我慢しなくていい青と


天井から繊細な作りの灯りが、床には躓きそうな分厚い絨毯。右手にはキラキラした夜景、ひだりにはプライバシーを守る重厚な仕切り、そして正面には国宝級のピッチャー。それから制服の私。頭がおかしくなりそう。


「今日は名前が制服着る最後の日なんでしょ?今日はこのままね」
鳴ちゃんが笑いながらそんなことを言ったから、私は周りのきらびやかな雰囲気に圧倒されながらスカートの皺を引っ張って伸ばした。鳴ちゃんはちゃんとしたジャケットに鮮やかな色のネクタイを合わせていてとってもかっこよかった。すっごく不釣り合い。

そんな非日常の空間で鳴ちゃんは全く違和感なく銀色の重たいフォークとナイフを操って、緊張しきった私をみとめてそれらを下ろした。
「まあ、なんかさっきは勢いで言っちゃったけど」
ジャケットの襟を直し、私としっかり目を合わせる。

「オレとお付き合いしてください。結婚前提で」

……やっぱり、本気だったんだ。さすがにわかっていたけど驚きはあって、私はじっと鳴ちゃんを見つめた。照明を浴びてきらきら光る青い目。

「私でいいなら、是非。よろしくお願いします」
ビシッと背筋を伸ばして堂々と見えるように。今季の優勝投手の恋人、そしていずれはお嫁さんになるのだからだらしないところは見せられない。

鳴ちゃんは本当に嬉しそうに笑って、「うん、よろしくね。これから、ずっとだよ」と言った。

ああ、本当にこの先ずっと鳴ちゃんの隣にいられるんだってようやく実感が湧いて私の視界はぼやけた。ずっと憧れて、大好きだった人の恋人になれるんだって嬉しくてたまらなかった。

「ほら、泣いてないでご飯冷める前に食べなよ。おいしいでしょ」
私にフォークとナイフを握らせる手はやっぱり大きくて肉刺とかタコとかがいっぱいだった。指先だけは丁寧に整えられていて、今私の手を取っているのが鳴ちゃんなのだと知覚させた。

ほら、食べなって。綺麗なソースで縁取られたお肉を切り取ってゆっくり口に運ぶ。鳴ちゃんは黙って私を見ていた。いつもと比べて嘘みたいに静かだった。

「……おいしい」
ぽろっと溢れた最後のひとしずくが白いお皿のふちにぽちゃんと落ちた。それを見てようやく鳴ちゃんはいつもみたいに顔いっぱいで笑った。

「笑ってた方がいいよ、名前は」
今季の優勝投手で、次は残留かメジャーかと騒がれている日本野球界のプリンス。テレビ越しに追いかけるばかりだったその人が、わざわざ私のところまで下りてきて、手を取ってくれる。

だからその期待に応えたくて必死に笑おうとして、きっと泣き笑いみたいになっている。
「そう、オレのために笑って」
車に乗せてからずっとどこか緊張して張り詰めた雰囲気を醸し出していた鳴ちゃんはようやく力の抜けた笑顔を見せた。私、鳴ちゃんの安らげる場所になりたい。そう言ったらきっと鳴ちゃんは「またお前は生意気言って……」って笑うけど私、本気でそう思ってるよ。


*前次#

TOP