天翔学園夏の大祭のお仕事

>>三毛&千熊の場合(考古学部に対する夢主のあたりがちょっと強い)

「名前ちゃん!匿ってえ」
「千熊!もうちょっとそこ詰めろ!」
「ええーこれ以上は無理だよ。僕のスカート幅とってるし」
「くそ、毎度のことながらこれのせいで隠れづらい」
「ちょっと2人ともなんて格好してるの?もう今年のハロウィンイベントの準備?」
「前に学園祭で着せられたやつだよ。演劇の」
「ああ、そんなこともあったような……」

人の少ない社会準備室で自習していたところにバタバタと姫と王子が駆け込んで来た。姫、丸目千熊。高校3年生合気道部・考古学部所属、身長180センチ、現在場所をやたらと取るピンクのドレス。王子、円城寺三毛。高校2年生サッカー部・考古学部所属。身長170センチ、頭に乗せられたクラウンのせいで隠れづらそうにしている。

こいつらは音楽祭だの依頼だのでしょっちゅうコスプレみたいなことをしてるから今回もそうだと思って呆れながら少し机を退けてやった。今更演劇の衣装を出してきて学園祭の再演だかはたまた王子と姫コンセプトの曲でも歌うのだろうか。前に鑑香と臼杵先生も姫とナンタラみたいなコンセプトでデュエットしていたけどその時は流石にコスプレはしてなかったな……臼杵先生はともかく鑑香ならプリンセスもいけたんじゃなかろうか。

「デュエット?」
「ううん、今日は依頼。ポイント稼ぎだよ」
「最近あんまり活動してなかったからな。たまには稼がねえと」
「2人とも部活掛け持ちなのによくやるね」
「サッカー部は区内に強豪も多いから、考古学部でも部活動ポイント貯めとかないとめんどくさいんだよ」
「僕はまあ、考古学部なくなると困るしね」
「ゲーム堂々とできる場所が無くなるから?」
「うん」
丸目はしゃがみこんだまま両の手のひらに顎を乗せるぶりっこポーズで私を見上げてきて(普通に可愛いのでイラッとした)円城寺は体育座りを崩してパタパタと襟元を仰ぐ。ああ、円城寺は暑いの苦手だっけ。

「で、ポイントのためにすすんでコスプレしてるのになんで逃げてきたの」
「写真部だけって話だったのにどんどんギャラリーが出来ちゃってたんだよねえ」
「休憩っていうから外に出たらめちゃくちゃ囲まれて血眼で迫られたところで千熊がグロッキーになりやがった」
「そういえば丸目、女の子は2次元に限るんだっけ」
「名前ちゃん、言い方に悪意ない?」
半目で私を見上げる丸目のことは無視して暑さにやられた猫みたいな顔をしてる円城寺にお茶飲む?って聞いたら飲むというので冷蔵庫を開けた。こういう時、過去に喫煙不可ゾーンでこっそりと隠れて喫煙していたことをネタにして臼杵先生にこの社会準備室の使用権を強請った甲斐があったというものだ。2人分麦茶を注いでお高いチョコ(これは鑑香が貰い物だと分けてくれたやつ)を出すと2人はやっと一息つけると笑顔を見せた。2人とも顔も良くて性格もいいから(円城寺は超絶猫被りだけど)こういう依頼が来るのも頷ける。

「これ、写真撮って何になるの」
「ブロマイド」
「ぶふっ!1枚ずつ買うわ。そんでこれからネタにするわ」
「これ2000円で1枚もらえる購入者特典だよ。全5種ランダム」
「な……なるほどね?」


>>燎(と歌唱部)の場合
「へえ、燎が歌唱部代表で依頼をねえ……」
「冬に水月先輩と依頼を受けたので今度は燎さんの番だったんですよ」
「かわいいネコちゃんと触れ合えて俺様は大満足だったけどな!」
ああ、去年の袴を着た陽太はかっこよかったなあと思い返した。鑑香は……いつも通りだったな。いつも通り腹がたつくらいきまっていた。思い返す私をよそに颯馬がフフン!と鑑香の持ち込んだ高級ソファにふんぞり返る燎をちらりと見て、その出来上がりは、これなんですけどね……私に厚めの紙を一枚握らせた。こっそり覗くとネコと戯れている時のデレデレの顔をしていた。愛しのネコちゃんとお揃いの猫耳までつけている。

「え!本人知ってるのこれ」
「さあ……」
颯馬はどっちに転んでも自分には関係ないとばかりに肩をすくめた。私や鑑香に対してはそれなりに慕ってくれる颯馬も燎とは相性はイマイチ(私的には相当いいコンビだと思うけど)らしく態度が雑だ。

