突然始まる


「ですから、川を流れる雨水は海へと注ぎやがて再び空へとーーー」

般教を選ぶときのルールは簡単。まず評価はテストかレポートか。それらは専門科目の勉強を圧迫しない程度のものか。予習が面倒ではないか。出席はどれくらい重視か。それから教授の話は作業のBGMになる程度のものか。今年から般教を持つようになったコロン先生の授業はそれらの点において非常に良かった。

先生曰く単位を取るのはそう難しくなく、新たなことをこの授業で学び、少しでも海洋学に興味を持っていただければ幸いですと彼は最初の授業で言った。その言葉の通り、内職をしようとスマホをいじろうと小声で友達と話そうと声を荒げて注意することはなかった。

かくいう私も、最低限のメモを取りながらこの時間は専ら専門科目の予習に当てている。大学は、高校と違って規模が大きく、誰が何をしてようとよほどのことでない限りいちいちうるさく言われないからだ。

今日の講義は海流の話のようだ。一応のシラバスはあるものの、コロン先生はリアクションペーパーの感想や質問に応じて新しい内容を盛り込んでいく。受講生には文系の学生も理系の学生もいて、年齢もまちまちだからか専門的な話よりは中学高校で習ったことから話を膨らませることが多い。それから先生の専門に話が飛ぶこともあり作業しながら聞くのは楽しかった。

授業が終わればさっさと学生は出て行き、講義台の近くで何人かの生徒が質問をしていた。先生はリアクションペーパーの質問にはウェブで詳細な(中でも海洋生物のことなど幾つかの話題では確実に熱の入りようが違う) 回答をよこすから、今わざわざ質問するのは熱心な学生か彼のファンだ。優しくて顔がよくてスタイルもよくて、先生に憧れる学生も少なくなかった。

「名前、実習遅れるよ」
「あ、今行くね」
私もいつも通りそれなりの感想を書き連ねて最前列に提出した。コロン先生は白板に図解しながら学生の質問に答えている。

コロン先生の後ろを通ると、彼の長い髪から独特の香りがした。シャンプーか香水か、それからやっぱり潮の匂いもどことなくする気がする。

「あの」
「はい?」
突然声をかけられ、振り向くとじっと見つめるコロン先生の姿。いつも内職しているのが、まさかバレていたのだろうか。
「……いえ、なんでもありません。呼び止めてすみませんでした」
「はあ……古論教授、失礼します」

じっと見つめる目にたじろいで目線をさげたまま挨拶をした。なんだろう、綺麗だけど変な人。


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