『きゃあ、なにするのっ』

『どんっ、だまってろおまえのせいだろ おれをこんなにふりまわしやがって』

『え!? そんなことわたししてない!』

『しただろうが おれにみせつけるようにほかのおとことべたべたしやがって おのぞみどおりかまってやるよ ぐいっ』


「骨喰。骨喰。ちょっと骨喰」


「『……っ』『こんなにおれをみだしやがって おもしれえおんな』……なんだ、主。今読んでいるとちゅ……」


「音読すな」





「ナオトは良くない。ナオミはシゲルと付き合うべきだ。シゲルは一途で壁も殴らない」





「主の尻の上で音読するな」


私の尻を枕にしながら棒読みの音読するな。ものすごい勢いで気が散る。


「駄目なのか」
「駄目に決まってんでしょ」
「今いいところなんだが」
「音読しなくても読めるだろ〜?」


念を押して音読するなと言ったが、骨喰は少しもひるまない。どうして言われたのか分かっていない雰囲気しか出してない。こいつは全く反省していない。


「いいじゃないですか主さん! 俺は結構好きですよ、骨喰の少コミ音読。味があっていいじゃないですか」
「俺もけっこうすきだなー」

「気が散るんだよ。黙って読め」


私の尻を半分ずつ骨喰と分け合って枕にしている鯰尾と、今私がクッション代わりにしてる尻の持ち主である御手杵。こいつらは骨喰の音読に肯定的であるが、私は読み進めているマンガに集中したいので否定的である。


「主の尻を枕にしながら少女マンガの音読したやつ追放」


っていうかここは私の部屋なので私が法律。
異論は認めないのでそう宣告。


「横暴ですよ!」
「かわいそうだろ〜せっかく音読してるのに」

「だから音読すんなっていってんの」


異を唱える輩には耳を貸さない。


「だが、何度読み返しても納得ができないんだ。声に出せば理解も深まるかと思った」
「理解するもんじゃねえんだって少コミは。感じろ。何も考えるな」


だが骨喰も私の言葉に耳を貸さない。


「ナオトの気持ちが理解できない。ナオミはそもそもナオトと交際しているわけでもない。にも関わらず、不条理に責め立てられ威圧されている。籍も入れず責任もとらず独占しようとするナオトはナオミにふさわしくない」


私の尻から頭を退かして起きあがると、骨喰は読んでいたらしいページを見せつけてくる。


「見てくれ主。ナオミは恐怖で呼吸が乱れ『っ……!』としか喋れていない。これではナオミが可哀相だ」
「その『っ……!』は喜びの『っ……!』だからいいんだよ。いやよいやよも好きの内って言葉知らない?」
「喜び……? よくみろ、主。ナオトは直前に壁を殴りつけている。これが威圧だ。この『っ……!』は恐怖で漏れた『っ……!』で違いない」
「擬音が書いてあるだろ〜? 『っ……!』と一緒に『ドキィッ!!』って書いてあるだろ?? うれしがっているんだよそれは。嫉妬してくれてうれしい!ってことなの」
「うれしい……? この不当な威圧がときめきだというのか?」
「……ナオミは威圧的なのが好きなんだよ。人の好みはそれぞれだから、骨喰が納得できなくてもナオミの幸せを祝ってやんな」

「ナオミの幸せ……」


骨喰は私の言葉を噛みしめるように呟いて、また私の尻を枕にしに戻っていった。

骨喰もこの本丸に来て長いが、こういった機微を学ぶにはまだまだ知識が必要らしい。ともあれやっと静かになってくれたから、やっとマンガを読み進められる。



「『っ……!』」
「『っ……!』」

「『っ……!』で遊ぶな馬鹿たれどもが」


よくわからんがツボにはまったらしい鯰尾と御手杵を一喝してから、私はマンガの世界に戻ろうと――

「主、『こんやは めちゃめちゃにしてやるぜえ』とナオトが言っている。ナオミの手を拘束もしているしナオミは『いやあ』と言っている。ナオミはこいつの何が良いんだ。許せない」