「燎も丸くなったよねえ……」
「ああ?俺様がいつ荒れてたっていうんだよ」
「転がってきた野球部のボールを拾いもせず威嚇していたくせに何を言っているんだか」
「颯馬ぁ、やる気か!?」
「フン、馬鹿のいうことに付き合ってる暇などないな」
「颯馬も!燎さんも!喧嘩はやめてくださーい!」
ストップストップ!と陽太が2人を仲裁して2人して「陽太が言うなら……」みたいな顔をして黙った。どうやら最初は鑑香の暇つぶしでメンバーを集めた歌唱部も陽太のお陰でいい感じにまとまってるらしい。その鑑香ときたら、部長用のでかい机でパソコンを開いてこっちのやりとりを微笑ましそうな顔で見ている。見てるなら陽太にやらせないで助ければいいのに。

「でも本当にすごいことだよ。私、2年の時燎のこと名前で呼ぶとかこうやって話せるようになるなんて思ってもいなかったもん」
「そうかあ?変わってねえと思うけどな」
「燎さんそんなに怖かったんですか」
陽太が声を潜めて私に聞くので、私は何気なく置かれているデジタルフォトフレームを手に取った。歌唱部発足時の仏頂面、白い子猫を拾った時、颯馬と喧嘩しているところ、歌唱コンテストで颯馬とパンダの被り物をしているところ、修学旅行で動物園を堪能しているところ、部室で聞いたから選んだとか言うラブソングを練習してるところ、それから陽太と颯馬と3人で歌唱コンテストに出た時の写真と色々見ても表情が柔らかく変化しているのは間違い無いと思う。最初は鑑香や颯馬や私が撮った部活動報告用写真ばかりだけど、陽太が入って記念写真も増え、勝手にカメラを乗っ取ったのであろう東本の撮った歌唱ブースで歌う写真なんかも入っている。こうして時系列で見るとなんだか思い出深くさえある。

「いい写真だよ、颯馬も陽太もそう思うでしょ」
「はい!」
陽太はにこにこして頷き、颯馬は心底ありえないと言う顔で私を見た。

「さて、お喋りはそれくらいにしてミーティングを始めようか」
「はい、水月先輩」
「桂士先輩は参加されないんですか?」
「桂士、どう?」
鑑香が時計を見て席を立ちソファに座り、颯馬が議事記録用の電子パッドを起動し、陽太がここにはいない幽霊部員(ただ、最近は可愛い後輩に追いかけ回されて絆されがちである)を気遣った。鑑香は心底嬉しそうにパソコンに尋ね(どうせ最初っから音声通話を繋いでいるのだ)くぐもった「……仕方ないなあ」の声がした。日頃可愛い後輩たちの熱烈な桂士先輩に会いたいコールもあってか桂士の声も穏やかだ。

「燎、始めて平気かな」
「おう、好きにやってくれ」
鑑香は燎の投げやりにも思える返事にも嬉しそうに笑って「それじゃあ、歌唱部も全員揃ったことだしミーティングを始めようか」と宣言した。


>>一兎とぎんの場合
「あ!名前先輩だー!!」
「おーい先輩!」
「わっどうしたの一兎はまたイースターバニーだし……?くん、ここはプールじゃないよ……?水着で廊下はまずくない?」
「大丈夫!バスタオルあるし!」
「そういう問題じゃないんだなあ〜」
1年生の珍しい組み合わせだ。一兎は水泳部だし、ぎんくんは帰宅部。服装の取り合わせも着衣と脱衣だし。

「今日1年生、何かあったっけ」
「ううん!二人で撮影だよ。 鷹翌がポイント稼いでこいって」
「ああ、依頼か……」
毎期末に部活動ポイントに悩む同級生の姿が思い浮かんだ。一兎!頼む!水泳部を救うと思ってこの依頼を受けてくれ!と土下座の勢いで頼む清洲と呆れ顔の花隈の姿は容易に想像できた。清洲だって実力はあるんだから大会に出て水泳部らしいポイントの稼ぎ方をすればいいのに。なかなかそうはいかないらしい。

「ぎんくんは?」
「頼まれたから受けてみた!ファストフードのクーポン山ほど貰ったし」
「うーん清々しい」
先輩も今度一緒に行こう、ポテト食おうぜとぎんくんが誘ってくれたので今度ねと躱しておいた。ぎんくんとだとあの目つきの鋭い子となんだか不思議な怖さのある子が付いてきそうなのでちょっとご遠慮願いたい。話せば2人ともきっといい子なんだろうけど。

