大和お兄さんとストロベリーズP

>>コミカライズの運動会の話です。ストロベリーズに同情的かつ捏造がすごいし、大和さんとはすごいギスギスしてる(100%夢主が悪い)(そして夢主の性格もかなり悪い)ので許せる方のみどうぞ……


ストロベリーズに「男性アイドル大集合!運動会」のオファーが来た時、私はこっそりお断りしようとしたのだ。しかし、大変申し訳ありませんが、その日程は……というお断りの言葉を遮って翔平が元気よく「出ます!」と宣言してしまった。今すごく、後悔している。やっぱりあの時その場で、翔平の発言を撤回しておくべきだった。

私がプロデュースしているストロベリーズは愛輝、礼夢、翔平、亘という小学生4人で構成されるジュニアアイドルグループ。あどけないルックスと小学生らしからぬ大人びたトークで人気を博している。幼い頃から芸能界という魔境を生き抜いた自負からか超絶生意気な一面もあるものの、キッズモデルからアイドルに仕立てあげた贔屓目抜きでも魅力的なアイドルだと思う。

ストロベリーズはその幼さを武器にして朝や夕方の子供向け番組とそれに関係する仕事、それから専用のWEB番組を中心に活動している。まだまだ成長途中の身体のこと、児童労働のルール、なにより彼らはまだ「こども」だということ。わざわざ競争の激しい昨今の男性アイドル界隈にそんなハンデをいっぱいつけて飛び込んでいく必要はないという私の判断で、かなり限定されたシーンで活動している。活躍の場は限られるもののその人気は絶大で、一度ライブのチケットを売り出せばホールは即日埋まる。超人気小学生グループなのだ。

彼らは学校が終わったらレッスンや仕事をこなして、20時より前にテレビの前のファンにおやすみを告げる。そして家族の待つ家に帰り、よく食べてよく寝て、次の日の朝には小学校に行く。小くてかわいいこどものアイドルとして、世間に愛されればいい。中学受験を検討しているメンバーもいるし、これから先いつまで芸能人を続けさせるのか悩む保護者もいる。誰かが芸能人としての活動より、それぞれの人生を優先する日が来たらそれで終わり、それまでの期限付きのグループ。

別に活動の期限が短いからって投げやりなわけではない。自我を持つより先に、誰かの意思で芸能人になった子どもたちが、自我を持ったら好きに歩き出す。その日を待っているだけのこと。その日が来たら、おめでとう!とその背を押してあげるのが、キッズアイドルをプロデュースする私の役目。その日が来るまではいっぱいいっぱい甘やかして、楽しい思い出だけ覚えていて欲しい。いつも、そう思っていた。

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「愛輝、謝りに行きたい……」
「オレたちも」
翔平たっての希望で出場したアイドル運動会で、ストロベリーズは惜しくも優勝を逃してしまった。小学生ながら大人に混じって大健闘、優勝したアイドリッシュセブンとは年齢も体格も違いすぎる、よく頑張ったといっぱい褒めてあげたい。しかし4人の浮かない顔を見れば、手放しで賞賛できないのは明らかだった。

「私が謝りにいこうか」
「だめ!自分で、謝らなきゃ……」
私の提案をまたも愛輝は拒んだ。大きな瞳に涙を溜めて首を振る。翔平は既に半泣きだし、いつもお兄さんの亘と礼夢もぎゅっと互いの手を握る。

ストロベリーズは、いくつかの競技でズルをした。

借り物競走ではこっそりメモを入れ換えて、ボール運びと徒競走も。騎馬戦は泣き落としでルールを変更させたし、それらは全部アイドリッシュセブンの妨害のためにやったと本人たちが認めた。昼休憩で私のいない隙に、彼らにちょっかいをかけに行って、諍いを起こしたことがきっかけだという。しかし結果はアイドリッシュセブンの優勝、チビたちのズルなんてものともしないで彼らは正々堂々優勝した。

私が内心頭を抱えているのは、彼らのズルが向こうのマネージャーやリーダーにばれて、4人だけの時に叱られたこと!4人だけの時によその事務所とトラブルを起こした上、本番中に愛輝は落馬し、さらにはよその事務所の人からお叱りを受けた。子供だからと許してくれなかったみたいだから私の責任者の監督不行届きということにして、私が謝りにいこうかという提案は至極真っ当であったと思う。実際現場を離れていたわけだし。しかし愛輝に続いて3人は「プロデューサーにはついてきて欲しいけど、僕たちに謝らせてほしい」と訴える。困った。いつものように私がヘコヘコして丸く収める手法を今日ばかりは許してくれないらしい。