「お前はナオミのなんなんだ」


――したがすぐに邪魔されたのだった。









「いい加減にしないか。君だって女人だろう。もっと慎みというものを持たなくては、嫁の貰い手がなくなってしまうよ」



今日は歌仙が苦言を呈しにきた。







臀部への執着を断ち切って幸せに生きて欲しいだけなんだたったそれだけなんだ




「マンガを読んでるだけじゃんよ。マンガは書物に入らないっての? 読書には入らないって? それは雅じゃないなあ歌仙」


今日は御手杵の尻を枕にしながら仰向けでマンガを読む。この弾力が良いんだよね。堅すぎず、柔らかすぎず。この高反発が良い。

視線はマンガに向けたまま歌仙に言うと、歌仙がいらいらした様子でため息をついた。直接見たわけではないけど、見なくてもわかる。超余裕。


「そんなことは言ってないよ。どんな媒体であれ、物語を否定はしない。僕が言っているのは、君のその姿勢だ。年頃の娘が刀剣男士とはいえ男の臀部に頭を乗せるのは見過ごせない」


「えっ」
「えっ」


「何故そう驚くんだ」


私と御手杵が声をあげたのは同時だった。


「俺ぇ? 俺の尻のせいで主が結婚できねえの?」
「……直接的な要因ではないが、間接的には関係しているだろうね」
「うええ……まじかよ……ごめんな主…」

「そんなわけないじゃんよー。御手杵の尻にそんな効果はないって。御手杵の尻は良い尻だ! 自信もって!」
「主! 君のそういうところだ! 全く持って雅ではない!」


ぴしゃりと言い切ってくれるじゃんこの初期刀。不服を全面的に押し出して、御手杵の尻に頭を乗せたまま足を組んでみせる。


「尻の一つ二つで文句言わないでよねえ!」
「そういう! ところだ! 足をおろしなさい!」
「ほんっとにお堅いな歌仙。今や尻を媒介に主と親交を深めるのはごく一般的な交流方法なのに」
「また出鱈目を並べて……御手杵、君もはっきりと断らなければ、いつまで立っても臀部を枕にされ続けることになる。いいのか??」


御手杵は困ったような様子で、でも歌仙の言葉にぴんときていないらしい。


「俺は別に気にしないけどなあ……俺も主の尻しょっちゅう枕にするし」
「なっ…!」

「主さんのおしりは年々やわらかくなっていってるんで俺達もよく枕にしています」
「ちょうどいい枕だ」


今日は御手杵の背中を枕にしていた骨喰と鯰尾の聞き捨てならん援護射撃に震える。


大袈裟に言ってるだけだよな?
そんな変わってないよな?


そっと尻の肉をつまむ。


「うぬうっ……!」


顔面蒼白になった私は今の歌仙と良い勝負だろう。


「っ……とにかく、その所作を直さなければ、結婚など夢のまた夢だろう。初期刀として、この有様は見過ごせないよ。君だって、この間酒に酔いつぶれながら泣きわめいていただろう! 『結婚したい幸せになりたい! 誰かに必要とされたい愛されたい! 誰かの特別になりたい!』と! 待っているだけでは結婚などできないよ! 君のために心を殺して忠告しているんだ」

「………私そんなこと言ったの?」


っべーな全然記憶ない。


「言ってましたよ。歌仙さんの足にへばりついて」
「いち兄にも絡んでいたな。いち兄は疲れ切っていた顔をしていた……」
「その後俺の尻にずっと話しかけてたぞー」


っぶねー記憶なくて良かった。一生ものの恥かいてたわ。


「ここで閉じこもって本に没頭していても結婚なんてできないよ。あんな有り様を見た以上、僕は放っておけない。結婚願望がないのであればそれもまた一つの人生だと思うけれど、君が悩んでいるなら力になりたいと思っているんだ」


