髪を掛けて、空いた手で長い髪の毛を抑えながらパフェスプーンでアイスを崩している。器用に、美味しそうにクリームソーダを飲んでいた。