その恋心を責めないでくれ


「花吐き病の感染が確認されましたので、今後アイドルの皆さんとの接触は今まで以上に制限されます。プロデューサーとしての仕事は継続することになりましたので、ご迷惑をおかけしますが、これからもよろしくお願い致します」

事務的に一息にそう述べると、輝さんは絞り出すように私を呼んだ。
はい、と返事をする私の声は、震えていなかっただろうか。

治らない私を哀れむように輝さんは私の肩を抱いた。
「大丈夫、プロデューサーがどんな病気になっても俺たちは変わらない……これからもトップ目指して、一緒にがんばっていこう」
優しい輝さんの言葉に目が熱くなる。辞めろって言われたらどうしようかと思った。輝さんに言われたら、立ち直れないと思った。


あなたは、こんなにも優しいのに、私はあなたを裏切ってしまった。ただ1人あなたを呼び出してこの事実を告げた。私は、あなたを好きになってしまった。トップアイドルを目指すと宣言してくれたあなたを裏切って、あなたが私を哀れんで、この気持ちに気がついて好きになってくれないかと期待している。

「ありがとう、ございます。どんな体になっても、一生懸命頑張りますから、これからもよろしくお願いします」

輝さんは心配させまいと明るく優しく笑うばかりで、汚い私の気持ちには一個も気づいていない。その方がいいのかもしれない。隠しきれている間だけなら、私は彼を導くプロデューサーでいられる。彼の望む姿でいられる。一番近くで見つめることができる。汚い気持ちを覆うようにうっとりと笑んだ。病に苦しんでも、近くで輝さんの輝く姿を見ることができる、それだけが私の救いになる。

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「花吐き病の感染が確認されましたので、今後アイドルの皆さんとの接触は今まで以上に制限されます。プロデューサーとしての仕事は継続することになりましたので、ご迷惑をおかけしますがこれからもよろしくお願い致します」

震える声で、自身を責めるように思い詰めたプロデューサーを見て息が詰まった。そして、同時にひどく安心した。仕事に追われているプロデューサーに恋愛する暇なんてないから、好きになるなら一番最初に出会って一番近くにいた自分以外のはずがないとわかっていた。

よりによってうちのプロデューサーがそんな病気になるなんてなあ、と俺はあえて他人事のように考えた。仕事一辺倒のように見えるこのプロデューサーは、仕事の時の敏腕もポーカーフェイスもプライベートになった途端になんの役にも立たなくなる。

対して俺の前職である弁護士というのは事前の準備はもちろんの事、対人観察がものを言う。やめたとはいえ、その癖は中々抜けるものでなく彼女が俺を好きになったのは勿論気づいたし、彼女の望む通りその恋心には触れないできた。だから、彼女が自ら花吐きに感染したとわざわざ明かしてきた今がチャンスだ。

にっこり微笑んだ彼女に、こんな顔を見れるのは自分だけだと嬉しくなると同時に不安になる。そんなに無防備で大丈夫なのだろうかと。

「あんたは、誰かをそんなにも好きになれるんだな……羨ましいよ」
優しく手を重ねれば、プロデューサーは俺の恋愛が自由にならない立場を思ってか、ごめんなさいと長い睫毛を伏せた。睫毛に涙の粒がくっついている。
「何を謝ってるんだよ、応援してるぜ。プロデューサーのこと」

プロデューサーが目を見開いたのちに咳き込んで、細い腕で俺を振り払った。「だめ、輝さんだけは……」と泣いた声が、丸めた背中の薄さが、性別の違いを伝えて愛おしくてどうしようもなくなる。

苦しそうな声とともにばらばらと床に吐き出されたのは全て赤。俺の色だって気づいて胸が苦しくなる。ああ羨ましい、俺にはできないのにあの赤だけが彼女に触れることを許されている。



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