それはアイドルの輝き
>>完全捏造P of thePの話
>>まじめな顔してパッションの話を延々している
「よく飽きずに毎日争ってますね」
「そうだな」
「天ヶ瀬さんはよくもまあ、飽きずに毎日カレーですね」
「飽きてないしな」
「生徒の皆さんも飽きてないのはすごいですよね」
相槌を打ちながらもぐるぐるとかき混ぜる鍋から目を逸らさない天ヶ瀬さんを見て私はぼんやり呟いた。今この学園は3つの勢力に分かれ、日々己のパッションを信じて戦いが繰り広げられている。事務のお姉さんをしている私や食堂で延々カレーを作る天ヶ瀬さん(こだわりカレーは食堂の人気メニューでもあるからまあそれはそれでいいのだけど)にはあまり関係のないことではあるが。
「この戦いの終着点ってどこなんでしょうね」
「さあな……誰が勝とうと俺はここでカレー作ってられたらそれでいいし」
「はは……相変わらずですね」
天道くん率いる赤のパッション、生徒会長の鷹城くん率いる青のパッション、若里くんを中心とした黄色のパッション。それぞれが入り乱れて日々争うために学校の壁が崩れたり校庭の整備が必要になりそれに胃をいためる私(予算)や山下さん(労働担当)の身にもなってほしい。食堂が侵されなければそれでいい天ヶ瀬さんは我関せず(実際困ってるところには手を差し伸べずにはいられないのだろうけど)といった態度を取っているけどこの激化する抗争をいつまでよそ事だと思っていられるのか。彼の大事な鍋が被害に遭う日もいつか来るような気がする。
「本日のランチ、2つもらっても?」
「保健室持ってくなら皿戻しに来いよ」
「わかってるって」
まだお昼前の授業中なのに食堂に入ってきたのは保健医の伊集院先生。保健室登校の子とご飯を食べるのだろう。天ヶ瀬さんも慣れていて、あっさりトレーを2つ揃えた。伊集院先生はそれを待つ間に本日のカレーを食べている私の元に寄ってきた。健康的で朗らかとした笑顔はいつ見ても元気をもらえるちょっと胸元開きすぎだけど)(どこで買ってるんだろう)。
「冬馬と密会ですか?」
「そうなんですぅ」
「ちげーよ!名前さんも乗るんじゃねえ!」
「なんだい冬馬、少しからかっただけじゃないか」
「そうですよ、こんな殺伐とした毎日なんですから少しはおちゃらけないと息が詰まりますよ」
伊集院先生が視線を校庭に向け、憂うように視線を下げた。まだ授業中にもかかわらず、血気盛んな生徒たちが血で血を洗う闘いを繰り広げている。
「本当にいつ終わるんでしょうね……皆同じ学校の仲間なのにあんなに傷だらけになって、」
校庭にはスケートボードで滑空する御手洗くんが見えた。着地の衝撃で周りの学生が散り散りになる。皆決死の表情ながら生き生きとして見えるのはなぜだろう。御手洗くんは知っている。見聞きする限りではめちゃくちゃワルだけど事務室でひたすらに書類を作成したり処理している私のところにしばしば遊びにきては雑談をしておやつを一緒に食べて去っていく。情報収集のつもりなのかもしれないけれど私はこの争いとは完全に無関係だからきっと何も得られてないだろう。いつか毎日楽しい?と聞いた時に、満面の笑みですっごく楽しいよ!と答えてくれたけど彼の真意も私にはわからない。
「彼らがあんなに執着するパッションとは……一体何なのでしょうね。学生同士傷つけあって、本当にこの学園に必要なものなのでしょうか」
「それは、」
私の言葉に天ヶ瀬さんが口を挟むも顔を背けてなんでもない、と片付けられてしまう。
「パッションは」
振り返ると、伊集院先生がカレーが乗せられたトレーを持ってにっこり微笑んでいた。いつもと変わらない健康的で優しい保健の先生の笑顔なのになぜだか寒気がした。
「必要なものですよ。彼らにもこの学園にも」
「はあ……」
「北斗、早く行けよ。せっかくのカレーが冷めちまう」
「そうだな。じゃあ2人ともまたね」
「はい」
「皿返しに来いよ」
「そんなに言わなくてもいつも返してるだろ?」
伊集院先生は肩をすくめて保健室に帰っていった。もちろん俺にもね、去り際に意味ありげに寄越された視線と言葉に背筋が震えた。ただ者じゃない、あの人は。
気を取り直して残りのカレーをたべよう。ところでこの食堂にはいささかカレーのメニューが多すぎるのだけどそれは食堂の長たる天ヶ瀬さんの権限の問題だから余程のことがない限りこのままだろう。
「パッションは」
「はい?」
「あんたみたいなやつが関わっていいようなものじゃない。俺たちが」
自ら声を発したくせに天ヶ瀬さんは鍋の中身から視線をはなさなかった。俺たちが、なに?聞こうとしたけどゆっくりと向けられた視線に言葉が出なくなった。
「パッションは俺たちが……この手で掴む」
おたまを握る天ヶ瀬さんの目は静かだったけど目に宿る何かは暴力的に荒れ狂っていた。ああ、この人も、ただの食堂のお兄さんじゃないってことね。生徒のみならず学園じゅうを狂わせるパッション。ああ全く。パッションっていったい何なのよ。
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