どうにかなりたい!
今年もクリスマスイベントに向けた資料をああでもないこうでもないと唸りながら集めていたら、冬馬が「これを見ると今年も終わるって感じがするな」と近寄ってきた。私もこれの支度を始めるのと各賞のノミネートの連絡などを受け取ると年末が近づいてきたって感じがする。
「そうだね、毎年恒例だからどんどん新しいもの出したいよね」
「それで色々調べてるんだな」
この時期はイルミネーションの点灯式に始まり、ベストなんちゃらだとか演技のお仕事関係の授賞も多くて、しかも月末に向かってどんどん忙しくなる。クリスマスライブの準備はもうおおかた整っていることもあり、事務所の中はハロウィンが終わった途端クリスマスムードだ。
「去年の冬馬は可愛かったなー」
「なっ!忘れろ!」
「無理だよ、あんなに可愛かったのに!」
私が思い出すのは、「いつまでサンタを信じてた?」とこっそり聞きにきた冬馬のこと。「せーので言うか?」という可愛すぎるおまけがついてきて、私はかわいさがキャパオーバーして爆笑してしまったのだが、冬馬は結局拗ねて教えてくれなかった。
「機嫌直して?餅焼いてあげるから……」
「もう餅?早いな」
「ね。丸い餅食べたことないって言ったらこないだ東雲さんが持ってきてくれたの」
「へえ……」
「きなこでもいい?へへ、餅もらった時にキリオに見つかったんだけどねえ、餅ふたつと交換でいいきなこ分けてもらったんだ……」
「あんたは本当にそういうとこだぞ……」
「冬馬もきなこもちにするでしょ、同類だよ」
ふたりとも関東人なので餅は軽く焼いてお水をつけて、砂糖ときなこを冬馬と相談しながら混ぜた。
「焼いた餅っていうのはどうしてこんなにたまらん匂いがするんだろうね……」
「名前さんち、結局オーブントースターないままなのか?」
「そう、餅の為に買うべきかな……葛之葉さんちはひとり暮らししてると油揚げ焼く専用になってるって言ってた」
「じゃあ餅専用?」
「そう!でもね買ったら結局色々使いそうな気もするんだよね……あ、きなこまだあるよ。スプーン持ってくるからいっぱいつけなよ」
「おう」
きなこも餅も美味しいので本当にキリオと東雲さんには感謝しきりである。私も今度実家から何か送ってもらってお裾分けしよう。
「そういや名前さん今年はもうライブの準備終わったんだな」
「ええ、一応ライブの方はね。今年も皆のクリスマスの思い出が聞けて楽しかったよ。勿論去年の冬馬に勝るエピソードの持ち主は現れてないんだけど……」
「も、もういいだろ!」
「今年もせーのする?」
「しねえよ!」
冬馬はあっという間に餅を食べ終えて、プンプンしながら皿を片付けに行ってしまった。可愛かったんだけどなあ。あまりに私がいじめるので、ついにこの間柏木さんから「冬馬くんも年頃なんだしあんまりしつこく構いすぎると嫌われますよ!」とお叱りを受けた。全くその通りだと思う。
「いいな、でも小学生のサンタさん楽しみにしてる冬馬想像するとめちゃくちゃかわいい」
「顔、にやけてるぞ」
「えへへそりゃあにやけるってもんですよ!なんなら中学生まで信じてたのかもしれないもんね、冬馬がはっきり教えてくれない限りそこはシュレーディンガーの冬馬だもんね、うへへ想像するだけでかわいいなー」
「もう俺は何も言わねえからな……」
「いいのよ、私が好き勝手想像するだけですのでね……」
呆れた冬馬がぱらぱらとテーブルの上よ資料をめくり、ネット記事を印刷した今年のイルミネーション特集で止まる。点灯式情報には315プロのアイドルだけじゃなくて人気俳優やよそのアイドルの名前も連なっている。冬馬はそれを見ているらしかった。
「気になるところあった?」
「いや、この人今年すごく売れたなと思って」
「ね、たぶんブレイクランキング入ってると思う。ドラマと映画ものすごい数出てたし私も何回か局とかスタジオであったよ。かっこいいよねえ」
「……」
「あの、勿論いちばんかっこいいのはうちの天ヶ瀬冬馬さんですが……」
「取ってつけたように言うなよ!」
「うへぇ、許して」
冬馬はまたプンプンしながらネット記事の印刷をめくる。先程話題にのぼった人気俳優のクリスマスデートプランの記事は驚きのはやさでめくってしまい、人懐っこい柔らかな笑顔は秒で見えなくなった。
「そうだ、冬馬は連載の記事もう書けた?悠介の方はね、もうちょっと待ってって言われてるんだけど」
「ああ……書いたから送っとく」
「うん。あ、そうだ、記事に載せる写真と紙面のデザインももらったから確認してね。私ね、あの派手なセーターの写真推してたでしょ」
「クリスマスツリーのやつか?」
「そう!それがね通りましたー!」
