青いきざし
以前乗っていたよりも1本早い電車を待つ。もうすぐ、と時計を見て列に並ぶ。もうすぐ、名前も知らない、学校もわからない彼女が同じ電車を待つ。
以前1本早い電車に乗ってから一方的に顔を覚えた。毎日電車に乗るわけじゃ無いけど、いつも火曜は英文法、木曜は古典、金曜は英単語帳を熱心に読む。音もなく口だけで文章を読み、英単語を唱える様子をいつしか目で追うようになった。たまにしか学校には行かなくてもその日はわざわざ早めに家を出て、電車に乗る。向こうはどうせ単語帳に夢中で天ヶ瀬冬馬が同じ電車に乗ってることも気づいていない。
すぐに電車が来て、さりげなく後ろを振り返る。見覚えのあるブレザーとネクタイはいなくて、寝坊か?と思いながら電車に乗る列に続いた。神奈川よりも東京の方が交通が楽とはいえ電車は普通に混む。列の後ろにいたからかうまくドアよりに立てそうだなとため息をつく。
「あ」
パタパタという足音と共に見覚えのある学生が目の前に飛びこんできた。やっちゃった、と小さく呟いたのが聞こえる。初めて声を聞いた、と思った。
駆け込み乗車は危険ですのでご遠慮ください……のアナウンスに申し訳なさそうな顔をしてそいつが顔を上げ、俺たちは顔を合わせて呆然とした。
俺の方は、いつも勝手に目で追っていたやつと突然対面したことに気持ちが追いつかなくて。向こうはきっと、俺が誰か気づいて驚いた。「あ」の形で口が固まっているのはその後に何を続けようとしたのか。慌てて黙れとジェスチャーをした俺の顔を見て、必死に頷く。走ってきたからかハーフアップにした横髪が少しほつれている。
「あの、は、はじめまして……?」
握手会や接触系イベントでたまに見る、混乱しきった女子の顔をしていた。目の前の現実に冬馬くんがいるのが信じられなくて、と言っていたのと同じ顔。
「……はじめまして」
とりあえず笑いをこらえて同じ言葉を返すと今度こそ硬直してしまう。ああ、これが。北斗が俺たちや女子をかわいいと笑う気持ちが今やっと少しだけわかった気がした。
リクエスト/冬馬と年齢の近い子
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