カレーライスと街角の隙間

私がお世話になっているヒーロー事務所には、今のところもう1人インターン生がいる。高校は違うけれど、同い年の彼とは強くて切磋琢磨できる素敵な仲間だと私は、思っている。彼がどう思っているかはアレだけど、少なくとも私は。


今日もパトロールついでに昼メシを済ませてくるように言われて、私たちはお金を持って事務所を出た。私ともうひとりのインターン生、雄英3年の環くんはそれぞれ街並みに目を向けつつ(見習いとはいえヒーロースーツをきた人間が周りをよく見ているだけで抑止力になるのだそう)何を食べようか、といくつかの候補をあげた。

「……名前ちゃんの食べたいところでいいよ」
「ほんと?じゃあね、カレーがいいな」
「わかった」
環くんはあっさり承諾して、道頓堀めざして黙って歩き出す。私もファットもわりかしうるさい方だけど環くんはどちらかといえば物静か、しかし決して口数が少ないのではなく(独り言だけなら私の3倍はせりふが多い)ファット曰くただのシャイボーイなのだという。

私は初めて挨拶した時に環くんのそんな性格のことを知らなくて、「苗字さんなんて他人行儀呼び方やめてよ!これからずっと一緒なんだから名前って呼んで!」と女子校テンションで絡んだ結果、めちゃくちゃ距離が開いた。今思えば当然ですが。

その後の名前さん呼びも長くて他人行儀でやだ!とゴネ倒して名前ちゃん呼びを勝ち取った。ファットはそれでこそナニワの女や!って言ったけど何もナニワの女がみんなそんな強いわけでもなし、そもそも私は神戸の人間である。そんなわけで女子校のJKと共学のDKのテンションの差に驚いたのも今は懐かしい。

最初のころは目が合うどころか会話もほとんどダメだったし、今でも近すぎると嫌そうにされたり、目線が全然合わない日があったり。いやでも私たち、結構相性いいと思うんだよね。そう言ったときには心底ありえないという顔をされてしまった。未だに学校のテンションで行くと引かれる。

私の通う高校は幼稚舎より完全に女子のみ、他所の人からは可憐な少女の花園なんて言われているがそれは長年一緒にいすぎて学舎に通うものは皆家族!みたいな雰囲気と近すぎる距離感のせいだと思う。

「どこにしようか」
「いつものとこ、空いてるといいんだけど……」
アーケードの老舗は混んでたから通り過ぎて、アメ村の方のお店にしようって私たちは人がいっぱいの戎橋を避けてゲキヤス店の方に曲がった。環くんはふいっと私から視線を逸らして、周りに注意を配りながら歩き出した。そうだ、パトロールもしなくちゃ。

「名前ちゃんはカレーばっかりで飽きない?」
「うーん、食べるのとコッチは別物っていうか……はっカレー嫌だった?」
「そういうわけじゃない!」
「ほ、ほんとに?でも次は環くんの好きなのにしようね」
私はママの薫香、パパの刺激物を指先から放出する個性を受け継いで、指先からカレー(っぽい刺激物)を噴出する個性の持ち主である。飢えを凌ぐために自分の指先を咥えることこそあれ、やはりお腹に入れるならお店のものがいい。勿論ママのスパイスゴリゴリのカレーも、パパの市販のルーをブレンドしたカレーも好きだけど。


幸いにも目的のお店は並ばずに入れた。今日も午前はバタバタしていたので2人とも腹ぺこだ。
「環くん、カツのせていーい?」
「いいよ」
「やった!カツのせ2つお願いしまーす!」
すぐさま到着した2人分のご飯に環くんも目を輝かせる。今日は午前が延びてちょっとお昼が遅くなったから私以上にぺこぺこなんだと思う。

「半分いい?」
食べる前に尋ねると、環くんはスプーンを咥えたまま、黙ってお皿が寄せられる。私はご飯とカレーとカツを半分環くんのお皿に移した。

私は個性の都合上一度にたくさん食べられず(胃やほかの臓器と一緒に擬カレー物質を貯める袋がお腹にはいっているからね)ちょっとずつを何回も食べる生活を送っている。いわゆる少量頻回食ってやつです。いつもは事情を知ってるファットに食べられない分を託すんだけど、最近環くんも食べてくれるようになった。外食の時に残すのが申し訳ないから本当に助かる。

「やっぱりカツ大事だよねえ」
環くんがこくんと頷き、私もまずはカツを一切れ食べた。それから生卵をスプーンで割り、とろりと流れた黄身を絡めて食べる。ちょっとしか食べられなくたってやっぱりここにきたらこれを食べなきゃね。

「環くんありがとうね」
「別に、このくらい大したことじゃない」
わざわざ目を逸らして言われたって今更いちいちショックは受けない。いや、ちょっとはまだダメか!って残念な気持ちになるけど。

「いつもおいしいと思うけどね、やっぱり環くんと食べるとすごくおいしいなあって思うよ」
「……」
「環くん?」
「名前ちゃんはもう少しよく考えて発言した方がいい……」
「なっなんで!?今のもいつも環くんに対する発言もすべて嘘偽りない本心ですが!!」
「もういい、わかったから……」
「いえ!わかってくれるまで言います!」
環くんは降参ですと言わんばかりに手をあげて、そのあとは真っ赤な顔のまま無心で1.5人前のカレーを食べた。私も同じくらいの時間をかけて半人前のカレーを完食した。食べながら2人して悶々としていたのだが、環くんはど私の気持ちを分かってくれるのか。私たちがわかりあえる日はまだ遠い……


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