詰め合わせ
(書きたいところだけ書こうキャンペーンとキャラクター人称練習)
お勉強/九十九一希
パタン、と小さな音を立てて図鑑を閉じるとその音に気づいた一希くんが顔を上げた。
「むり、わかんないってことがわかった」
「どこまで読んだ?」
「カエンタケは触るのもダメってこととベニテングタケのポツポツは雨で流れてタマゴタケと見間違えやすいから気をつけることはわかった」
「……素人には鑑定が難しい。自然に生えてるものは写真と必ずしも一致するとは限らないから」
「絶対見つけたら思い込みで写真と同じ!って解釈しそう……縦に裂けたらセーフだと思ってたし……一希くん、名前が毒キノコとろうとしたら止めてね」
「大丈夫だ、全身全霊で止める」
一希くんがしっかりと頷いて私の手元の図鑑に視線を落とす。あーあ、せっかく目があったのにまた逸れた。
ブルーバイユーレストランにて/握野英雄
思いのほか手元が暗くて2人でこぼしそうで怖いと笑いあった。おしゃれなランプがテーブルであたたかく光る。平日の昼過ぎ、奇跡的に店内は空いていて水辺にほど近い私たちの周りの席はすっからかんだった。
重たいフォークとナイフで肉を切って野菜と一緒に突き刺す。2つの皿からかちゃんと皿とぶつかる音がした。向かいではランプの光に照らされた英雄が苦笑いしている。
「奇跡的に空いてるね」
「よかったな」
「うん。しばらく一緒に来てなかったからなんか変な感じ」
英雄がアイドルになってからというもの目立つデートはほとんどしなくなって、20歳の時から続いていた1年に一度クリスマスの時期の来園もたったの3回で途切れた。
水辺をゆっくりと船が進み、私はそれに視線を奪われるも英雄はずっと私の顔を見ている。なんとなく”今日”かなという予感はあった。
この後シンデレラ城の前とは行かずとも井戸のあたりとかでプロポーズかな。それともわたしが好きなマークトゥエイン号か、行きに綺麗だって写真を撮ったツリーの前かな。シンデレラ城のホールは人が多いからないかな。夜景が綺麗なところだといいな。
「なあ、名前」
「うん?」
英雄の手はいつのまにかナイフとフォークから離れて不自然にテーブルの下で揃えられていた。ランプに照らされていてもわかるくらい頬が赤い。眉がぎゅっと顰められて、最近あまり見なくなったはずの怖い顔をしている。
「結婚しよう」
何も口に入れてなくてよかった。思ってたよりタイミングが早いし、心の準備ができてないし、完全に想定してなかったシチュエーションだ。変装用に買ったミッキーのサングラスをTシャツに引っ掛けている英雄は真面目な顔をして私の返事を待っている。
キスミースイート/黒田官兵衛(BSR)
「嫌ぞ。如何して私が其方のような輩と褥を共にせねばならんというのだ」
「なっ……」
何を言う、と言おうとするもあまりの驚きで音を失った。褥の上、白小袖を綺麗に着せられた少女は、婚姻を終えて、床入りを前に堂々とそれを断ってきた。ふんと鼻を鳴らすおまけ付きには唖然として流石の小生も開いた口が塞がらん。
この娘は、いやこの小娘は、今日小生に嫁いできたんじゃなかったのか!輿入れの時にはツンと尖らせた唇も伏した眼も緊張ゆえのもので可愛らしいものだと思ったが、今やどちらも不満を表現しているに他ならない。
「お前さん、苗字の娘はお床入りを逃げ出したと噂が立つぞ」
「御前が口外せねば噂もたたぬ。あの黒田官兵衛ともあろうものが床入りを拒まれたなどと噂がたてばさぞ愉快であろうな」
「くーっ!いい加減にしろ!」
「嫌と申しておる。嫌なものは嫌ぞ。私は寝るから御前はそこらで適当にせよ」
