食べ物夢小説集

>>十龍之介の手料理いろいろ
たくさん食べてね、という言葉の通り龍の作った料理が机の上に所狭しと並べられている。

「すごいね、よくこの短時間でこんなに作れるね……」
「そうかな?今日はふたり分だからいつもよりはかからなかったけど……」
料理がからっきしの私、趣味と実益をかねて料理ができる龍。からっきしということは、あまり興味もないということで……龍の作る料理名もわからないものが結構ある。

「今日のはどれが好き?」
「……これかな」
「なるほど……こっちは?」
「それもすき……」
「これはだめだった?」
「……大丈夫だよ。全部おいしいよ」
嗜好を探られている……。龍には言えていないけどわたしはかなり偏食で、今日だって作ってくれたのものの半分くらいは怖くて手を出せていない。せっかく作ってくれたから食べなくちゃとは思うものの、龍の作る料理は名前のわからない不思議な料理も多くて、自然と箸が遠のき……勧められたものをちょっぴりずつつまむにとどまっている。

名前のわからないものは全部沖縄の料理で馴染みがないのかと思いきや、龍は過去に出演した料理番組でオリ丼なる謎の創作料理を披露して以来改良を重ねていることもあり、一般的じゃないものも含まれていると思う。偏食ゆえに解像度が龍より遥かに低いのは自覚しているからもしかしたら龍の方が一般サイドなのかもしれないけど……

「お、俺怒ってないからね!」
「ごめん……大丈夫、難しい顔しててもかっこいいよ」
「ありがとう、言わせちゃった?」
「ううん。いつも思ってるよ」
「……照れるなあ」
名前ちゃんにかっこいいって言われると嬉しい、と龍がはにかんだ。龍は私に対して、「怒ってないからね!」とよく言う。龍は芸能界にいる人間としてものすごく綺麗な顔をしているけど、たまに見る怒った時や真剣な時の顔は迫力がある。龍は私に怖がられるのが嫌だから、と言ってその辺りを気にしているみたいだけど、龍がどんな顔をしていても結局のところかっこいいと思う。

「名前ちゃんに食べてもらう時、いつも緊張するよ。楽と天はなんでも美味しいって食べるけど……名前ちゃんは難しいから……ごめん、怒ってないよ」
「……ご、ごめん」
「ううん。苦手なゴーヤーも食べてえらいね。そうだ、デザート買ってきたから……」
「待って!?」
「えっ何!?」
私は衝撃のあまり箸を落としかけた。緩んだ指の間でゆっくり箸が回った。ゴーヤが苦手だとバレている!?龍はどうかした?怪我した?と慌てて身を乗り出して私の指の間に引っかかってる箸を取り上げた。私はそれどころではない!

私はとにかく偏食だけど、特に苦い食べ物や辛い食べ物はだめで、龍に出されない限りゴーヤなんて絶対買わないし食べない。栄養があるのはよくわかっている。苦味が体にいいのもわかってる……でも好きじゃないから買わないし食べない。龍はよく料理に取り入れるから、せっかく忙しい中作ってくれたのに悲しい顔をさせたくないし、特に慎重にバレないように、苦手な顔をしないように……そしてなるべく噛まずに飲み込んでいる。飲み込んでも苦いものは苦いので毎回苦心しているのに、龍に悟られないようにという私の努力は全く無駄だったと……

「せっかく作ってくれてるのに、ごめん……」
「あはは、苦手なのわかってて出してるから俺も謝らなくちゃ。ごめんね」
「龍が謝ることじゃないよ……作ってもらってるのにわがまま言う私が悪いよ……」
「俺も名前ちゃんが苦手なのに頑張って食べてくれるからつい調子に乗っちゃって……」
「おかげさまでチャンプルーは食べれるようになったよ……」
「ほんと?作り甲斐があるなあ」
「……」
言わなきゃよかった……食べられるようになったとはいえ、苦手なのには変わりないのに……「名前ちゃん、いつも忙しいってコンビニですませてるから心配なんだよ」と龍が何百回と聞いたお説教をまた持ち出し、私は黙る。いくら忙しいとはいえ、TRIGGERの十龍之介より忙しいわけがないからそれを言われると弱いのだ。

私は箸を返してもらうとゴーヤとツナのサラダに箸をつけた。龍が嬉しそうに見守る中、ゴーヤひときれにツナを出来るだけ多く取って口に入れる。それを見ている龍の顔が「嬉しいなあ!名前ちゃんは苦手なものも、俺の手料理なら食べてくれる!こんな嬉しいことってないよ!」と雄弁に語る。さっきまでの怖い顔が嘘のように、愛嬌のある笑顔だ。

口に押し込んだゴーヤとツナをいつもより長めに噛む。龍が丁寧に処理してくれたのは知っているけど、苦いものは苦い。
「……」
「えらい!デザート冷蔵庫にあるから、ご褒美にあとで食べようね」
「うん……」
龍がいつも買ってくるデザートは、嫌いなものを食べた私へのご褒美だったんだな……と今更ながら知る。

次は何に手をつけるべきか悩む私を見て龍は「名前ちゃん、嫌いなのものも食べられてえらいね。すごいね、頑張ったね」と上機嫌で白米を頬張った。そ、そんなこと言われたら他の苦手なやつも食べないわけにはいかないじゃん……私は渋々キノコとセロリと何かの肉の炒め物に手を伸ばした。

龍が「セロリも頑張れる?えらいね」ともう一度私を褒めて、首を傾げて柔らかく微笑み瞳がとろりととける。ああもう、私はこの顔に弱い……!!


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