番外編大河タケル
>>番外編
お店に入る時から少し顔がこわばっていたなあと思う。それでもお店に入って素敵なケーキを見たらちょっと顔が緩んで、一緒に来てよかったなあと息をついた。
「タケルくんどれにする?」
「えっと……」
いっぱいあるし、カタカナの説明がよくわからないとタケルくんはまた顔をこわばらせる。たしかに!
「カタカナはフィーリングだよ、あとは見た目。食べられないものあったらお店の人にこれに入ってますかとかこれに何が入ってますかって聞けばいいんだよ」
「そういうものなのか……」
「ちなみにお店の看板商品はこれだよ」
ピラミッドみたいな形をしたそれを指差すとタケルくんはホッとした様子を見せてじゃあそれにする、と言った。私はハートのくり抜きがかわいいフロマージュにしよう。タケルくんはフロマージュ?とまた怪訝な顔をしてだいたいチーズケーキ、って私がまた雑に答えたのでああ、と納得しかけた。
お店は若い女の人で賑わっていた。タケルくんは注文してようやくおちついて周りを見たけどそのことに気づいてやっぱり微妙な顔をした。気になる?って聞いたら否定はしなかったけどぽつりとユニットメンバーのことを言う。
「……円城寺さんならこの場にいてもはまるんだろうな」
円城寺さんがこの場にいるのを想像して、たしかにと言いかける。イチゴとピスタチオならハズレはないッスねとか、やっぱり季節限定のものは外せないだとか、常に新作開発にも余念のない彼なら話題も弾んで真剣にケーキを選びそうだ。
「タケルくんも似合うよ。多分漣くんも」
タケルくんは生返事をしてちょっと考えるみたいに視線を下げた。ああ、そういうところがこういうお店の雰囲気ともあってて写真集の1ページみたいにさまになるんだって!赤い絨毯と深い色の木にいろどられた入口からお店に入るところからきらきらのケーキのおさめられたケースを眺めるところ、ケーキを選ぶところも全部がかっこよかったよと熱く伝えてもタケルくんも困るだけだろう。アイドルをやってしばらく経つから自分に魅力がないとは思っていないだろうけどまだまだタケルくんの知らないタケルくんの魅力がいっぱいあるからなんだかもどかしい。
もどかしがる私を見てタケルくんは体調を心配してくれたけど、大丈夫だよと言ったらよかったと肩の力を抜いた。そうして待ちに待ったケーキとドリンクがやってきて私達は思わず目を輝かせた。タケルくんはそっと四角錐の形をしたケーキにフォークをつきたててひとくち、わたしもとりあえず写真を納めて(タケルくんは俺も撮ればよかったなと言ったけど食べかけでも撮ればいいよと言ったらそういうものなのかと素直に写真を撮っていた)、真っ白いケーキをひとくち。あまいだけでなく爽やかで、見た目もかわいらしい。ピラミッドの形はタケルくんが前にしたお仕事を思い出すし。
「タケルくんもこれ食べてみる?」
「交換しよう」
タケルくんと銀のトレーを交換してピラミッドを抉る。タケルくんはといえば遠慮がちに少しフロマージュの側面を削いだだけで、私は「チーズケーキ苦手じゃなかったらもっと思い切って抉っていいよ」と苦笑した。タケルくんは神妙な顔で白いケーキを大きめに削り直してから口に運び、ぱっと表情を明るくした。口の中で軽すぎず重すぎず溶ける感触は本当に夢みたいにおいしいのだ。
いつも少ない口数が余計に少なく並ぶかと思いきや、タケルくんはチョコの甘すぎず苦味があるところがおいしいだとかこういう形やくり抜きはどうやって作るのだろうとか、あんなにたくさんの種類のケーキを考えるのは大変だろうなとか色んなことを饒舌に語った。
「珍しいね、タケルくんがこんなに食べ物の話するの。円城寺さんに聞かれたら答えてるイメージはあったんだけど」
「食レポ下手だから練習しようと……変か?」
「えっそうなの、もっと真剣に聞いてアドバイスできればよかった!」
「変じゃないならいい。もっと練習して、出来ること増やしたら今より色んな仕事が受けられる……よな?」
「そうだね、タケルくんは食べた時の表情もいいからそういうのも撮ってもらって、それでタケルくんの言葉でコメントできたら見てるファンもきっとすごく嬉しいよね」
「皆が頑張ってるから……俺も頑張らないと」
タケルくんはそう言って大きく切り取ったひとくちを口に運ぶ。タケルくんの量に反して私はまだ結構残っているので慌てたら「ゆっくり食べてくれ、アンタが何か食べてるとこ見るの嫌いじゃない」なんて優しいことを言ってくれるからありがたく黙ってしばらく味わって食べた。
「……アンタが熱心にやってくれるから、俺もそれに応えたいって思う。ありがとう」
ケーキの最後をすくおうとして苦心しようやくフォークに乗せて口に入れたところでタケルくんと目があった。まっすぐ私を見てそんなことを言うものだから、やっとの思いでケーキを飲み込む。
「こちらこそ、ありがとう。でもタケルくんがいまこんなに成果を出してるのはタケルくんが頑張ってるからだよ。私はそれのお手伝いしてるだけ」
タケルくんはちょっと眉を寄せて言いたかったことが全部伝わってないみたいな顔をした。
「ごめん、何か違った」
「いや、いい。今度は伝えられるように俺が頑張る」
前は珍しかった柔らかい表情も今では結構見られるようになって、一緒にいる時間が長いことを感じる。前も今もタケルくんはよく私に感謝の気持ちを伝えてくれてそのおかげで私ももっともっとと頑張れる。今度は円城寺さんも漣くんも一緒に美味しいもの食べに行こうねも行ったらちょっと顔を歪めて、タケルくんはそうだなと言った。
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