「ねえ先輩、もう撮影も終わるからそうしたら一緒に帰ろう?」
にこにこと一兎が私の腕に絡みついて可愛いおねだりをした。177センチながら顔がかわいい年上キラーの純粋なパワーで私は若干よろめいた。この顔で数々のおねえさんを陥落させてきたと言う噂は本当らしい。
「アイス食べたいな。ね、先輩アイス食べて帰ろう?」
「オレもアイス食べたい!」
ぎんくんも目をキラキラさせて言うので私はちょっとお財布の中身を思い返していいよと言った。撮影を頑張っただろうし、ご褒美にアイスの1つくらい奢ってあげよう。ただしコンビニアイスで頼む。

「先輩は何食べる?半分こしよう?」
「ねーねー先輩1人いくらまで?どこのコンビニ?」
「わかったわかった!とりあえずその服着替えておいで!うさ耳と半裸のままだと連れてけないから!」
「はーい」
アイス!アイス!と2人はスキップしながら廊下を進む。 私もなんだかんだでかわいい後輩とアイスを食べるのは楽しみなので足取りは軽い。それにしても謎の撮影衣装だなあ。


>> 鷹翌竜之介羚の場合
「名前ちゃーん!」
とどこからか呼ばれたのできょろきょろと辺りを見回した。見なくてもわかる、あの声は清洲に違いない。
「上!上だよ!うっえっ!」
「ああ……って3人ともどうしたの。かっこいいね」
「フーッ!聞いたか竜之介!俺!かっこいいってよお!」
「そんなに騒がなくても聞こえてるよ」
「うるさい、静かにしろ」

上の階のベランダになぜだか浴衣を着た同級生3人がいて私を見下ろしていた。うるさいのが清洲、いつものようになだめる花隈、あきれ顔の一乗谷という水泳部組はさておきそこに一乗谷が?という謎メンだ。まあ、一乗谷と花隈はクラスメイトだし、これに麻布を加えたメンバーで今年の修学旅行は回ったらしいから本人たちからしたら私が思うほど謎メンではないのかもしれない。

「浴衣着てどうしたの?お祭りにでも行くの」
「撮影だよ!俺も学園屈指のイケメンだからなあ!選ばれちまって困るな〜フフ」
「ねえ花隈、清洲全然困ってるように見えないんだけど」
「 鷹翌、これでモテるようになるんじゃないかって思ってるんだよ」
「日頃の行いからして到底無理だろうにな」
「うっうるせー!俺だって好きで彼女ナシなわけじゃないんだよ!」
清洲が地団駄を踏んで一乗谷がため息をついた。美人のため息だから絵になる。清洲だって別に本人が思ってるほどモテないわけじゃなくて、後輩の女の子とかは頼りになって男らしい清洲先輩にちょっと憧れてる子もいるんだけどいかんせん普段の相手を選ばないナンパ行為が軽率だとかチャラいイメージを与えてしまってるのがよくないのだと思う。女の子にモテないわけじゃないのだ、彼女はできないけど。どちらかといえば男にモテがちだけど。花隈も一乗谷もそれをわかっててからかっている節があるからな。

「でもこの男らしくてイケイケな俺をみたら!彼女の1人や2人や3人くらいは……」
「清洲、そこまでしてモテたいの?」
「モテたいに決まってるだろっ!!名前ちゃんが彼女になってくれるっていうなら俺は全然?全然問題ないけど?プールに夏祭りにカラオケ?どこでもいいぜ」
「モテないくせして彼女3人も作ろうとしてる人はちょっと……」
「クゥッ!」
清洲はいい加減横の2人の冷たい視線に気づいた方がいいよ。めちゃくちゃ冷めた目してるよ。

「そうだ、名前は3人の中なら誰がいい?」
「ゲッ」
「ゲッとは何だ、勿論完璧な私だろうな」
「一乗谷圧迫面接はやめてほしいな〜花隈も笑いながら怖い質問しないでほしいな〜」
「そんなに悩むことじゃないよ?直感で」
「圧迫面接の中で直感はだいぶバイアスかかりますけどね」
改めてベランダを見上げても、三者三様それぞれ違う色柄の浴衣がよく似合っている。私には選べないけど。大人っぽく見えるし。学園の女子たちがこぞってブロマイドを買い求めることだろう。もちろん、一乗谷のは彼を敬愛する部員たちも。


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