言うだけ言って名前は大きな褥に身を落とした。ただでさえ体の大きい男に加えてもう1人入ると言うのだから、それなりに大きなものが敷かれている。名前は背を向けて一番端っこに横たわった。てっきり、わがまま姫らしくど真ん中に寝て小生を外に追いやるのかと思っていたがそこまで意地の悪いことはしないらしい。毒吐きと釣れない態度に反し、やることは案外普通の姫君だなと拍子抜けした。いかん、悪鬼跋扈の豊臣軍のせいで感覚がおかしくなっている。
「……小生の嫁が嫌なら断ればよかっただろう」
「馬鹿め。いくら小官の奥が嫌であろうと私が断ればとと様、ひいては御前の主君の顔に泥を塗ることになるだろう」
「そうは言ってもだな……そんなに嫌がるなら、」
ぼやきながら広く空いた褥に身を落とすと、背を向けた名前のことがよく見えた。白小袖の胸元を握りしめ、まつげの先には雫がいくつもの玉をなしているのを見て言葉を失う。
「……そんなに嫌ならそれらしい理由をつけて家に返してやってもいいんだがな」
「帰らぬ!あれはもう家ではない。にい様もそう言うた」
「そうか」
肩を震わす名前を見るに気の強さには多分に虚勢も含まれていて、年は小生より遥かに若い、ただの子娘だった。軍略が何を成し、何を殺すものか知らない子娘。大方、夫君はあの半兵衛と並ぶ豊臣の知略冴え渡る軍師ですよなどと乳母どもからは聞かされ、あの麗人に勝るとも劣らぬ男が夫になるのだと期待に胸ふくらませていたのだろう……悪かったな、現れた夫が”こんなの”でと脳裏に浮かぶ仮面の男を追いやった。
「子はすぐでなくとも構わんだろうよ。お前さんの気持ちも考えずに悪かったな」
「煩い!熊がなんぞ言うても聞かぬわ!」
「なっ……!」
熊か。言うに及んで熊……小生は衝撃にうち震え、体を縮こまらせて褥に転がった。すると名前の方もころんと寝返りを打って視線がぶつかる。
「明日には侍女を家に帰す。御前が適当に幾人か見繕ってくれ」
「はあ!?」
「ありもせぬ内通を疑われてはかなわぬ。御前は目が良いのだろう。適当に選べ」
名前は静かに頼むゆえと言葉を重ねた。互いに国主姫君ではないからそこまでするつもりはないと言おうとして、思いとどまった。僅かな時間で見せる顔をころころと変える若妻に小生はまたしても続く言葉を失い、わかったと返すことしかできない。玉をなした雫が重さに耐えかねてついに滴り、小生は黙ってそれを拭った。名前が痛い、と顔をしかめてそれでも拭ってやった。
「冷えるな」
「そう思うなら妻を娶る前に室を整えるべきであったな」
毒を吐くわりに身を寄せても怒らず、挙句黙って目を閉じた。これには流石に閉口し、これまでの算段を改め直さねばなるまいと頭の中で策を巡らす。幸いにも一国の主ほど世継ぎを急かされる身ではなかった。
「ぬくい」
「そりゃあよかったな」
「改める、暑苦しくてかなわん」
「なんとでも言うがいいさ」
「……ふん」
今度こそ名前は黙って寝る体制になった。今から何年前か、名前が嫁入りした日の夜だった。
夜明けまであと/黒野玄武
(VD2018の信マ台詞の話)
「長かったね」
言おう、言おうと暖めていた俺の言葉に番長さんは喜ぶかと思っていた。しかし現実のその人は口をへの字にして長かったねとそれだけ言った。その表情に俺が答えにたどり着くのが遅すぎたのか、と呆然とした。喜んで褒めてくれると思った。俺は、この人に恩を返して、俺の成長を喜んで欲しかったのに。
「えっなんで泣くのぉ」
堪らずこぼれたそれに番長さんはギョッとしておろおろとハンカチを出して背伸びをしても届かない俺の顔にそれを押し付けようとした。身を屈めて眼鏡をずらし柔らかなハンカチを押し当てた。彼女の好む柔軟剤の匂いがした。言葉に詰まりながら気持ちを端から端まで全て説明すれば余計に慌てて背中をさすられる。不意に衣装のリボンがだらりと垂れ、番長さんは器用にそれを結び直した。朱雀の方が手先は器用でこういう作業に俺はあまり向いてねぇ。今日はすでに一度解けて番長さんに結び直してもらったばかりだった。
