第25夜

定期的にプロデューサー会議がある。担当したイベントやライブの報告、企画中の次のイベントについて意見を求めることもある。今日もその会議の日で、ホワイトデーに組んだ臨時ユニットの評価やライブ自体の評価が行われた。

会議を終えて、レッスン室へ向かう最中も会議の内容が頭の中に居座っている。色んな意見を聞くとやはり刺激されて、次のライブへの意欲が湧くことは確かだ。やっぱりシーズンイベントの臨時ユニットは評判がいいなとか、去年の握野さん中心ユニットも盛り上がったしバレンタインに北斗さんに二連勤してもらったのも集客的には大成功だったしな……とか、今回漣くんも周りがうまく乗ってくれたから新しい魅力を開拓できたのでは……とか、次のクリスマスでまた新しい手を打って路線を変えていった方がファンも喜ぶだろうし……っていうかホワイトデーの白ジャケはやっぱりステージで映えるんだよね、去年のとセットで並べても色味がかわいいから何かでまた使いたいな……来年のバレンタインの色味も考えておかないと……そもそも数値上の話だからやっぱり漣くんも握野さんもvi値とか関係なく華がある……次もステ関係なくユニット組んでもいいかな、とか。

「うおっ!」
つらつらと考えながら歩いていると思いっきりつまづいてふわりと体が浮いた。こんなところに段箱おいたのだれだ。山村くんだな!?!?

「くはは、なっさけねーの」
一瞬の浮遊ののち、背中と腰を掴まれ、体が元に戻された……さすがにひやっとした。インシデントがまた。
「漣くん、ありがとう」
「礼ならなんか食うモンよこせ」
「……飴しかないなぁ」

ポケットから出した飴をちらつかせると、目視できないほどの速さで掠めとられる。イチゴ、レモン、ブドウ。漣くんは全部まとめて口に入れた。味はどうでもいいのだろうか。

さて、段ボール箱を端によけてからレッスンルームへ向かうことにする。遅くなってしまったから今は、休憩時間なのだろう。道流に次の仕事の話をしなくちゃいけないから私は先に戻らなければ。
「漣くん、私道流に用があるから先に戻るね」
「おい、」
口をモゴモゴさせながら漣くんは私を呼び止めた。

「飴食べ終わるまで待てないから、後でもいい?」
「……チッ」
ガリガリとすごい音を立てて、漣くんは飴を噛み砕いた。

「ごめんね、急かしちゃったね」
「オマエ、寝れてねェのか」
「……え?そうだな、最近ちょっと忙しいかな」
「メシは」
「昨日だって食べてるとこ見たでしょ」
「もっと食え」
「えっ?」
漣くんは心配するというより、焦ったような顔をしていた。黄色の目がせわしなく揺れて、キッと私を睨みつける。

「漣くん、何焦ってるの」
「もっと食え……で、太れ」
「え?」
「食われそーになっても逃げらんねーぞ」
思いがけない一言にぽかんと馬鹿面を晒してしまう。一体何に?漣くんは笑いもせず、じっと黄色い目を私に向けた。

「あ、師匠、仕事のこと聞いたッス!」
レッスンルームから道流が顔を出して、妙な沈黙が破られた。漣くんはその声を合図に目をそらし、ふらっと離れていく。

「漣くん、15分したら戻ってきてね!」
つん、と顔を背けて漣くんは廊下を曲がり、姿が見えなくなった。
「邪魔しちゃったッスか?」
「ううん。道流、今度のオファーのことなんだけどね」
「はい」

道流に仕事の話を始めようとしたが、立ちくらみがして眉間を抑えた。
「わ、師匠、大丈夫ッスか。とりあえず座って、水……」
「……大丈夫、ちょっとくらっとしただけ。ありがとうね」
ユニットがそろって会社も軌道に乗り始めて、今が働き時なのはわかっている。ご飯があまり食べられなくても、睡眠が満足に取れなくても、今耐えずにいつ耐えろというのだ。それなのに漣くんのどこか焦った顔が頭にこびりついて、私は今日くらいはちゃんとご飯を食べようと反省のため息をもらした。

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