たまにはこんな日も

>>生理ネタ注意

>>道夫
「名前さん、昼食を用意したが食べられるだろうか」
「……道夫さんが用意してくれたなら食べます……」
朝ごはんの後に薬を飲んでからベッドで気絶するように寝ていたところ、道夫さんが控えめに肩を揺すって起こしてくれた。毎朝ピピピと音を鳴らす目覚まし時計を見れば13時を回るところで、布団から這いずり出た。半脱げの靴下を履き直し、道夫さんが足元が冷えるだろうと買ってくれたもこもこのルームシューズを片方ずつのろのろ履いた。

「名前さん、今日はイソフラボン尽くしにしてみたがどうだろう」
「い、いそふら……?」
肉豆腐、油揚げと大根のお味噌汁、水菜とかお野菜の白和え、ひじきと大豆の煮物……見事にマメ科というか大豆メニューが並べられている。カタカナに弱い私は困惑しきりだが道夫さんは眼鏡を光らせて解説してくれた。
曰く、大豆などに含まれるイソフラボンは強さは劣るが女性ホルモンエストロゲン様の働きを持ちうんぬんかんぬん。曰く、骨粗鬆症の予防にもうんぬんかんぬん。そもそも構造がかなり類似しておりうんぬんかんぬん。カタカナの多い道夫さんの話は申し訳ないことに3割もわからなかったけど「とりあえず体にいいからたくさん食べなさい」と言いたいのだろう。

「すごく豪華ですね、ありがとうございます」
豆腐は結構好きだ。食欲がなくても食べやすいし……お味噌汁に口をつけると白味噌の甘い味が広がって美味しい。その間にも道夫さんは肉豆腐は豚肉を使ったので吸収の良いヘム鉄やビタミンB群を摂取できるとかひじきは鉄鍋のものを選んだので鉄分が補給できるとか昼に取れなかった分の緑黄色野菜は夕食でとかすらすらと説明してくれる。これまたよくわからないけど体にいいものばかり用意してくれたらしい。
「朝は死にそうな顔だったが、少し元気になったようだ」
「……ご心配おかけしました……」
お腹はまだ鈍痛を訴えるけどご飯が美味しいから少しは回復するだろうか。昼食を終えた道夫さんは飲めそうならあたたかい飲み物を用意しようと言って、私はそれに甘えることにした。ほかほかの豆乳ココア(ここでもまたイソフラボンとココアの成分の話があったが本当にカタカナは難しい)を飲みながら市販の豆乳飲料は案外砂糖が多く含まれるため無調整のものにココアと少量の砂糖で作ったのだと教えてくれる。何から何まで気を使われていてどれだけ朝の顔色がやばかったのかしらと心配になるほどだ。ふうふうと冷ましながらココアを飲む道夫さんは結構レアなのですぐにそんなことは気にならなくなったけど。

さて、六時間くらい経ったしまた薬を飲まないと、と思ったところでタイミングよく道夫さんが薬とお水をテーブルに並べた。さすが、道夫さん!私の声に道夫さんは小さく笑ってこたえてくれた。


>>類
「……honey?……そんなに潰れてどうかした?」
「う……類くん、背中に手が届かないの……」
「うんうん、一大事だね」
いつもはスムーズに回る肩が何故だかバキバキだった。生理のせいだろうか?昨日一昨日の暴食もささいなことでいらいらしたのも本当かどうかわからないもののだいたい生理のせいにしてしまう。だから、正座して上体を倒し肩甲骨の間にカイロを貼ろうとしたら全く届かないのも生理のせいということにしておこう。

「それで?俺は何をしたらいいのかな?cute girl、教えてくれる?」
「け、肩甲骨の間に……カイロ横向きで貼ってください……」
「ケンコーコツ、ケンコーコツ……」
「背中のボコって骨が出てるとこの間!」
「alright、天使の羽が生えてるとこだね」
「多分……」
類くんは指で出っ張った骨をなぞり、それに合わせてリップ音を鳴らしてからペリッと紙を剥がしてカイロを貼ってくれた。類くんの大学の後輩の北斗くんはたまに会うと戯れにエンジェルと呼びはするけどあれはそういうあれなので、いい。ただ類くんもたまにこうやって私をちやほやしてくる。気恥ずかしいけどすらすら口から出てくるから類くんにとっては普通のことなのかもしれない。同じ日本人のはずなんだけどな。

「他には?あと2枚あるけど」
「ああ、それは自分で貼るね。ありがとう」
「えっ言ってくれれば貼るよ」
「いや届くから…………やっぱり貼ってもらってもいい?」
いつもは自分で腰と下腹部に貼るのだけど類くんがあんまりにも悲しそうな顔をするのであっさり意見を変えてしまう。腰と、お腹だねと類くんは私をマットレスに優しく転がしてこの辺?と聞きながら腰に貼り、ころころっと転がしてまた下腹部にペタッと貼る。最後にころころしてめくれ上がった服を類くんは丁寧に直してくれた。
「本当に出勤するの?こんなに辛そうだから休めば……」
「肩が回らなかっただけで生理痛自体はそんなでもないから大丈夫。カイロありがとう、お陰で頑張れそう」
「本当に?」
ふわふわのルームウェアを着た類くんがこてんと首を倒して私を見上げている。きらきらうるうるの目が期待するみたいに私を見て「sweetie、無理してない……?」と言う。
「む、りしてません……仕事行ってくるね!」
「えー」
本当に具合が悪いわけでもないのに休めないので無理やり視線を剥がして立ち上がる。あー危なかった。


>>山下
「おー名前ちゃん、大丈夫?」
「……」
「こたつ入ったまま寝るのよくないよ、とりあえずお水飲みなさい」
「飲ませて」
「おじさん具合の悪い女の子襲う趣味はないんだけど……」
いつもはきはききびきびしている彼女がそんなでろでろになって甘えたことを言うなんて珍しくてちょっとだけ動揺する。ぱきん、と音をたてて水の入った小さいペットボトルを開封、ちゃんと常温のやつだ。

「次郎さん、ごめんね。せっかく映画行くはずだったのに」
「映画は来週でも見れるけど、名前ちゃんがお世話させてくれるのなんて今日だけでしょ……今日くらい無理せず休みなさい」
「優しい……」
「俺が優しくなかったことなんてある?」
「夜はいつも優しくなーい……」
「名前ちゃん、手出さないとわかって強気だよね……」
上半身だけこたつから出した名前ちゃんはだって出さないでしょとだるそうに寝返りを打った。ゆるいルームウェアからちらちら覗くあれこれに別にドキドキしないわけじゃないけど流石に分別あるオトナなのでそういうことはしないというだけで。
「お薬飲んだ?食べたいって言ってた食パン買っちゃったからあとで食べられそうだったら食べよ」
「えっ買ってきてくれたの」
「今日はやってたよ……名前ちゃん、それも元気になったらね」
名前ちゃんちと俺の住んでるとこのちょうど間くらいに最近できたパン屋さんはあまり開いてる日が少ない割に食パンがうまいという噂で名前ちゃんが「私も連れてってくれればよかったのに」と言わんばかりに見つめてくるものだから思わずそんな返し方をしてしまう。
「全部また今度になっちゃうね」
「いいのいいの。今日はだらだらする日にしようよ」
「うん」
名前ちゃんがころんと転がってまた際どいところがちらちら覗く。それもまた、今度にしようね。


*前次#

TOP