4話
「神尾くんは飲まないの?」
「……実は、ちょっと猫舌で」
猫舌でもなんでもないくせに、咄嗟に嘘をついた。
ブラックコーヒーを飲みたいけど怖じ気付いてます、とは口が避けても言えない。
「ふぅん。……私のクリームソーダ、一口いる?」
「え?!」
「冷めるの待ってる間、暇でしょ?」
冗談なのか、本気なのかを推し量る。普段冗談を言っているのを見たことがない彼女の冗談なのか、はたまたちょっとした気の迷いなのか。ぶわっと一気に顔が赤くなるのが分かった。まだコーヒーを一口も飲んでいないのに、体がポカポカしている。手汗がひどくて、こっそりと見えないようにズボンで拭いた。
「……間接キスになっちゃうけど」
「意外とそういうの気にするんだね」
言うか言わないか迷って、勇気を出した僕のひとことの威力はそんなになかったようだ。むしろ、僕がダメージを受けている。
「佐々木さんは気にしないの?」
「うーん。あんまり仲良くない人とか、知らないおじさんととかは嫌かな」
それはつまり、僕とならいいということなのか?!
「で、どうする?いる?」
試すような挑発的な笑みを浮かべ、グラスを僕の方へ近づける。
「あ、こっちがいいの?はい、あーん」
何を思ったかパフェスプーンに一口アイスを掬い、ずいっと僕の方へ近づける。
クリームソーダとも、コーヒーとも違ういい香りがふわっとあたりに広がった。
「う……じゃあ、いただきます」
甘い。はずなのに、味が分からない。心なしか、いつもより甘く感じる気がする。
「おいしい?」
「……多分」
「なにそれ」
ふふっと控えめに笑う彼女は、いたずらが成功した子供の様な顔をしていた。