眠たいプロデューサーSS

「それ、俺の上着」目が覚めた時つるりとした生地が足に触れた。スポーツ用の黒にグリーンのジャージを拾い上げる。「ありがとう、あったかかった」「そう?監督もちゃんとあったかくして寝ないと風邪ひくよ」広げられていたそれを享介が羽織りなおす。「それと監督ジャージ落としまくってたけど」「ほ、ほんとごめん……」まあそのたびにかけなおすからいいんだけどね。享介は呆れて肩をすくめ、私は頭があがらない。寝相が悪いのも考え物だ。
/享介 それ、俺の上着

突っ伏しているとふに、と形容しがたい感触が指先を襲う。「にゃこ!プロデューサーさんの邪魔するんじゃねえ!」にゃこさんの肉球か。眠くて体が動かない。朱雀くんがにゃこさんを引きはがし抗議の声が聞こえた。「手、あったけえな」そう?寝てるからかも、返事の声はふにゃふにゃ無意味な音になりあつい手が指先に触れる。「あとちょっとしたら起こしに来るからよ、しっかり寝とけよ」ありがとうと言おうとした声はやはりふにゃふにゃになって消えた。
/朱雀 手暖かいね

「疲れているのか?」流れている曲と一緒に麗君の声がした。「そうかも、麗君この曲なんだっけ」ぼんやりした頭では聞き覚えのあるメロディを判別できない。私はよく麗君に同じ質問をするからあっさりシベリウスの2番だと教えてくれる。「どういうのだっけ。4楽章歌ってよ」「「貴殿はいつもそうだな」麗君は通常34繋げて演奏するが、と前置きしてからメロディをなぞった。その時点で思い出した、冬なのに暖かい室内みたいなあれか。麗君の優しい声とよく似あう。
/麗 疲れているのか

「よく眠れたー?」含みのないはずの言葉が少し楽しそうだ。ソファから身を起こすと想楽くんが向かいでお茶を飲んでいた。「何事もほどほどにね。頑張りすぎのプロデューサーさんにはおすそ分けだよ」ぱかっと想楽くんの手元でどら焼きが半分に割れて、大きいほうを想楽くんが差し出した。「大きいほうとりなよ。まだ身長伸びるかもよ」「あのね、隣二人か大きすぎるだけで僕は平均身長以上あるよ」想楽くんはジト目で私を見て大きいほうのどら焼きをぱくりと食べた。
/想楽 よく眠れた?

「少し休んだらどうですか?」はっとして顔を上げると咎めるような視線で北斗が見ていた。「ああ、それだ」「何がですか」「さっき、昔の夢を見ていて」足を飾るフリンジ、揺れるチェーン、この世全部楽しくてもどうだっていいみたいな冷めた目を思い出す。「北斗が高笑いしてた頃の夢……」「今はいい子のふりをしてるだけかもしれませんよ」「ふりでも手がかからないからいいよ」北斗が不満げな声を漏らしつまらなそうに眼の下をなぞった。その目だけは変わらないね。
/北斗 少し休んだら?

「お水、飲んだほうがいいですよ」「ああ……ありがとう」寝起きの驚くほど凶悪な声が出た。直央くんがコップに一杯お水を汲んでくれてはい、どうぞと可憐な声が耳にしみる。寝起きの水も100倍甘露だ。足をお行儀良くそろえて座る様子は雑誌の中の一枚かと思うくらいに絵になってそれでもこないだのお仕事は足を組んでいたっけと思い出す。ああいう役もいいんだよなあ。「プロデューサーさん?ぼく何か……」ああごめん、何でもないよと手を振った。後ろを通った賢君の見すぎですよの声が冷たい。
/直央 水飲め

「今度のハイジョの合宿ロケの時にさあ、暗視カメラしたら嫌?寝てるとこの」「誰か一人くらい寝言言うかもしれないけど……ジュンとか嫌がるかもな」「だよねえ……要検討だな」春名が課題をする正面で次の企画のチェックをするのはもはや習慣かもしれない。春名もわからなかったり飽きたりすると声をかけてくるし結構いい。「そういやプロデューサーも寝言言ってたぜ、この間」「え!嘘!なんて言ってた?」「……ナイショ」春名はそっと目をそらして課題に戻る。それは余計に気になるな。
/春名 寝言言ってた


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