冬馬は私にスマホで打った原稿を送り、クリアファイルに入ったゲラを受け取った。毎月20代前半向け女性誌に掲載してる冬馬の記事は、やっぱりファンの子たちからは冬馬の自然な言葉ということで需要がある。悠介も同じ出版社のお姉さん向け雑誌で同じように連載を持っていて、どちらも毎月1ページの掲載ながら人気がありふたりとも頑張って毎月内容を考えている。
「冬馬は今月何にしたの?」
「ああ……撮影がクリスマスだったからそれにしようと思ってる」
「そうなんだ。いいよね、クリスマスはやっぱテンション上がると思うよ。仕事柄世の中の雰囲気とかも結構見るようにしてるけど、やっぱり冬っていうか年末商戦の前は消費が落ち込むから……って何驚いてるの」
「あんたがそういうプロデューサーっていうか……普通の芸能事務所の人っぽいこと言うの、珍しいから」
「何年目の付き合いだと思ってるの!わ!た!し!が!君の!プロデューサーです!」
冬馬が目を見開いてまじまじと私を見ている。失礼だな、私をなんだと思ってるんだ。
冬馬は嬉しそうに私の顔を見て、「それじゃあ俺の、プロデューサーのあんたはクリスマスにどんな思い出がある?かわいい担当アイドルになら、教えてくれるよな?」とわざわざ「俺の」のところを強調して楽しそうに笑った。いつもからかい倒しているからこういう時は本当に嬉しそうになる。そのキラキラした顔は、今じゃなくてカメラの前でやってほしい。私は結局かわいいアイドルからのお願い事がどんなものであれ、それに弱いので考え込む。
「クリスマスか……特に面白い話はないけど……」
「名前さんは人間が面白いんだからぜってえ面白い話隠してるだろ」
「何それ……あ、本当にどうでもいい話だけどね、うちは毎年プレゼントと一緒にクリスマスカードをもらってたんだけど」
「毎年?」
「うん。それで、あるクリスマスの朝、同封されていたクリスマスカードのデザインを見て、去年やその前のデザインが一瞬にして頭の中を駆け巡り、サンタさんの正体に自分で気づきました。悲しいような、ああやっぱりそうだったんだと納得するような、不思議な気持ちになりました。以上!小学3年生のクリスマスの思い出でした」
「なんつう思い出だよ!
「だから面白くないって前置きしたでしょ!……何、その顔は」
「名前さん、自分のことあんまり話さないから……名前さんにも子供の頃もあったと思うと変な感じだな」
「やだな、リメンバーショットがまだ未提出の男が何か言ってるよ」
「……気が向いたらな」
「ウン」
冬馬はふいっと目を逸らして、ひらひらと手を振った。ノリノリで提出するアイドルもいれば、ちょっと恥ずかしいと言ってなかなか見せてくれないアイドルもいるのだが、冬馬は後者らしい。
「そうだ、名前さんも出したらどうだ?かわいいアイドルのお願いなら断れないんだろ?」
「ええ〜いいよそういうのは社長とか賢くんに頼みなよ」
「なんでそっちに行った!あんたのが見たいんだよ!」
「物好きだなあ……」
冬馬はようやくかち合った視線をまたぱっとそらして、何事かモニョモニョと口籠った。
「名前さんのことだから、知りたいんだよ……」
エッどうしよう、うちの天ヶ瀬冬馬があまりに可愛すぎる。エッ……前々から知っていましたが……最近はかっこいい路線強めで売り出しているけど、出会った頃は心の底から可愛いなあと思っていたので、私が可愛い路線を推してそんな路線で売られるのは嫌だと言う冬馬と揉めたのが懐かしい。いやでもやっぱりめちゃくちゃ可愛いな……
「なんとか言えよ……」
恥ずかしいことを言った自覚があるらしく冬馬がじっとりとした視線を私に送る。
「かわいい」
「違う!そういうのが聞きたいんじゃねえよ!」
私はもうあまりの破壊力に脳がやられているので可愛いと繰り返すことしかできない。
「か、かわいいとか言うなよっ……違うだろ、もっと他に……」
私は肺の中の空気全部吐き出すくらいに大きなため息をついた。ああ今年の12月も天ヶ瀬冬馬が可愛い。年末進行に向かって加速するデスマーチのせいで不眠と不調が続いていたが、そんなこと吹き飛ぶくらいのアイドルの魅力。
万感の思いを込めて、「やっぱり冬馬が世界一……かわいい」と呟くと「だからそういうことが聞きたいんじゃねえよ!」とキレのあるツッコミが返ってきた。「そういうことじゃない」と怒られても私が願うのはやっぱり、来年の12月もこうして冬馬のかわいさそして尊さを噛みしめられますように、とそればかりである。冬馬がどれだけプンプンしようと、何と言おうと、私はそればかり祈っている。
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