閉じ込めて守ってあげる?


その宣告を受けた時、同行したのは桜庭さんだった。宣告と言っても大したことはないけど、彼の前職からして何もわからない専門外の私が一人で聞くよりはずっといいだろうと、自ら申し出てくれたのだ。

その割に私よりずっと青ざめた、険しい顔で診断を聞く桜庭さんを見て私は、「これは無理にでも同行を止めさせるべきだったな」とぼんやり考えていた。過労による……というお医者さんの話を私は妙に冷静に聞いていたが、桜庭さんは震える口で詳しく治療や病状を尋ねた。ああ、こんな顔させることになるなら、本当に連れてこなければよかった。


「君の療養先のことだが、」
あれからしばらくして、私が仕事を片付けているといつも通りコロコロのついたイスに腰掛けた桜庭さんが静かに声を上げた。目線は手元の紙から上げられ、さすがに顔は青ざめてはいなかったが険しいまま。手元の紙はおそらく診断書だろうなと思った。

あの日、お医者さんから私がもともと持ってたちょっとした病気が悪化している、と告げられた。毎日毎日不摂生な生活だったのでついにガタが来たか、程度にしか思わなかったのだが案外重症だった。入院するほどでもないけど通院してお仕事をお休みするべき、と言われて大したことなかったなあ、と思ったけどあの桜庭さんの顔を見た後では冗談でも言えなかった。

「はあ、適当に実家に帰ろうかと思ってますよ」
幸い、通院しやすい病院の紹介もしてもらえそうなので、と続けると桜庭さんはさらに眉を寄せた。

「君には、京都に行ってもらうことになった」
「はい?」
「伊集院くんの実家に行ってもらう」
「えっ?」
事務所のアイドルが何かのバラエティに突然参加を告げられた時のことを思い出した。突然入ってきたカメラにえ?とかまじで??とばかり言う彼らを見てきたが、人間驚くとそうなるらしい。

「大丈夫ですよ。離れに滞在してもらうことになりますから、気にしないでくださいね」
3人掛けのソファに優雅に腰掛けていた北斗さんが振り向いて何てことないように言った。ウインク、揃った二本の指、いつも通り完全アイドルスタイルの北斗さんだ。
「そんな、実家でいいんですけど…」
「不眠不休で働いてた番長さんがおちついて療養してくれるっていうなら、賛成だな」
突然背後から蛍光灯の光を遮る影、玄武くんもそう言った。
「なあ、番長さん。待っててくれる人の所在がわかるってのは、いいもんだな」
「うっ」
メガネの奥の鋭い目を緩めて玄武くんが微笑む。しっかりしているように見えるが、玄武くんは17歳。事務所内ストレートに好意を向けてくるアイドルランキング上位に君臨する彼の好意は今日も真っ直ぐ私に突き刺さる(それが若さゆえでなく生来のもののように思われるところが恐ろしい)。

「とりあえず座らないか」
桜庭さんにうながされ、北斗くんと玄武くんの間に座る。3人掛けのソファは満員になった。
「同じ会社の同僚としても、君がどこにいて、無事にしているとの連絡がすぐに取れたほうがいい。幸い向こうに懇意にしている医者がいるし、伊集院くんの家なら何かあっても安心できるだろう」
「うっ……」
「プロデューサー、」
「番長さん、」

頭脳派3人に完全に外堀を埋められ、こうして私は京都に行くことになったのである。体調不良関係なしに目眩がしたが、そこはしっかりエスコートされ、私に残された道は完敗を認めることだけだった。

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