とみき、しほとい


(※幼馴染設定。)



「―――――っい!!」

ガシャン!!
派手な音と共に自転車から落車し地面に倒れ込む。
音に驚いた周囲の部員たちは一斉に音のほうを見て慌てて駆け寄ってくる。


「大丈夫か?だから無理をするなと言った」
「だ、って…うぁ〜、ったァっ…」

いつもながらの鉄仮面ながらわずかに声が心配そうな福富は名前の足を見て彼女に何が起こったのか瞬時に理解する。

「立てるか?部室に行こう」
「ちょっと、無理かも…」
ビクビクと脹脛の筋肉が痙攣を繰り返す左足。


『私も体力つけておかないとインハイでサポート出来ないし!』
そう宣言して彼らが走っている間の空き時間に名前も体力作りのためにコースの端を予備の自転車を借りて走行していたのだが、筋肉疲労がたまりに溜まっていたらしい。

痛くて歩けそうにない。むしろ歩くどころか立てる気すらしない。
激しい痛みに悶絶する名前に福富がとりあえず移動させようと手を伸ばす。しかしその手を遮って別の男が背を向けて屈む。誰だと見れば東堂だった。


「俺が背負って部室まで連れて行こう!」


わざわざ自転車を下車してきたらしい東堂はさぁさぁ!!と意気込んでいる。
意気込んでいる彼には悪いが東堂にだけは頼みたくない。ファンに睨まれるのは困る。


つった痛みか、それとも東堂の行動が原因かは分からないが乾いた笑いが漏れる。そんな彼女に焦れたのか東堂は向き直り名前の膝下に手を入れようとする。

「ちょっとちょっと!待った!なにする気!?」
「運ぶと言っただろう?」
「尽八、待て!ちょっと待とうか!?」
慌てて足を引こうとしたら痛みで涙が出そうだ。それでもこの体勢だけは避けなければならない。どうにかこうにか膝を上げて彼の手から逃れる。

「冷静になろう!!なにする気だった!?」
「お姫様だっこだ。俺にしてもらえるというのに嬉しくないのか?」
嬉しいわけあるか!死ぬわ、殺されるわ!!
あんたのファンとかファンとかファンとかに!


「東堂…、」
悶着を続けるばかりのふたりに福富が声をかける。その声に東堂は親指を立てそりゃあ清々しいぐらいの笑顔を向けた。

「心配いらんよ!みんなは練習に戻ってくれ」
「分かった。では後は頼む。」


この場は東堂に任せようと離れてゆく部員たち。

ちょっと待てちょっと待てお兄さん!!
私を東堂と二人にしないでっ!!











周囲の女子からの視線が痛かった。

結局、いつまでもあそこであぁしているわけにもいかず、お姫様抱っこよりはマシだとおぶって部室まで連れてきてもらった名前は部室内に設置されたベンチにおろされた。
(どうしよう、明日から靴とかなくなったら…、)

想像する明日は真っ暗だ。

「触るぞ?」
「え?――――いぃ!!」

モンモンと頭を抱えていたらそう言われ『え?』と思った瞬間、靴を脱がされ足の指先をギュム…と反り返された。

「い…ったぁああ!!」
絶叫。
「我慢しろ。脹脛がつった場合は伸ばさねばならん」
反り返されては足裏を押され、反り返されては足裏を押されるを繰り返されること数分。

ちくたくと時計の音と名前の悲鳴が響く部室。
不気味なのはその間あの東堂が終始黙っていたことだ。
日頃煩いぐらい無駄に喋るコイツが黙り込むなんて気持ち悪い。脹脛が痛い間は気付かない振りも出来たが、痛みが収まってくるとそうはいかない。
「……じん、」
目が合って言葉が詰まってしまう。5秒、10秒経ったか。じっと目を見たまま下から見上げてくる東堂にたまらず目を逸らした。

「…なんで俺を頼らない?俺はお前の幼馴染だ。幼い頃から互いを知っている。」

マッサージの手を止め、名前を断罪するように彼女の痛いところをついてくる東堂は更に彼女を追い詰めるためか更に追い打ちを続ける。


「俺との関係は変えられん。むしろお前にとって変えたいものなのか?」
「……」

小学校のころロードバイクに出会ってその才能を開花させた。
腹は立つが彼がイケメンであるのも事実でファンクラブだってある。そんな彼の隣に“幼馴染だから”という理由だけで立つなんて姑息な真似はしたくなかった。


いっそ自分が幼馴染でなければファンクラブに入って、素直に恋い焦がれることもできただろう。しかし現実問題“幼馴染”という過去が消えることはない。


「……いい加減、自覚してもらわねば困るな。俺はお前以外の女子を呼び捨てで呼んだりしない。それは今もこれからもだ。」
ジッと見つめられ、言葉の意味を探すより先に唇が重なっていて名前は目を見開き動けなくなる。その彼女の反応に満足したのか、藤堂は立ち上がりドアの方へ行きかけたが振り返り不敵な笑みを浮かべる。いつも勝負の前にするあの顔だ。


「返事はいらん。その顔と態度が返事としてもらうからな」

ついでのように言われた『福富フク には休んでから来ると言っておく』という言葉。


ひとり残された部室で名前は自身の唇に手を当てて目をギュッと瞑った。

ほし、

「……私だって好きだよ、ばぁか…、」
まったく。この後どんな顔して戻れってのよ…。
小さく呟かれた言葉の中には恋しさが含まれていた。

再執筆(20160411)
初執筆(20150624)


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