総獲得数X

バレンタインだ。誰がなんと言おうとバレンタイン。今年の層獲得数は例年の通り翔太と同じく3つ。

朝北斗がくれたのが記念すべきひとつめ(毎年本命をうたって俺たちにくれる)、事務所でプロデューサーがくれたキットカットでふたつ、社長がハッピー・パッション・バレンタイン!という謎の掛け声とともにくれたので3。プロデューサーがくれたのはレッスンの間に食べてしまって、持って帰ってきたのはふたつ。


北斗の誕生日を祝った翌日15日、バレンタインも終わったというのにチョコと生クリームを買った。先月名前さんが「仕事の都合で1日遅れになっちゃうんだけど、おうちでバレンタインデートしようよ」と提案してから、俺は名前さんに何を渡すか考えに考え、いろんな人にさりげなく相談し(そのうち何人かには間違いなくバレている)名前さんの好きなビター系のチョコレートでガトーショコラを作ることにした。レッスンの後慌てて帰ってきたけど時間は結構ギリギリだ。

名前さんがうちに来るまでになんとか完成させてびっくりさせたい。まず袖を捲ってエプロンをつけた。名前さんがいる時は嬉々としてエプロンの紐も袖捲りもやりたがるんだけどな……と思いながら久しぶりに両方自分でやった。俺は名前さんを好きになってから名前さんのことばかり考えている。

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「はい、これバレンタイン!日本初上陸なんだって!」
「サンキュ……てもう開けてんじゃねぇか!」
「見てみて!これがスイート、こっちがビター?これがナントカオレンジかな?あ、ピーカンナッツある。食べます!」
「俺にくれたんじゃなかったのか……?」
「へへへ……冬馬くん、早く食べないとなくなっちゃうぞ」
「ったく……」
名前さんは俺にくれたはずの!チョコレートを自分で開けて、中身をひとつずつ紹介し、俺にくれたはずが!半分くらい自分で食べた。別にいいんだが、ひとつ頬張ってはおいしい!と目を輝かせる名前さんはかわいいし……しかし苦手な味はしっかり避けていて、ずるい。

「冬馬くん、これ、これ食べた?酸っぱいよ!」
「どれだ?これ?」
「こっち」
狭い箱の中で名前さんと指がぶつかって、一瞬息がつまる。一方名前さんは「どうしたの?早く食べてよ」と平然としている。俺ばっかりいつも動揺させられる。いやでも、今は余裕ぶっている名前さんだって、夜になれば余裕なくしたり主導権を明け渡したり渡さなかったりするわけで……

「そうだ、忘れてた!名前さん、まだ甘いもん食えるか?冷蔵庫だし、無理なら明日でも……」
「え!もしかして、冬馬くん作ってくれたの……?」
「べ、別に大したもんじゃねーよ」
嘘だ。この日のために何にするべきかいろんな人に聞いてまわり、最終的なレシピは東雲さんに相談した。動画を見てイメトレを重ね、粉のふるいから焼き加減の細部に至るまで気を配った、渾身のガトーショコラ。名前さんはそんなことも知らずに目をキラキラさせて「う、嬉しい……!」とよろこんだ。

「食べていい?いただきます!」
「待て待て!まだ完成じゃねーから」
慌てて名前さんを押しとどめる。今すぐに食べたい名前さんからのプレッシャーを感じながら仕上げに粉糖を振って、ようやく完成だ。

名前さんの「嬉しい、冬馬くんの手作りがいちばん好き」なんていう甘えた声に動揺して手元が狂った。計画より随分白く、粉糖の山ほどかかったガトーショコラを名前さんはおいしいおいしいと大喜びで食べた。喜んでくれるならなんだっていい。

大はしゃぎの名前さんを横目に、名前さんがくれた箱からホワイトチョコを摘む。名前さんはホワイトチョコが苦手だから、上手に避けて他の味を食べた。傾向としてはミルクよりはビター、柔らかい詰め物のチョコレートはあまり好まない、ピスタチオが好き、柑橘はものによる。名前さんの好みを完璧に把握してから何回目かのバレンタインだった。


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