「一生懸命頑張ってるところ、馬鹿にしたんだ……大和さんは悪くないよ!マネージャーさんも……」
「ほんとだよ!オレたちが先にやったんだ。アイドリッシュセブンはオレたちがズルしたから怒っただけ!」
「大和お兄さんのこと、怒らないで!プロちゃん!右手のグーやめて!殴っちゃだめ!喧嘩しないで!」
「愛輝が悪かったの!騎馬戦で落っこちたのも愛輝が自滅した!見たでしょ!?名前ちゃん、お願い……!」
4人がわあわあ泣いて私に縋ったので私は握り拳をなんとかおさめ(かわいい愛輝の耳を弄んだ向こうのメガネ野郎の罪は重い)、アイドリッシュセブンが撤収する前に謝りに行こうと促した。

結局のところ、かわいい4人に私は甘々なのだ。彼らがそれぞれ幼い頃から苦楽を共にしてきたわけだから、かわいくて仕方ない。子供4人が泣き腫らした目で挨拶に行けばさすがの先方も槍を引っ込めるだろうという魂胆もあり、私は「私が先に謝るからみんなは後ろで見ててね」と4人に言い含めた。

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「この度の非礼、まことに申し訳ありません!」
「み、皆さん、頭上げてください……!」
散々謝罪の言葉を並べた最後に勢いよく頭を下げ、その言葉から0.5秒待って顔を上げると、向こうのマネージャーも女だった。なんだ、「若い女が至極申し訳なさそうにしているからちょっとは甘くならんかな作戦」は無駄か……

「あんたがマネージャー?」
「は、はい……ストロベリーズのプロデューサーをしております、苗字名前と申します。あの、この度はまことに申し訳ありません……」
口を挟んだメガネの男の方がヒエラルキー上位と見て私はすぐさまそちらに向き直る。メガネの男は鬱陶しそうに手をひらひら振った。

「いいって、そういうの。こっちは大した怪我もないし、お兄さんも大人気なく本気出したし説教したし……そうだマネージャー、俺ちょっとこの人と話して来るから待ってて」
「大和さん!?」
「すぐ戻るよ。そいつら、置いといて」
「みんな、すぐ戻るからね」
4人が元気なく頷いたのを見て私はメガネの男を追って楽屋を出た。あああ裏でシメられるパターンだったか……不安そうな4人を残してきてしまった、一刻も早く戻らなければ……

「あんたさ、全然思ってもないこと言えるタイプだよな」
「いえ!そんなこと……」
バレてら……私は表情には微塵も出さないように気をつけながらすごく申し訳なさそうな顔をした。
「あーやめろやめろ、見ればわかるって。うちのマネージャーとかは騙されてそうだけど」
「……」
「で、何がご不満なの?ズルして優勝しようとした、ストロベリーズのマネージャーさん。あいつらが突っかかってきたのもあんたの仕業?」
今度こそ私は表情を取り繕うのをやめようかと思った。嫌な男だ。顔は、前から思っていた通り昔の千葉志津雄にそっくりだが、小学生相手にマジになるし中身は随分ひねている。

「ストロベリーズの妨害工作は、認められていました」
「は?」
「体力も体格も明らかに差のある男性アイドル相手に、いくら年齢加点があるとはいえストロベリーズが午前の段階で2位にいたのはおかしいと思わなかったんですか?」
「なんだって?あんた、子どもらのズルを正当化するつもりか?」
「ええ。子供の考えたバレバレのズルを……それこそあなた方のマネージャーに見つかるような稚拙なものすら、スタッフが止めもしなかった。黙認されていたんですよ。ストロベリーズがズルをしようとしまいと結果は変わらなかったでしょうし、参加チームの中で最も人気も実力も兼ね備えたあなた方が優勝したはずです。それはそうとして、他のマイナーで売れていないアイドルが2位をとるのと、小学生アイドルが大健闘して惜しくも2位をとる、どちらが話題性があるかわかります?」
「最っ低だな。芸能界ってやつは、いつも……!」
メガネの男は肩を震わせて怒りを隠そうともしなかった。その怖い顔、メンバーやかわいいマネージャーの前では絶対見せたりしないんだろうな。

「あなたもその芸能界のひとりですよ。それだけ売れてまだ素人のつもりなんですか?小学生のほうがプロ意識ありますよ」
「あんたなあ……!」
「あなた方の努力を笑ったあの子達はあなたに誠心誠意謝った。私もそのことは謝罪しました。でも、それと順位のことは別です。大人が子供に隠れて大きなズルをしているのに、子供が同じことをしたからといって、どんな顔で叱れます?私、あの子達を叱りませんよ。あなたに十分絞られたみたいだし」
「……あんたはどうして、そんなことしても悪びれもしないんだ」

メガネ男が私を睨んだ。二階堂大和、おもしろい男だ。こんなところじゃなかったら、いいなあ、うちの事務所に勧誘しようかなあ、引き抜けないかなあ、うちと相性いいと思うんだけどなあと考えていたと思う。ヘラヘラしたところしか見たことなかったけど、仲間のために奮起した件といい、騎馬戦といい、案外熱い男なのだろうか。