歌仙はそう言って、手を差し出してきた。


「さあ、まずは御手杵の臀部に執着することをやめることから始めよう。大丈夫。君は少々がさつで恥を知らないところがあるけれど、女人としてよりも違う形で好かれることが多いような気性ではあるけれど、きっと一人くらい、そんな君がいいと言ってくれる相手が見つかると思う。おそらくきっと……いると思う」


声が……語尾にいくにつれ小さいな。


「いるかな……」
「きっといるさ。きっと……望みを捨てるにはまだ早いよ。少しでも若い内に、外見も内面も取り繕って婿を勝ち取ろう」
「外見も内面も取り繕ったら全部じゃん……全部作り物じゃん。否定しながらよく応援できるなあ歌仙……器用だな」


優しさが痛い。


「大丈夫。嘘も突き通せば誠になるんだ。僕達も全力をあげて支援するから、嘘を突き通して生涯を全うしてくれ」
「やばあ……そんなこと言っちゃうのか……ありのままを好きになってくれる相手と結婚したいんだけどなあ」
「そんな相手はいない。相手に釣り合うように皆何かしらを努力や我慢しているものなんだから。ありのままを、というなら、僕達がいるだろう? だからせめて人を相手にする時ぐらい、猫を被っても構わないさ」


全力で婚活させようとする歌仙の私を見る目はもはや主を見る目ではない。これは最早――……


「パパ……」
「パパじゃない。早く起きなさい」


……――パパじゃなかった。








というわけでとりあえず本気出して出会いを探しに行った。手っ取り早く演練場で。





だって!!!! どこの馬の骨だか知んないやつに主とられるなんてぜえっっっっったい嫌なんだもん!!!!!!!




「? うまくいかないな……?」


おかしいな。さっきから手応えがまるでない。せっかく清光にばっちり化粧してもらったのに。はっきりばっちりした顔立ちにしてくれと頼んでそうしてもらったのに。


「逆に綺麗すぎたかな……なんかちょいブスの方が男受け良いって言うもんな……まつげちょっと抜こうかな……」
「こらこらこら。抜かないの。せっかく俺がデコってあげたのに!」


まつげを指先でつまんで引きちぎろうとしたけれど、清光にとめられてしまった。二時間ぐらいかかった力作だから仕方ないかと思うけど、男が釣れないなら意味がない。


「清光が主の顔べたべたに塗りたくったからじゃないの? 出来が最悪だよね。妖怪だもん。顔面で殺しにきてるじゃん。演練相手に主並んでたら槍より先に殺す」
「殺意高……」
「ねえ、それ落としなよ。主は化粧しない方が絶対いいって」


袖で無理矢理化粧を落とそうとした安定の手が、すかさず清光にたたき落とされる。


「俺が二時間かけて仕上げたんだよ!? 崩さないでよね! 主! 世界一可愛いからそれ落とさないでよね! すっぴんのほうが妖怪だからね!」
「え妖怪? まじ? そんなやばい?」
「今の化粧に比べたらってこと! 本当にそれくらい最高の出来だから、そのままね! 帰る直前になったら落としてあげるけど!」
「そう……清光がそういうならそうなんだろうな……」


化粧の腕は私より清光の方が良いし流行にも敏感だから、そこまで言うなら、間違いないだろう。蝋人形にされそうなくらい美白になっているけどこれが最近の流行に違いない。先取りしすぎるから周囲の女の子と違うメイクなんだろうなきっと。


「加州さんえげつないことしますね!」
「気持ちは分かる」


遠く離れた場所に安定を連れて行ってなにやら言い聞かせている清光を遠目に見ていると、両サイドにやってきた骨喰と鯰尾が私の顔をまじまじとのぞき込んだ。


「……夢にでそう!」
「熱が出そうだ」

「お! そうかな? やっぱそうなんだ!」


うれしい!こんなに外見をほめちぎられたことないんじゃないか!?いやないな!今の私は人生至上で一番美人なんだ!

でもおかしい。だったらなんで男が引っかからない?


