プロデューサーは忍者

先祖代々歴史の陰に隠れて時の成功者たちの手助けをしていたとかいう。歴史に決して名が残ることのないその長い長い家系図の一番下に位置するのが私、現代に生きる忍者、苗字名前である。忍者であることを隠して今は男性アイドルのプロデュース業を主とする会社で働いており、まあ大雑把に見ればご先祖様たちと同じ「時の成功者に手を貸す」お仕事と言えるだろう。

少子化が叫ばれる昨今、忍者業界でも後継者不足は深刻な問題だった。私がわざわざ父母祖父母のように政治家のSPや財閥に勤めなかったのかというと、ひとえに後継者探しのためだった。世はアイドル大戦国時代、ご先祖様たちが活躍したほんものの戦国時代にも負けない生存競争が芸能界にはあるというだけあって、数多の肉体派アイドルたちが鎬を削っている。その中から忍者に興味がありそうな人が見つけられれば……そしてあわよくば次世代の忍者に……という藁にも縋る思いでこの業界に飛び込んだ。315プロはその点魅力的だった。アイドル候補を探すうちに別流派の後継者と出会ったこともあるし、肉体派人材が豊富。そして私には案外プロデューサーの仕事が向いているらしかった。

「前から疑問だったんだけど、プロデューサーさんって一体どうやってそんな短時間で現場を移動しているの」
「ぎくっ」
「ねえどうやって?」
私が最も後継者になってほしいと思っているのがこの御手洗翔太。14歳とは思えない身体能力に人懐っこい性格はアイドルとしての才能であるのは勿論、忍者向きの才能でもある。
「プロデューサーさん、イマドキの人はわざわざ口に出してぎくっとか言わないんだよ……」
「うううううるさいな、わざとに決まってるだろう」
「それで、どうやってプロデューサーさんはお台場から赤坂まで5分で移動してるの」
忍者って便利だ。かつてご先祖様がやったように小田原から京都への瞬間移動なんてものはさすがにできないけれど、都内くらいなら走ればすぐだ。学生時代はもっぱら忘れ物を取りに帰るときくらいしか使えなかったが、今の会社で働くようになってからはめちゃくちゃ役に立つ。アイドル達が都内の撮影所に散らばっているときでも全部の撮影所に顔を出せるし、何かトラブルが発生した時はすぐに現場に駆け付けられる。自分一人での移動の時は交通費も浮くし体も鍛えられていいことしかない。翔太の問いに答えるのは簡単。私が忍者だから。そんなこと言えるわけないので言い訳を考える必要がある。

「なんていうかこう、抜け道を駆使してだね……」
「はい嘘!プロデューサーさん送り迎えじゃないと駐車場使ってないもん」
ハンドルを握る動作をして見せた手がぱしんと叩き落されて翔太は私をじっとりとにらみつけた。私にはこれ以上持ち駒がないので何としても「抜け道探すのがとてつもなくうまい説」を押さなければならない。
「みのりさんだってナビよりめちゃくちゃ早く目的地に着くよ?まあ翔太みたいなおこちゃまはご存知ないかもしれないけど」
「僕の年齢は関係なくなぁい!?」
「あるある。翔太は免許を取ることがいかに大変かわかってないよ」
「む、むかつく……」
翔太がわなわなと震えて、私は翔太の負けず嫌いなところは忍者に向いてるけどこういうところは不向きだななんてのんきに考えていた。うちの事務所なら他に漣くんとかも身体能力的には忍者向きなんだけど機密を扱うことや性格なんかの面では忍者にぴったりと言い切れないところが本当に残念だと思う。そもそもうちの事務所には転職してアイドルになった人が多く若年の忍者候補を探すことが難しい。

「……プロデューサーさんってほんっとーに変な人だよね」
「なんだって?」
「まともなごはん食べなくても寝なくても全然平気だし、瞬間移動もできちゃうし?ストーカーに石投げて立ち向かおうとするし?」
「……うう」
幼いころから忍者修行を積んだ身としては、そんなものは全然たいしたことじゃない。山中で虫やよくわからない草をかじって飢えをしのいだことを思い出せばゼリーもバーもごちそうだし、三日三晩寝れなくてもその原因が獣や雪ではなくかわいいアイドルたちなのだから気持ちは楽だ。石粒を投げたのは職務質問が怖くて何も武器を持てなかったからだし、自分が野蛮人だと思われることよりアイドルたちに危害が加えられることの方が恐ろしい。立派な先人たちのようにドロンで消えるにも火を噴くにも事前準備がいる。変ということならうちのアイドルたちのほうがよっぽど変だと思う。

「だからね、僕たまに思うんだ」
「うん」
「プロデューサーさんって実は忍者なのかなって」
「……!?!?」
手の甲がびりびりするほど驚いたのに叫び声を上げなかったことを褒めたい。いついかなる時も冷静であれと叫ぶ自分に流れる忍者の血を称えたい。白目は剥きそうになったが。
「ににに忍者なんてイマドキいるわけないだろう……!?!?!?」
「だよねー」
言ってみただけ、と翔太は言い切って私はばくばくする心臓を必死になだめてなんてことない表情を作るように努めた。なんて返したら冷静っぽくふるまえるんだろう。「忍者なんてさすがに創作だよ」「今度そういう役のお仕事もいいよね」「忍者のお仕事に興味はありませんか?」どうしよう、正解がわからない!ご先祖様が潜り抜けてきた死線並みに今の状況がやばいということだけはわかる。

「大丈夫、プロデューサーさんが本当は政府に改造されたサイボーグだとしても黙っておいてあげるからね」
「……」
冷や汗が全部引いた。っていうか誰だ私のことをそんな風に呼んでいるのは。


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