知らない知らない知らない

「あれれ、サイコーのプロちゃ〜ん!!」
「あらアンタ、元気にしてた?」
「苗字さんこんにちは」
か、かわいい ー!!!!!!!こういう仕事をしているとよその女の子とも親しくなる。茜ちゃんや伊織ちゃん、幸子ちゃんなんかは特によく親しくしてくれていて、言ってしまえば私のモロタイプなのだった。かわいい、自信のある女の子はとってもかわいい。可憐ちゃんや雪歩ちゃんみたいに自信のない子も大好物ですが。

「プロちゃん、見てみて!茜ちゃんの今日の衣装!めちゃくちゃかわいくなーい?」
「アンタちょっと顔色が悪いわよ?ちゃんと寝てるの?別に伊織ちゃんはアンタのことが心配とかじゃなくて、もう!ニヤニヤしてないでしっかりしなさいよ!」
「名前さん、ボクのお膝を貸してあげてもいいですよ〜?トクベツに」
最高!!!!もう最高!!!!!かわいい女の子たちが私を取り囲みわちゃわちゃしているこの状況はもはやクリスマスプレゼントだと思う。この度、ローティーン向け雑誌の創刊が決まり、ローティーンに人気のカリスマアイドルたちが表紙を飾り、巻頭インタビューが組まれるために各所から人気アイドルが呼び寄せられたのだがあまりにもこの状況は最高である。みんな可愛いよ。茜ちゃんなんかプロちゃんのお膝あったかーい!ってゴロゴロしだすし伊織ちゃんは無理しちゃダメよ?とツンデレのデレ、幸子ちゃんはくっついて座るとあったかいんですよなんて言って体をピトッとくっつけた。楽園!!!!!

別に、今の事務所に不満があるとかじゃないのだ。お兄さんから小さい男の子まで、それぞれをそれぞれの道に沿うようにプロデュースする今の事務所の方針はむしろ好きだし合っていると思う。うちにも女装アイドルやカワイイアイドルも所属しているけど自社のアイドルとよそのアイドルは別物。別腹だからたまに会うとこんなにも愛しい……

「幸子!また315プロさんのところか!すみません」
「茜!伊織!またいなくなったと思ったら……」
「迎えに来るのが遅いアンタが悪いのよ」
「そうだよプロちゃん!茜ちゃん待ちくたびれちゃった」
「プロデューサーさん探してくれたんです?待ってましたよ!」
それぞれのプロデューサーさんが迎えに来るとさん人の表情がぱあっと華やぐ。やっぱり勝てないなあと苦笑しつつもそういうものだとわかっているので大人しく幸子ちゃんに寄っかかっていた体を戻す。プロデューサーの2人から毎度すみませんと頭を下げられ私はいえいえお気になさらずーと微笑みながらもかわいこちゃんたちとの別れに涙を飲むのであった。さらば、冬のふわふわコーデアイドルちゃんたち……

「で、僕のプロデューサーさんは迎えにきてくれないわけ?」
「……!」
いちゃいちゃの余韻に浸る間も無く背後から響く、めちゃくちゃ不機嫌そうな声に恐る恐る振り向く。油の切れた旧式アンドロイドみたいな動きをしていたことだろう。そういえば、女の子にうつつを抜かして、弊社から呼ばれたローティーンに人気のカリスマアイドルのことを忘れていた。

「この僕をほっといて浮気?さすが凄腕のプロデューサーさんは違うねー」
「翔太!浮気だなんて!!っていうか衣装かわいいね!」
「他所の現役の女の子アイドルと比べたら僕は?僕の可愛さなんて?見飽きてる?ってとこだよねー。はーさすがにプロデューサーさんのシュミはわかってるつもりだったけど、心の底から呆れた」
めちゃくちゃ冷めた目で翔太が地面に這いつくばる私を見下ろして、腕を組む。太めの毛糸で編んだ黒いニットに赤いコートを肩から落として羽織っている。めちゃくちゃいい。ヘアピンでアレンジした髪型もいい。めちゃくちゃい。ショート丈のブーツのつま先をコツンコツンと地面に打ちつけながら翔太はため息を吐く。久しぶりの女の子に舞い上がって担当アイドルのことをすっかり忘れていた。プロデューサー失格である。

「翔太、ほんとにごめん……久しぶりの女の子だったのでつい……」
「つい?担当アイドルの僕のことを忘れてちやほやされてたの?」
「う……ほんとにごめん」
「プロデューサーさんわかってる?浮気だよ?プロデューサーさんは浮気してごめんですますつもりなの?プロデューサーさんは僕のかわいさとカリスマ性と将来性まで見込んでスカウトしたんじゃなかったの?ねえ?」
翔太がいらいらと私の目前でつま先を鳴らし私はただひたすら小さくなるばかり。通り過ぎるスタッフさんからは担当アイドルの尻に敷かれるプロデューサーだと思われてるに違いない。翔太も普段の猫かぶりがもろにはげているけどそんなことは気にもとめずに私の不貞を咎めるのだった。

「本当にごめん!他の子見ててごめん!!世界一かわいくてダンスが上手くて強くて優しくてかわいい担当アイドルから目をそらして本当にごめん!!以後!気をつけるからー!!他所なんて行かないで……」
謝ってるうちに何を言えばいいのかわからなくなって、ついに見捨てられて他所に移籍なんてこともありうると想像してさめざめと泣くも、翔太は無言だった。これは、本当に機嫌を損ねたかもしれない。
「……誰も、事務所出てくなんて言ってないよ」
「う」
「移籍って言っても冬馬くんと北斗くんはどうするの。僕がいないとどっちみち2人はダメなのわかってるでしょ?僕が2人も連れて出てくと思ったの?ちゃんとそこまで考えた?」
「うう……」
「馬鹿なプロデューサーさん。鼻水垂らして泣くくらいなら余所見なんてしなければいいんだよ」
恐る恐る視線を上げると翔太はめちゃくちゃ呆れた顔をして私の目前にしゃがみ込んでいた。

「僕がそんなくらいでいなくなっちゃうような薄情者だと思った?」
「ううう〜〜!!翔太あ〜〜!!」
翔太ははあとため息をついてこれに懲りたら余所見はやめてよと釘をさす。
「1番かわいくてかっこよくてプロデューサーさん想いなアイドルは僕なんだからね?もう二度忘れたなんて言わせないよ」
いい?わかった?と言い聞かせる翔太の微笑が、あまりに14歳のただの子供からはかけ離れていてすぐに頷けなかった。ただ、すぐさま「わかった?」と圧をかけられたので頷く羽目になった。

それを見た翔太が満足そうに立ち上がってお尻の埃を払い、さっさと移動してしまうので慌てて追いかける。冷たい床にしゃがみ込んでいたので3歩でよろけて、翔太にちょっと!前見て歩いて!?と怒られてしまった。怒った翔太の顔はかわいいなあ、それでも手を引いてくれる翔太の手に縋って私はよろよろと歩き始めた。


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