第6夜
気づけば月面に立っていた。息はできたから夢だとわかったが、やけに鮮やかで風すらも感じられた。宇宙に風は吹かないんだっけ。なら、やっぱり夢だな。
延々歩くと青い惑星が突然現れ、私は足を止めた。
(地球か、道流のようだ)
どこにもいない虎牙道のメンバーを思い出した。そうだ、本番前に目眩がして倒れそうになったのだった。
それからじりじりと焼かれるような熱を感じ、振り向けば赤々と燃える太陽があった。
(太陽は、タケルくんだな)
担当アイドルを星に例えるなんて、やけに大きなスケールの話をしている、と思ったが本当に心から思ったことだった。木星の名を冠したユニットはよく知っているが、個人を結びつけたことなど無かったし、そういったロマンとは自分は無縁だと思っていた。夢だからだな。
足を進めれば太陽も地球も見えなくなりただ星だけが光っていた。流れ星が流れては消えを繰り返す。赤、青、黄色、緑、ピンク、紫、銀。無数の星が輝いていた。夢のような光景だった。
漣くんに見せてやりたい。足を速める。そうだ、漣くんはどうしたんだろう。いつの間にかぼこぼこの月面を走っていた。
走って、走って息の切れた時、彼はそこに立っていた。
「漣くん!」
長い銀の髪、真っ白な腕、長い足、いつもの服装で彼は背を向け星を見上げていた。私の声に勢いよく振り向き、驚いた顔を見せた。長いしっぽは遠心力で鞭のようにしなった。
「よかった、漣くんもいたんだね」
私が彼の手を取り声をかけると、漣くんは猫のように目を細めた。それだけだった。罵倒の一言もなく、珍しく黙って彼はされるがままだった。
「ねえ、星が綺麗だね。私、この景色漣くんと見たかったんだ。走ってきたの」
ぎゅっと手を握り返された。これが漣くんの返事のような気がした。
「流れ星がいっぱいだね、漣くんはずっと見てたんでしょう。何かお願いした?」
不機嫌そうに首を振る。
「えっ、最強だから星になんて願わないってこと?……こんなにいっぱいあるんだから一個ぐらいしときなよ。ね、何お願いした?って聞かないからさあ」
そんなことを言ってるうちにも無数の星が流れて消えた。夢みたいにきれいだ。
漣くんはそれを追うように星空を見上げた。つやつやの髪に反射した星が流れ、私は静かに見惚れていた。
「……願いごとしても、いいかな」
漣くんはちらりと私を見て、それからまた視線を戻した。
「あのね、」
これは、してもいいのかなと思って静かに上を向く。
いつだって私の願いごとはたったひとつだけ。漣くんや、虎牙道の皆と出会ってからずっと変わらない、ひとつだけの願いごと。
口を開こうとした瞬間、今までとは比べ物にならないくらいの星が落ちてくる。キュインキュインと聞いたこともない音が大音量で降り注ぐ。星が落ちてくる!?!?私は慌てたが漣くんは動じないままだった。静かに星を見上げている。つられて追った宇宙には大きな何かが見えた。宇宙に詳しくない私にはあれが何だかわからない。漣くんはそれを見て、睨みつけた。
「漣くん!漣くん!」
読んでも、ふりそそぐ大量の星屑で漣くんの掴んだ手は離され、どんどん見えなくなる。
離れた手を伸ばす漣くんの必死な顔、何かを叫んでるのに全然その声は聞こえない。……あ、バァーカって怒鳴ったのは口の形でわかった。
漣くんの伸ばした手がさらさらと指先から崩れて、もう手を伸ばしても掴めない。星が降って、人の体が崩れる。夢とわかっていても、苦しくて涙がこぼれた。どうして、どうして漣くんなの。
「漣くん、私ね!」
指の先から崩れていく漣くんに大声でねがいごとを叫んだ。それを聞き届けたように笑った漣くんは、バァーカとまた口の動きだけで叫んで今度こそ降り注ぐ大量の星に遮られ、見えなくなった。
目が回るほどの落星が止むと月面にまた一人きりになった。全くの無音、それでも漣くんに触れた指先だけはあたたかい。妙に現実感があって、それでいて非現実的な夢だった。
*前次#TOP