「やっぱそこそこの練度の相手に完全勝利決め込んでるからかな。出来る女って引かれるもんなんだろうな」
「主さんって指揮とるの上手ですよね! 俺達も練度高いし。今日一度も敗北してませんよ。絶好調!」


いえーい!と手のひらを差し出す鯰尾に、義務的にいえーいと返しながら、私は物色するように周囲を見渡した。


「でもこのままじゃまずいな……何の成果もない。パパが泣く」


今日は一人も連絡先の交換ができていない。成果なしでかえったら歌仙がなんというか。今の私は良い女で気分がいいから別にいいけど、あんな表情で私を送り出したパパがあまりにも不憫だ。


「誰かちょうどいいのいないかな……この際だれでもいいや」

「主さんのそういうとこ嫌いじゃないですよ! がんがん行きましょう!」
「どんな男がいいんだ。俺達も探してこよう」


協力的な骨喰と鯰尾もいるし、なんとかなりそうだ。


「指輪してないやつ。指輪の首飾りもだめ。子連れじゃなくて女連れじゃない男審神者。いやこの際男なら誰でもいい。GO!」


すぐさま指示を出すと、骨喰も鯰尾もすぐに飛び立っていった。比喩じゃなくてめっちゃ高く飛んでいった。良いジャンプ力だもう見えねえ。


探させっぱなしは良くないので私も探しに行く。周りからの視線がくすぐってえな!良い女ってのはこれだからたまらん!肩で風を切って歩くの超気持ちいいわ。


「………ん?」


そんなとき、ふと目の前に男女が言い合っている姿が見えた。十メートルぐらい先。なにやら言い争っているような気がする。


「あれ何してんの? 痴話喧嘩?」


遠目で様子を伺っているらしい女審神者っぽい人に聞いてみる。


「違うわよ。あれはあの子が言い寄られてるの。男の方は政府の権力者のドラ息子で、ああやって好みの女の子を見つけると強引に声をかけて手を出そうとしてるの」
「カスじゃん」
「カスよカス! でも親の権力よくわかってるから、自分が手を出したら本丸どうなるか分かってんのかって圧力かけるの。だから審神者の女の子は拒絶できないし、それをみる刀剣男士だって……」
「あーほんとだ。今にも殺しにいきそう」


審神者が必死で制しているのだろう。連れの刀剣男士は今にも真剣必殺くり出しそうなくらい雰囲気がぴりついている。ありゃあ駄目だ。あと五分も我慢できないでしょあれ。


「ふーん。でもあの男そんな権力あるんだ?」
「……悔しいけどね。親のすねかじりじゃなかったら、私だって今すぐあいつを斬り捨て御免してたわよ」
「勇ましい」


刀剣男士に斬らせるんじゃなくて自分で切り捨て御免っていうところがすき。

とにかく、私はこれをチャンスだと思った。どうせ顔面も内面も猫被って墓までもっていけと言われている身だ。相手の内面や外見を気にするのは贅沢というものだ。

あいつはカスの中のカスだが権力がある。本丸に一番役に立つのは権力と金とコネ。よしよしあのカスにしよう。


「じゃあ私あのカスもらお」
「そうあのカス――……は? ひゃあっ! なに! え?」


ようやく私の顔を見た審神者っぽい人が私の顔面レベルの高さにおののく。やっぱり清光が世界一かわいいっていうんだから今の私は世界を統べるべき美の女神なんだろう。


「びっくりしたなにそのメイク……」
「いいでしょ〜? 清光に可愛くしてもらった!」


そう言い捨てて、私はカスを捕まえにいく。
心はうきうきで、「え……いじめ……?」と呟いた審神者っぽい人の声は聞こえない。


「もういつまで待たせんの〜? 俺はきみみたいな新人とちがって忙しいの! どーせ断んないでしょ? いいからほら、さっさと刀剣男士帰しちゃって俺と一緒に行こうって! 一晩だけ! 一晩だけだからさあ〜!」
「わたしは……何度も言ってますけどやらなければならないことがあって……」
「だからなに? 俺に逆らうわけ? きみ勇気あるねー??いいのかなー。それどういうことか分かってんの???」
「っ……」


近づいて会話も聞こえるようになった。
よーし清々しいくらいカスだ!こいつが相手なら騙しても全然おっけー心がいたまなーい!!