「そっか、勘違いさせちゃったね。おめでとうって言いたかったの」
「そんな、祝われるような大層なことじゃない」
「ううん、朱雀くんや事務所の皆が大事にしてくれて、やっと玄武くんが大事にされてるって自分で気付いてくれたんだよ。玄武くんの幸せの閾値はきっとものすごく大きくて、今やっとそれを超えたんだね。今までに優しくしてもらったのが気づけるくらいいっぱい溜まったんだよ。長かったね、大変だったでしょう」
俺の様子に慌てた番長さんも一から十まで全部口にした。だからおめでとう、と続けて番長さんは俺の背中を叩く。
「なら、なおさら俺の力じゃない。朱雀や、番長さんや、周りのお陰で」
「そうだね。朱雀くんは中学の時からだから最大功労者かも。でも自分でそうだって気づけてひとつ大人になったんだよ。ふふ、めちゃくちゃお祝いしたい気分。寿司?やっぱりお赤飯かな」
「……全く敵わねぇな番長さんには……」
みっともなく泣いたせいで目元が赤くなっている。番長さんは、にこっと笑ったきりお赤飯と寿司なら寿司がいいよねえと振り向かないまま俺の二歩先を歩いていく。
一発逆転スワン/伊集院北斗
「どうです?」
「いや、なんていうか、その……よくお似合いですね」
「そうですか?あなたにそう言ってもらえたならよかった」
黒いスーツは重たい生地で大きなダイヤモンドの袖ボタン、光沢のある紫色のシャツ、同じく光沢のあるベスト、黒いネクタイは銀の豪華な刺繍が大胆に施され、さっとあげた左腕からは豪華な石のはめ込まれた派手なセルペンティが覗き、五本の指全てに精巧にカットされた大粒の石があしらわれた指輪をしている。チラリと覗くベルトもゴテゴテしていて動くたびにが光を放つ。
「右手も指輪されてるんですよね?」
「ええ、メリケンサックのかわりですから……戦闘力はばっちりですよ」
北斗さんはにこっと笑って右手を握り軽く前に突き出す仕草をして見せた。スタジオのライトできらきら光るだろう。私は思わず感嘆のため息をもらした。
北斗さんのこの派手すぎる格好は私服でもなんでもなく、映画のための衣装だ。主人公の敵となるラグジュアリーインテリヤクザの役でオファーを受け、数ヶ月かけてボクシングやらストリートファイトを丁寧に学び、脱いだらまじやばいと事務所で密かに噂されるレベルに仕上げてきた。仕上がったカラダは撮影で惜しみなく披露され先日の悪巧みシーンの撮影では真っ白なバスローブをはだけさせた姿が世界一ハマっていたし今日の全身ブルガリで固めた姿はまた威圧感がすごい。この後千切っては投げ、殴り飛ばす、アクションシーンが待っている。動きにくそうなスーツでのアクションは気がすすまないかと思いきやカメラテストはばっちりだった。
「緊張してますか?」
「いえ、それほど……練習なら満足に積ませてもらいましたし、相手もプロの方だそうですから」
「……落ち着かせてるところでした?」
からかうのはやめてくださいと北斗さんが眉を寄せてため息を吐く。革張りのソファに長い脚を組んで腰掛け、膝の上で手を組みはあと重たいため息をこぼした。
「大丈夫ですよ、すっごく悪そうに見えます」
「そうだといいんですが」
指先でばら撒かれた宝石を拾っては確かめて元に戻す、暇つぶしの仕草さえはまっている。いけますって、中身のない私の励ましに北斗さんは視線だけ寄越して、何を根拠にと呆れてみせた。北斗さんの袖から覗くセルペンティが怪しく光っている。
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