計画的サプライズの破綻

白州が帰ってこない。

何があったんだろう、白洲に限って約束w破るなんてこと、まさか事故……イライラしながら唐揚げを1つずつ油の海からすくい上げる。かりっと揚がっていて、我ながらおいしそうだ。今日の唐揚げは醤油と生姜のきいた、ノリにも好評なやつ。今日はノリが来てるから、せっかく大量に作ったのに、なのに白州が帰ってこない。

「名前、事故じゃないからね……」
サラダを用意していたノリが苦笑した。高校からマネと選手の付き合いなので散々気が弱いのなんの言われていたノリも私の機嫌の悪さには慣れている。事故じゃないのか、そうか。

「でも、最近白州隠し事してる」
「……白州が?」
大学四年生の私はとっくに就職が決まった。白州と私のお付き合いも6年目でお互いに隠し事なんて無かったはずだった。だから、就職先が決まった時、白州に1番に報告した。なのに、白州は秋になっても進路のことを何にも教えてくれない。

あの、堅実で与えられた仕事も取ってきた仕事も確実にこなす白州が就活に失敗するなんて、考えられないから、黙っていたけどもう限界だ。

「あのね、疑いたくないけど、浮気してるんだと思う……」
いつもは白州と向かい合わせで座るダイニングに今日はノリが座っている。高校時代も、私が大学に入ってノリがプロになってからも、ノリとは愚痴やら悩みやらを吐き出し合う仲だ。だからノリも慣れてると思ったのに、ノリは口に含んだお茶が気管に入ったらしく、盛大に噎せた。

「浮気!?ないない……」
「だってもう、それしか考えられない……」
落ち込みながらもかじった唐揚げは最高に美味しかった。おいしい?と聞くとすっげえおいしい、と返してくれる。白州は?っていつもの流れで聞こうとしてさらに落ち込んだ。何回ケータイを見ても、白州からの返信はない。

今日ご飯作りに行っていい?って連絡したら用事があるから遅くなるって返してきて、落ち込むのをなだめるみたいにノリ呼んどいたから、と続いた。

まさか、私と別れてノリを後釜に据えようなんて魂胆じゃないだろうな。いくらなんでもそれは、私の考えすぎだと思うけど、仕事は完遂する(つまりそれは、あと腐れなくという意味だ)白州だから可能性はゼロじゃない。絶望した。ノリのプロの肩書きに揺らぐような女だと思われてたとしたら、舌噛み切って死ねる。

「ほら、サラダも食べろよ」
密かにショックを受けているとノリが気遣うようにサラダを押しやった。トマト、きゅうり、コーン、ポテトサラダ……見るからにおいしそうだ。

「浮気するような男だと思う?今の状況とかじゃなくて、あの性格考えた時にさ」
「……思わないよ」
「だろ?」
私の返答に満足そうにノリは唐揚げを食べた。高校からの2人の信頼関係、互いを尊重しているのがわかって私も頬を緩めた。

そもそも白州は口数が多い方ではなく、背中で語るタイプ( 物理的にその背中がすごい)だからなと白州がよそよそしくなってから幾度となく考えたことをもう一度言い聞かせる。

「あ、テレビつけていい?」
「どうぞどうぞ。心霊はやめてね」
「わかってるって」
変わんないなと呆れたようにノリが笑ってテレビがつく。

ーーーたった今入ってきたニュースです。今年の大学ドラフトの結果をお伝えしますーーー

ノリには身近な話題だからか、チャンネルを回すことなくノリの手が止まった。

ーーーまずは来年の奮起にきたいがかかるこの球団のインタビューからご覧ください

「えっ」
次の瞬間映った顔に私は握っていた箸を取り落とした。見知った顔だ。いや、よく知っている、これは、緊張しきった白州だ。

言葉少なに、それでいて聞かれたままにしっかりと抱負を述べる姿にぽかんと間抜けにあいた口がふさがらない。落ち着いてますねえなんてキャスターの声に、は脳内で、反論した。羨ましいことに、緊張の伝わりにくいやつなのだ。いつもより力が入って言葉が重たく聞こえるのが証拠だ。

ーーー今日はこの後、どのような予定ですか?
「友人……川上と…家族が、食事を用意してくれているのでまっすぐ帰ります」
ーーー高校ではあの川上選手と競い合う姿が印象的でhしたが、今後はライバルとしての活躍が期待されますね!

真顔でそうのたまって、報道陣とスタジオがどよめく。今度こそ口を閉じて、床に落としてしまった箸を拾う。
「あ、デザート出すね」
そのままシンクに持って行って食べ終わった皿を片付け始めた。

「ほら、言った通りだろ?」
ノリの茶化すような声を聞いて、ようやく事態を受け入れて顔が爆発するほど熱くなった。

「……だって、私……まだプロポーズしてもらえてないもの」
予想以上に拗ねた声で恥ずかしさが倍増する。わかりきったような顔でノリは何も言わない。恥ずかしさが募るだけなので何か言ってほしい。

タイミングよく玄関のベルが鳴って逃げるように廊下に出た。本当に、白州はタイミングが良くて嫌になる。白州はよくできた人だから、いっつも私ばかり恥ずかしい。

ドアを開けると真っ先に花束にぶつかってそれかららしくない、悪い、順番間違えた。なんて言葉。
「いいよ、すっごく緊張してたんでしょう」
テレビはもう違う選手のことを伝えてるけどそんなのはどうだっていいのだ。
緊張しすぎて、どうせ帰宅してからする予定だったプロポーズの言葉なんかがうっかり混ざってしまった感じだ。

「でも、やっぱり直接聞きたいって言ってもいい?」
ややあって花の香りが遠ざかる。
ああ、ノリ、ごめん。今、人生でまたとない、白州のめちゃくちゃ貴重なシーンだからデザートを出すのはもう少しだけ待ってほしい。

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