番外編葛之葉雨彦

>>番外編

春なのに初夏の陽気、ランチには少し遅く三時のティータイムに早過ぎる時間、お店のガラスが柔らかく太陽の光を通して絶好のアイスクリーム日和といえる。

緑色の光に浮いては消える泡、テーブルにできる影も緑を帯びていて私は思わずうっとりしてしまう。これが飲みたかった。メロンソーダにのったバニラのアイスクリーム、パステルカラーのおいりで飾られて目にも楽しい。雨彦さんはそんな私をみて喉の奥で笑い、じっとりとした視線を送れば「ほら、早く飲まないと溶けちまうぜ」と促した。運ばれる前からわくわくしてたのがすっかりばれている。

雨彦さんの方にもコーヒーゼリーが運ばれてきて、その組み合わせが似合っている。バニラアイスとカルダモンの香り組み合わせが大人っぽい。超えられない大人の壁をありありと見せつけられたようで悔しいような、でも私はずっとこのすてきなクリームソーダを夢見ていたので。おいりは雨彦さんが香川に行った時にもソフトクリームにのっていたので私も是非一度この食べ方をしてみたかったのだ。
「う〜ん今日があったかくてよかったですね」
ひとくちすくっただけなのに口の中がすぐ冷たくなってその感覚に肩をすくめる。雨彦さんもそうだなって言ってゼリーとアイス、それからトッピングのところをバランスよくすくって私にひとくち食べさせてくれた。おいしい!甘すぎず、香りも深くて雨彦さんもお気に召したようで満足そうな顔をした。それから手を止めて私の顔をじっくり見るので恥ずかしくてアイス溶けちゃいますよと言ったけど雨彦さんはそうだなとだけ言う。

こういう時この人があんまりにも言葉にし難く優しい顔をしているので照れるのも悪いんじゃないかって気がしてしまう。青のような紫のような色の目をやさしく細めて「お前さんが嬉しそうなのがいちばん」とこれまたバニラアイスよりも甘くてとけるような声で言うものだからなんで返したものか非常に困る。
「えーっと私も雨彦さんがおいしいもの美味しそうな顔して食べてるの見るの好きですよ」
そうしたら雨彦さんにも予想外だったみたいで今度はその目をまあるく見開いた。ガラス越しに見ればその瞳にもまた泡が浮かんで消えていく。

「今日はこのあと、何見に行きましょうか」
「そうだな、ここから少し上れば四条通り……地下鉄で烏丸の方に行ってもいいしこっちを散策してもいいな」
「うーん横の距離感はそこそこ覚えたんですけど縦の距離感がまだ覚えられないんですよね……えっとここからまっすぐ上れば北野天満宮……」
「結構遠いぞ。まあ、なかなか通り名を覚えられないお前さんのために歌いながら道を確認してやってもいいんだが」
「ひえ、歩いて45分!雨彦さんはコンパス長いから10分短縮としても私には厳しそう……あっ晴明神社もこっちなんですね……結構上だな……」
「一条戻り橋でも見て帰るかい?」
「何かあるんですか?」
「昔死者が蘇ったとかいう橋だな」
「いっいいです!間に合ってますので……」
雨彦さんはちょっと残念そうな顔をして(行きたかったのかな……)旧い土地だからそういう伝説系が多いし雨彦さんはその手に詳しいけど私は幽霊はもちろん鬼が出たとかそういうのもあまり得意じゃないのでできるだけ遠慮させてもらいたい。

「だって、怖いじゃないですか……地獄とつながる井戸とか東西南北念入りに魔を封じる作りだとか、それなのに宴の松原みたいなところもあるし……」
「……怖がるわりに詳しいな……」
雨彦さんは呆れてまあ陽のあるうちは出ないだろうよと笑い、この辺には有名な寺とか神社は少ないけれど花が多く咲いてるから少し歩いて帰ろうかと提案した。あたたかくなって春、この陽気なら早く咲いた花もきっと多いし私はその提案に喜んで賛成した。雨彦さん同行の元なら魔界ツアーも頑張れるけどやっぱり私にはまだ早そうだ。

*前次#

TOP