干しより君を見ていたい、なんて

>>リクエスト版


「お姉ちゃんがまさかハワイで式あげるなんて……」
「羨ましかったら名前もはやくいい人見つけなさい」
「お姉ちゃんこそハワイなんて周りの人が来てくれるだけありがたいと思った方がいいよ」
「いいじゃない、あんたも結局買い物楽しんでるんだから……」
「そうだけど……はい、綺麗にできました」
「ありがとう」

倉持の結婚式、控え室を探してうろうろしていたら聞こえた会話はきっと新婦とその妹だろう。なんでも美容師で今回新婦や母親のヘアセットを引き受けてくれたらしい。すごくいい子なんだって倉持からもお嫁さんからも聞いている。

「じゃあお姉ちゃん、また後でね」
「ヘアセットありがとう」
「ううん……お姉ちゃん、世界一きれいだよ」
「ありがと」

声が途切れて、ドアが開き、青いドレスの女性が出てきた。白いドレスじゃないから妹だろうか。

一瞬見えた横顔に目を奪われ、
「あの、」
「おい、御幸。こっちだこっち」
「倉持、お前な……」
声をかける前に、全貌を確認することさえできずに倉持に遮られた。もう一度振り向いてもすでに彼女の姿はない。ひらりとスカートの裾だけ見えた。あー、もったいないことした。せめて顔だけでも見たかった。

まあ、今日の主役は倉持とそのお嫁さんだからと言い聞かせ当初の目的通り倉持の控え室のドアに手をかけた。今日は倉持の友人代表できているわけなので。


式はとても良かった。教会の大きな窓とそこから見える海はやっぱり晴れの日にふさわしかった。 ハワイなのでそれぞれの身内や友人、倉持の球団の人が少しずつ呼ばれたプロ野球選手にしては小さな式だったが、日本で関係者を呼んだパーティをすることが球団の方で決まってるようだから妥当な規模だろう。


で、式の後挨拶のついでに頼み事をした。
「で、お前はなんでこのタイミングで頭下げてんだ?」
「倉持、目つき悪いよ」
「もうお前も倉持だろ」
「はいはい」
倉持夫妻の惚気は今はいい。

「いや、さっき妹さんに声かけようと思ったら倉持が邪魔するからさ……紹介してもらおっかなーと」
「まあ、いいけどよ……」
「おーい名前!ちょっと来て」
新婦の呼ぶ声にあの青いドレスが翻った。


「名前ちゃん、知ってると思うけど御幸一也。御幸、名前ちゃんあんまり困らすんじゃねーぞ」
「よろしく、名前ちゃん」
「よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げた姿がどうしようもなく可愛い。
思わず緩む口をどうにかしようとしたら倉持に「お前悪い顔してるぞ」なんて言われて笑い出したくなった。やっぱり紹介してもらってよかった。試合のとき並にドキドキしている。
「えっと、連絡先交換してもいい?」
倉持がお前、下手だなと呆れたように言った。俺もそう思う。


帰国してからも連絡を取って食事に誘ったりテーマパークだとか水族館に行った。俺は全くそういうデートと縁のない学生時代だったからなんとなく女の人が好きそうなところに何回か誘って、その後彼女が、美術館とか演奏会の方が好きだってことを知った。

好きでもないところ連れ回して嫌な思いさせちゃったかなって謝ると名前ちゃんは「水族館も遊園地も楽しかったです。それに御幸さんが色々考えて誘ってくれたのが嬉しいです」って笑った。

スポーツ経験もなくて焼けてない肌が俺と並ぶと一層白く見える。あーこうやっていっぱい考えてくれるとこ、好きだなってたまらなくなる。

今日のデートはプラネタリウム。名前ちゃんは星とかにも詳しくて、今回行き先を提案したのも彼女からだった。今度木星が接近するんですよ、なんて嬉しそうだから「俺きっと忘れてるからまた教えて。試合なかったら見にいこう」ってまた次の約束ができる。

もうすぐ上映が始まりますって時に隣の名前ちゃんに素知らぬ顔で声をかける。次会う約束をするみたいに、星の話の続きをするくらい気軽に。

「あのさ、あれだけデートして今更なんだけど、付き合ってくれませんか」
「えっ」
名前ちゃんが薄暗い中でもわかるくらい真っ赤になって固まって思わず忍び笑いする。周りの人の視線も気になるのでなんとか落ち着けた。


上映が始まっても固まったままの名前ちゃんをなだめるみたいに手をつないだ。
偽物の満天の星、都内で練習に明け暮れてきた俺は偽物でもこんなの見るのが初めてで、ワクワクする。
「ねえ、あの星は何?黄色いやつ」
「あ、あれはカペラっていって……」
星の光で明るくて、暗いはずの夜空が青く見える。
結婚式のドレスはやっぱり、俺が初めて見た時みたいな真っ青のドレスがいい。名前ちゃんに言うとびっくりするだろうから、この話はまた次のデートかそれ以降にしよう。

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