肩慣らしに腕を回しながら近づいていくと、声をかけられている女の子の刀剣男士までもが私の存在に気づいて目を丸くさせていた。おいおい清光のメイクは刀剣男士さえ落としてしまうのかよ!最高だ私の清光は!帰ったらいっぱいお礼を言おう!


「う”うんう”んんう”う”ん! もーやだー! そんな子は放っといて私とデートしてくださいよおお!!!」


甘ったるい声と過度なスキンシップで男は落ちる。そう聞いていた私は、声のチューニングをした後に体当たりの勢いで女の子を掴んでいたカスの腕にしがみついた。蛙みたいな声をあげたカスは足をもつれさせた後、地面に転がっていった。もちろん一緒に転ぶのは嫌だから、早々に手は離す。

ちょっと強く行きすぎたか? でもこれくらいの力でいっても刀剣男士びくともしないんだけどなあ、やっぱりそんな強くなかったはずだ。このカスもしかして足腰弱いのか?



「はっ、だ、誰だおまえ! 俺に何したか分かっ――なんだその顔は!!」
「世界で一番美しいでしょ」
「図々しい! 化け物かお前!」
「やっぱり人越えてる? かわいいよねえ私」


言いながら、私は声をかけられていた女の子をしっしとジェスチャーでこの場から追い出そうとした。恋敵がいては邪魔なのだ。幸いこのカスに好意はないらしいし別にいいよね??


「えっでもあなたは……」
「いーから行きなって。やることまだまだあるんでしょ。ほら、邪魔邪魔! 行った行った」


押し出すようにして帰れと促せば、女の子は困惑しながらもぺこぺこと頭を下げながら刀剣男士に連れられて去っていった。


「てめえ何勝手なことしてんだよ!! 邪魔しやがってこのブス!」


なんだこのカス目が腐ってんのか。やっぱりカスは礼儀がなってない。初対面のレディに対する態度を教えてもらえなかったのだろう。まあ仕方ない。それも折り込み済みだ。権力と金の名において目をつぶろう。


「やあだ! ひどーい! こんなくぁいい子にむかってー!! やだー!」


しゃがみ込んで相手に目を合わせて、逃げられないように両肩を上から押しつけるように乗せる。


「わたしー貴方に一目惚れしちゃったみたいでえ! 連絡先教えてくださ――い!! あれだけ色んな子に声かけてたんだからいいですよねえ!? 私だけだめとか言わないよな? 出してくださいよ連絡先ー! 権力者の息子さんって聞いたんですけどお、お父様とお母様にもご挨拶させてくださーい! わたしのパパにも紹介したいなー! いいですよねいいでしょー!?」
「はっ……? なにいってんだおまえ……お、おい、手を離せよ……」
「やだあー! はなさない!! もう 一生 はなさないー!!!」


女の子は我が儘なくらいが可愛いらしいじゃん。顔を近付けてカスの目と目をしっかり合わせてそう叫んだら、カスの顔面が真っ青になり始めて草。意外と恋愛経験ないのかな。まああんな迫り方するんだからあるわけがないよなあ。


「ひぃっ……」


カスの体が震え出す。なんか楽しくなってきた!思えば私こんなに誰かに積極的になったことなかったかもしれない!

自分の殻を打ち破るのって、こんなに気持ちがいいのか!