「どうして?私の仕事が、あの子たちのプロデューサーだからですよ。あの子たちが、何も知らないかわいいキッズアイドルのままでいられるように、それが私の仕事です」
「芸能界にいたら、いつまでも知らないままでいれるわけないだろ……!」
「この仕事に将来かけてるあなた方みたいに、あの子たちはいつまでも芸能界にいるわけじゃないので」
びっくりするくらい冷たい声が出た。二階堂大和の視線は変わらず私を刺している。冷たい視線は見覚えがある。思い出した、最近聞く千葉志津雄の隠し子の噂ってこいつか?

「あの子たちは短い活動期間の間にいっぱい働いて、そのあとは普通の人として生きていく未来を考えてる。もしかしたら、芸能界に残る選択をする子もいるかもしれないけど、それはまだわからない。本人がまだ、決められない。それに、あの子たちはまだ子どもだから必ず保護者の意思が介入します。」
「……」
二階堂大和は相変わらずの冷たい表情だけど、多分私のことを見ていなかった。何を見ていたのかは知らない。私を通して何か違うものを見ている。

「キッズアイドルをしてた期間なんて、長い人生の間ではわずかな時間です。でも、一生彼らの経歴について回って、荷物になる。だから、知らなくていい。芸能界?そんなこともあったな。大変だったけど楽しかったな、それでいいんです」
「……それでもいつかは知るよ。まだ芸能界にいる時かもしれないし、もっと大人になってからかもしれないけど」
「それを知られないようにするのが私の仕事です」
あのさ、と二階堂大和がため息をつく。メガネを押し上げて、金具がかちゃんと鳴った。

「知らなかった方が幸せかな」
「今の話聞いて、全部教えてあげた方が良いって思いますか?」
また大きなため息がひとつ。睨みつける視線の鋭さはすでになく、無理に笑った顔はステージに立ちドラマ出演もこなす人気アイドルらしくなかった。

「……羨ましいよ」
「何が」
「そうやって、一生懸命守ってくれる人がいんの」
「当たり前のことです。だって、子どもなんだから」
「それが羨ましいっての」
二階堂大和は悔しそうにそう吐き捨てると踵を返して、先ほどまでの雰囲気が嘘のように「お待たせ。話盛り上がって長くなっちゃった」と楽屋のドアを開けた。

こいつ、絶対演技素人じゃない。無駄に疲れる問答をさせられたが、例の噂の信憑性が高まったことだけが唯一の収穫じゃないだろうか。千葉志津雄の隠し子、マジっぽいですよって、社長に報告しなくちゃ……

私はストロベリーズの4人を安心させるように「お待たせ、今度はいい子にしてられたかな?」と困り6、笑顔4の表情を作って声をかけた。二階堂大和はさっきまでの凶悪な顔をすっかり封印して「何話してたん?」「んー?ちょっとなー」なんてへらへらしている。

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アイドリッシュセブンの楽屋を退出した帰り道、赤い目をした愛輝が私のスーツの裾を引っ張った。
「大和さんと何の話したの?」
「それ聞きたい!」
「うーん……ストロベリーズもっと頑張れ!って話かな」
「本当!いいなあ、僕たちも大和さんとお話したかったのに……」
「また共演できるように頑張る!大和お兄さん、かっこよかったな……ねえプロちゃん、アイドリッシュセブンのコンサートチケットどうにかとれない?」
「うーん……どうだろう」
4人が期待に満ちた目で私を見上げるのでなんと誤魔化すべきが非常に困る。あんなやり取りの後、どういう顔で仕事にしろ、コンサートにしろ引率したらいいんだ。いつも大変お世話になっております〜っていう挨拶が嫌味にしか聞こえないだろ。

「やっぱりさあ……プロちゃんと大和お兄さんが付き合うのがいいんじゃない?」
「ナイナイ……」
「あんなにお話盛り上がってたもんね!ねえ、名前ちゃん、大和さんがほんとのお兄さんになったら、愛輝たち嬉しいな……」
「ナイナイ……それだけはほんとにない……」

期待のジュニアアイドル、ストロベリーズ。芸能界のよくないところなんていっこも知らないまま、その短い期間を綺麗な思い出だけで埋めて駆け抜けてほしい。ジュニアアイドルの看板を下ろした次に、芸能界を去っても、あるいは他の看板で活動したって構わない。私はただ、今君たちが笑顔でいられるように手を尽くすだけ。ただカッコつかないことに、君たちの笑顔のために、二階堂大和と仲良くできるかは別なんだけど……本当にその、期待の目で見るの、やめてほしいんだけど……

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