第14夜

春めいてきたとはいえ、まだまだ寒いある晩に少女が道端に蹲っているのを見つけた。

「どうかしたんですか、救急車呼びましょうか」
優しく声をかけると彼女は静かに面をあげて、眩しそうに目を細めた。思わず背後を見ると、今夜はまあ見事な満月で、俯いていた彼女が眩しいと思うのも無理はなかった。

「いえ、」
そのあとに続いた「お腹がすいて動けません」という言葉に私は真面目くさって「それは大変ですね。よろしければうちへどうぞ」と返し、渡した名刺を確認して彼女は遠慮がちに私の背中におぶさった。

「765のお嬢さん、いくら私が同業者とはいえ、簡単に家に着いて行ったりしていいのですか」
「あなたさまから提案され、信頼に足る方だと知っているから承知したのです」
銀色の髪がふわふわと揺れた。声は弱々しくも可憐で、なるほど、銀色の王女と呼ばれるだけある。

「念のため、765さんの方に電話しておきましょうか。四条さん、携帯は?」
「残念ながら、」
「なら私のをどうぞ。電話帳に入ってますので」
「お気遣い感謝します」

たった一回の呼び出し音のあと、赤羽根さんの焦った声がした。
「苗字?今ちょっと取り込んでて」
「貴音です」
「えっ!?」
茶番のようなやり取りに私は静かに笑う。四条さんは淡々と要件を告げて通話を切った。ご飯、何が残ってたかなあ。ぐう、とお腹が鳴って背負った四条さんがうふふと笑った。

満月を後ろに私は自室へと足を進める。押し付けられた四条さんの大きな胸に少し動揺したら、それすらも見越したように四条さんはうふふと笑った。このお嬢さんの食欲を前にご飯、足りるだろうか。


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