「今すぐ紹介して両親に。うれしいでしょこんな可愛いわたしがあ! あんたみたいなカスがいいっていってんだからほら。うちに婿入りしにこいよほら!」


まともに喋られないカスにそう言い聞かせながらぺしぺしと頬を叩く。気が動転しているのか話にならない。


「……ん、あれ、骨喰?」


いつの間にか、カスの背後によく知った刀剣男士が立っていた。
骨喰はそっとスケッチブックを取り出して何かを書き込む。そうして無言でそれを私に見せてきた。


‘目がガンギマリ
    笑え  ’


言われて気づいた。確かに女の子らしい笑顔が足りないのかもしれない。

私は視線をカスに戻して、腹の底から高い声を出して狂ったように笑い声をあげた。



「あっあっははははっははははははははははっははははっはっは!!!!!」

「ひっ、ひいいいっ、くるなっ! くるなー!!!!」



しかしカスは私の手をふりほどいて、這い出るように私から距離をとって、そのまま一目散に逃げていった。足をふらつかせながら。


「あっ、ちょっ!」
「主。もうそろそろ帰る時間だ」


追いかけようと立ち上がった私だったけど、すぐに骨喰にとめられてしまう。


「あともうちょっとで連絡先とれたのに!」
「あの男は駄目だ。カスだ」
「権力と金のあるカスだからセーフ!」


そのまま手を掴まれて、帰路につこうとする骨喰にくいさがる。でも骨喰は、カスがお気に召さないらしい。まあ私も気に入ってないけど。


「アウトでーす! あんなの連れて帰ったらパパが泣いちゃいますよ!」


反対側から湧いて出た鯰尾が、私の腕を掴んで歩いていく。


「えっ……そう? 成果0の方が駄目じゃない?」
「あんなもんあるよりない方がマシですよ! 俺達は、主さんが一緒にいたいって思える人と結婚してほしいんですよ。結婚しないでずっとそばにいてほしい派もいますけど! まあなんとかなりますよ!」
「そうかなー……」
「そうです!」


じゃあもういいか。あのカスも結構なブサイクだったしな。中身も外見もブサイクなんだから救いようがない。歌仙が喜ばないならもう興味もないや。


「じゃあ、加州さんに化粧落としてもらって帰りましょ!」
「加州は……大和守に今頃絞られているだろうな」


「え? なんで?」



まあよくわからんけど、さー帰って審神者の続きやろ。








やっぱりありのままでのびのび暮らすのが一番だ。



それが分かった私は、今日も今日とて御手杵の尻を枕にマンガを読んでいる。


「知ってるかい? 最近演練場に魔除けと称して顔を白塗りする女性の審神者が増えてるらしい」


そんな空間に来た歌仙はそんなことを言ってきた。歌仙の言葉にぴんときて、私はにやにやする口をマンガで隠しながら声を弾ませる。


「ふうん。やっぱり清光は流行の先端とらえてたんじゃん! さっすがー! 今度から化粧は清光に頼もうっと!」
「……その件については彼にきつく言い聞かせておくから。あの白塗り化粧は許さないよ」
「なんで! あれすごい評判だったのに!」
「まあ……評判ではあったんだろうけどね」


遠い目をする歌仙は、まーた大きなため息をついた。


「……知ってるかい? 演練場で今妖魔の類がでるらしい。奇声をあげた白塗りの女が、昼夜問わず異次元に引きずり込もうと体を掴んでくるとか……」
「なにそれ! うけるわ!」


ちらちらと私を見ながら言う歌仙に、仕方ないなあとため息をつく。


「それでそんな深刻な表情してたの? 心配性じゃん、パパ」
「だからパパと呼ぶなと言っているだろう」
「あっはは、大丈夫だってば。演練場行くときは刀剣男士も一緒なんだから」


まったく心配性でいけない。とはいえ引きずり込まれるのが男だけなら私は全く関係がないな。まあ用心するに越したことはないけどね。


「そういうことだから。ちょっと男士ー主のことちゃんと守ってよね〜」

「「「ほーい」」」


尻の上から尻の下から聞こえてきた返事を聞いて、マンガを続きを追いかけてページを巡る。歌仙はまた大きなため息をついていた。

どうやら私の婚期はまだまだ先のようである。














- 6 -

mae top tugi
index